第7話 朱鷺野鏡花、現る
保津峡の戦いから数日後——
帝国中央機関庫は急ピッチで修復されていた。
だが、整備員たちの表情には、まだ黒龍との戦闘の緊張が残っている。
烈は会議室で図面を広げ、幹部たちに告げた。
「黒龍は倒したが、敵の本体はまだ残っている。朱鷺野鏡花——奴が直接動く可能性が高い」
つばめは椅子から立ち上がる。
「なら、私たちも前に出ます」
鈴音も力強くうなずく。
「今度は攻めて迎え撃つ」
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その夜。
丹後半島沿いの廃駅に、ひとりの女が立っていた。
朱鷺野鏡花。
黒い和服に赤い帯を締め、足元には数体の蒸気亡霊機関車がひざまずいている。
「黒龍を失っただけで勝った気にならないことね」
鏡花は、かつて駅のホームから突き落とされた日の情景を思い出す。
鉄の車輪、止まるはずの列車、耳を裂く汽笛——
その日から、彼女の時間は止まっていた。
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翌日。
帝国一号の試運転列車が、若狭湾へ向けて出発した。
乗務員は烈、つばめ、鈴音、そして整備士として静。
沿線は穏やかな海風に包まれていた……はずだった。
——ゴォォォォン!
突如、霧のような黒煙が線路を覆い尽くす。
その中から現れたのは、鏡花自身。
白い顔に紅を引き、両手には光る刀——
刀身には古い連結棒の金属が打ち込まれていた。
「あなたたちが“帝国”の心臓ね」
鏡花の声は、笑っているようで、泣いているようでもあった。
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つばめがブレーキを引き、列車は急停止。
烈は列車の前に立ち、刀を抜く。
「朱鷺野鏡花……ようやく姿を見せたな」
その瞬間、鏡花の背後から二体の亡霊機関車が現れる。
片方はかつて戦時中に解体されたD51の残骸、もう片方は名前すら残らぬ古い貨物機。
両者の煙突から、龍にも蛇にも見える黒煙があがる。
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「行くよ、鈴音!」
「了解、姉さん!」
鈴音が火室に薪を投げ込み、C62の煙突から白蛇の煙が伸びる。
鏡花はそれを見て微笑む。
「それ……黒龍を殺した煙ね。いいわ、直接斬ってあげる」
白蛇と黒煙、刀と刀——
若狭湾沿いの線路で、帝国と亡霊の戦いはついに人間同士の斬り合いに突入した。




