第6話 白龍、翔ぶ
夜明け前の帝国中央機関庫。
前夜の黒龍襲撃で崩れた壁は、まだ修理の手もついていない。
烈は転車台の中央に立ち、工場全体に響く声で告げた。
「黒龍は必ず戻る。それまでに——白蛇を進化させる」
静は設計図を広げ、煙突から放出される蒸気圧を二倍にする新弁の設置を指示する。
「今回は“煙”じゃない。蒸気そのものを刃にする」
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同じころ、保津峡の山中——
黒龍は再び蒸気を吸い込み、その胴をより太く、より黒く変化させていた。
朱鷺野鏡花が、まるで子守唄を歌うように呟く。
「今日は完全な姿を見せてあげる……帝国に」
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昼過ぎ。
遠くから、地鳴りのような低音が響く。
黒龍が再び線路を伝って現れた。
今回は翼のような蒸気のひれを広げ、空を滑るように接近してくる。
「来たぞ!」
烈の号令で、つばめと鈴音はシロクニを発車させる。
新たに搭載された白龍噴射弁が、初めて唸りを上げた。
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——シューーーッ!!
白蛇の形を超え、巨大な龍の蒸気が空へと昇る。
それは白龍。
体は薄く透き通り、日の光を反射して銀の刃のように輝く。
黒龍と白龍が空中で絡み合う。
蒸気同士が擦れ、爆ぜる音が雷鳴のように響く。
地上では烈が再び刀を抜き、黒龍の尾を断ち切ろうと機関庫屋根へ駆け上がった。
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「鈴音、圧をもっと上げろ!」
「了解!」
火室に薪が放り込まれ、白龍の動きが一気に鋭くなる。
白龍は黒龍の首筋を噛み、蒸気を吸い上げた。
黒龍の体は徐々に細くなり、やがて烈の刀が首元を一閃——
ズガァァン!!
黒龍は黒い霧となって散り、保津峡の谷間へ消えた。
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静寂。
シロクニの煙突からは、白く澄んだ蒸気が立ち上るだけだった。
「……勝ったの?」
鈴音が息を切らして問う。
烈は刀を下ろし、空を見上げた。
「いや——鏡花はまだいる。これは、ただの前哨戦だ」
その頃、遠い廃駅で鏡花は微笑む。
「白龍……いいわ。じゃあ次は——私自身が行く」




