2話
「やばい、最悪だあ...」
ホームルームでの席替え後、帰路についた僕は突然の急展開に嘆いた。
何が最悪って、湖ノ鳥が隣にいることで休み時間の”ドキドキ日替わり風水タイム”に僕も巻き込まれる可能性が高くなる。周りがガヤガヤしてるのに僕だけ輪に参加しないのも冷めた目で見られるし、かといって毎時間席を外すのもしんどい...。我慢して次の席替えまで耐えるしかないのか...。
ハズレしかない選択肢を前に大きなため息をついた僕は、西日の沈む方角を歩くにつれてうなだれていく。
「あれ?椿くん!」
今日初めて至近距離で聞いた澄んだ声が、突然背後から聞こえてくる。僕は俯いた顔を一瞬で上げ振り向いた。
「湖ノ鳥...さん」
...!やばいな。めっちゃテンション低い顔見られたかも。いやでも後ろからだったし大丈夫かーーー
「めちゃくちゃ下向いてたけど大丈夫?首座ってる?」
ダメじゃん!
「ああっ...!全然大丈夫!...ほら!影踏みたくなるときもあるじゃん!」
何を言ってる?
「えっ...影?背中側に伸びてるけど...踏める?」
まじで何を言ってる?僕?
思考が止まり固まった僕を見て、湖ノ鳥は沈黙を破るように吹き出した。
「ぷっ...!あはは!意外と冗談言うタイプなんだね椿くんって!」
閑静な住宅街に無邪気な笑い声が響く。
僕はどうしたら良いか分からず、一緒に愛想笑いをすることしかできなかった。
「...はぁーおもしろい。いっつも休み時間怖い顔でこっち見てるから怖い人なのかと思っちゃった」
あーーやっぱ顔引き攣ってたーーーー!てか見てるのバレてたの恥ずかしすぎる!占いとかに夢中で気づいてないと思ってたのに...!
「ぜ、全然怖い顔なんてしてないよ!湖ノ鳥さんの勘違いじゃない?」
「勘違いじゃないよ!だって毎回だったもん!この人には関わらないでおこ!って思ってた!」
「うっ...」
湖ノ鳥の意外な攻撃力の高さに思わず声が漏れてしまった僕は、もう言い訳を考える体力も上辺を取り繕う気力も残っていなかった。
「帰り道こっち?」
「うん...」
「私もこっち!」
「うん...」
「今まで一回も会わなかったね」
「うん...」
「今日会うなんて運命かな??」
「うん......ん!?」
隣を歩きながらケラケラ笑う彼女を見て、ついに僕も笑ってしまった。
「あははっ!湖ノ鳥さんって結構Sなんだねおもしろい。でもその運命とか占いとかやめなよくだらないから」
振り返れば、この時の僕は湖ノ鳥にイラついていた。というより、意外と無神経な彼女を前に、こいつなら八つ当たりしてもいいかと思ってしまったのだ。僕は自分がした恥ずかしい思いを払拭するように、大人気なく本心を吐き捨てた。
急にトーンを変えたからか、湖ノ鳥はきょとんとした顔をして僕を見る。
しかしまたすぐに表情が戻り、
「やっぱり!?椿くんこういうの嫌いだと思ってたんだよね〜!てかそっちが本物か!いいね!」
決死の反撃はあっけなく交わされ、気づいたら毒気も抜けていた。
この時僕は、目の前を歩く”湖ノ鳥 四葉”という新種の生き物に興味が湧き始めていたが、それを自覚するのはまだ先のことである。




