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私だけが村人のスローライフ  作者: プロット・シン
第一章【村人発見】
9/14

life 9〔天はただ偏に薄ら笑う〕

 一夜が明けて昨日の事を思い返す。


「アヤネ様、お世話になりました」


 護衛騎士のシロさんが物悲しく、告げる。

 朝唐突の迎えで去る事となった経緯、その後ろ姿が今も心に残る。

 何故? とは聞かなかった。

 この世界にはいくつもの立場があり、皆がソレに準じて生きているからだ。

 きっと何かしらの理由があり、それは私の素性では関わりようも無い。と解釈。

 願わくば彼、もとい彼女が満足できる人生であってほしい。

 そう祈り事しか“私”には出来ない……。


  …


 日々の洗濯、村人にとってそれは充実しない不変の達成感である。

 ふぅ。――後は干して終わりだ。

 洗濯物の入った籠を持ち、立ち上がる。

 と不意でもないが、先日からちょこちょこと始まった会話が近くの木、上方から突如として投げかけられる。


「随分派手に戦ってるみたいだが、そろそろ決着かもな……」


 木の幹や枝に身体を預けて片足はブラブラと――レイジ君、今日も生業に準じ様になっている。とかは本気で思ってはいない。

 本当イツになったら何処ぞに行くのやら……。


「……まるで見て来たみたいですね?」

「ああ、たまに近くまで行って見てるぜ」


 そうなのか。


「戦況はどうですか……?」

「正味、人類(こっち)の分が悪いな」


 なるほど。


「初っ端にハシャギまくったからな、気持ちは分かるぜ」


 ……。


「皆、自分に飢えてる。他者に対する承認欲求とは違う、自己の存在欲求ってな感じで」

「――アナタは違うの?」

「いや、俺も同じさ。けど戦場に盗賊の居場所なんてねーよ」


 そうだろうか? 色々と、火事場泥棒とか……ね。


「今は表舞台の連中が躍起になって自分を輝かせてる、だがそれが戦いの躍動どころか終末への片道切符だって、分かっても、止められねーんだ……」


 そういうモノなのか。


「そういやー先日アヤネ様と一緒に居た騎士さんを見かけたな」

「シロさんを? どんな様子でしたか……?」

「……――どうだろうな、随分と追いやられてたからな……」

「それって要するに、ヤバいってコトですか?」

「まあそうだな……ヤバいんじゃないか?」


 ――なるほど。


「レイジく、さん――、一つお願いしてもいいですか?」

「ぉ?」


 どの道この道、勝敗に関わらず私の道など独断の上には無い。なら、他者の手を借りるのは村人の――定め、だよね。


  *


「魔王様、前線の拮抗は崩れ人間共は各地で最終手段を講じております……。魔王様の、仰られた通りに」

「――実に愚直だな。さぞかし高揚しているコトであろう。で、我が軍の被害は?」

「ハッ、ご命令通り幻惑魔法を交えて誘発しておりますので、予兆を確認次第後退を繰り返し被害を最小限に抑える事が出来ております」

「そうか。ならば頃合いを見て、我も戦地に赴くとしよう」

「ェ、魔王様が直々にですか……? 行かずとも我ら側の勝利は目前に思われますが」

「フン。キサマ、我に指図するつもりか?」

「いッいえっ、――失礼いたしました! なにとぞお許しくださいッ!」

「……――非思考型は口を慎め。よいか、我らの勝利が人類の殲滅と言うのであれば今日び易い。しかしその様な根絶やしは未来永劫興を失う事となる、それでは我らの存在そのモノが無用と化し仲間割れも起きよう。故に――残すのだ、絶やさず狩り切らずその上で恐怖だけを植え付けて……」

「……ハッ、魔王様の御心のままに――」

「ならば行け、そして人類を追い詰め。奴らの命を賭した輝きを嘲笑い尚も掻き立てろ」


 ――魔王が笑う。その内に含まれる闇は同じ魔を以ってしても恐怖する、畏敬の念を抱かせる狂気に満ちて。


  *


 元居た部隊は既に散り散りとなり、実質の壊滅。

 なんとか後退しながらも生き延びた腕に気付けば見知らぬ腕がぶら下がっていた事に気付く。と同時に嗚咽しながらその場で崩れ落ちた。


「ぁぅ、……ぅぅ、ッぐ!」


 戦場。戦場、戦場――何処に目を向けても命の跡が散らばっている。

 あれ? ボクは何のタメに戦っていたのだろう。


「よォ、オマエも……まだ生きて、たのか……」


 おののく身体がビクリと跳ね、不安と恐怖に満ちていた瞳が捉える新たな戦慄に瞳孔は大きく、更に見開く。


「もう直ぐ、ここも……早く、逃げたほうが……いいぞ――」


 ――そう言い残し、ボトボトと押さえていた命と共に人の体が零れて地に落ちる。

 目の前で消えた微かな希望の光。

 最早自らの足で立ち上がる気力を失い、ポカンと青に澄み渡る空を見上げる騎士の方へと魔物の集団が近付いて来る。

 そんな折、背後の草むらから伸びる手が騎士の口と血に塗れた甲冑を掴んで引き摺り込む――と抗い掛けた意思に耳元で呟く。


「静かにしろ……」


 人の発した言葉。ただそれだけで安堵し闇雲に動く事を止める。

 直後今し方放心状態で座り込んでいた茂みの向こうから改めて感覚を張り詰める音が無数に、――過ぎて行く。

 終わり無く続くかと思われたその音が次第と遠く、離れて行くのを身動き一つ呼吸すらも忘れて、遂には限界に達した時、燃える様な空気が肺から排出され終わりを告げる。


「――ッハ! ハァー……ッァ!」

「……どうやら、助かったみたいだな……」


 なんとか眼だけは背後の人物に向くものの、まだ安定しない呼吸を繰り返し、声に成らない疑問の心が必死と相手に思いを通ずる。

 と、やや面倒臭いとも取れる表情をして、青いローブを着る盗賊は口にした。


「勘違いするなよ……、俺はアヤネ様に頼まれて来た。それだけだ」

「……アヤネ様? ナゼ」

「知らねぇよ。俺はただアンタがヤバそうだったら助けてあげてって、そう言われたからやった。けど約束したのは一回だ、次はもうねーぞ……」

「約束? ……何の約束ですか?」

「まぁ取引みたいなモンだよ。大した内容じゃねー。分かるだろ? 言わなくても……」

「――……そうですか」


 結果さてと、自らの仕事を終えた盗賊は意気揚々と、周囲を警戒しつつ立ち上がる。


「あとは自分でなんとかしろよ、俺はさっさと高みの見物に戻る」

「……――キミはどうやってここまで?」

「ヘ、盗賊には盗賊なりの抜け道ってのがあるんだよ。高貴な騎士様には使えねー、蛇の術ってヤツさ」

「……ボクはそんな、高貴な立場じゃないですよ」

「ナニ言ってやがる? 騎士ってのは立派な職業だろ、それとも嫌味のつもりか?」

「嫌味だなんて、そん――」

「ぁ?」


 ――押し退ける。直後、盗賊の居た空間を貫き木に突き刺さる一本の矢。

 後寸刻でも遅ければ胸部を貫き即死していた可能性を視野に、盗賊は騎士の視線を追いかけ振り返る。

 其処には先ほど通過したのとは別の群れが、ゾロゾロと集合しつつ自分達の方へ向かって闘争心を剥き出しに轟き進軍する姿が。


「マズい……、おい逃げるぞっ」


 しかし騎士の首は縦ではなく、横に振るわれ。


「バカッ何カッコつけてんだよ! 命あっての物種だろうが!」

「いいんです。これがボクの天職なので……」

「――……オマエ」


 同様。胸の内に秘めたる想いは例外無く、生き方に準ずる。

 ならば次なる盗賊の行動は――職務、故なのか。


「俺は死ぬ気なんかねーぞ……」


 不確かな決意。自分でも何故そうしたのかは分からぬままに短刀を構える。


「何をしてるのですか……?」

「知るかっ、俺だって分からねーよッ」

「だったら早く逃げてくださいっ、ここは――ボクが守ります!」

「分かってるっ、分かってんだよ! ゴチャゴチャ言うなッ!」

「それなら早くっ」

「煩――」


 端から、そうなるコトは理解していた。

 ただ時折り夢を見たのだ。

 魔物に対して正面から向き合う人生を、時々。


「……っ!」


 刹那、何を言っているのかは分からない。でも言いたいコトは分かる。

 これが俺の、結末だ。


「――ッハ! ……――ァ?」


 遅延していた感覚に意識が再び流れ出す。

 ……俺は、生きてるのか……?

 そして我に返り。と即座に感じた背後の死へと振り返る。


「何者だ? 見知らぬ人の子よ。アヤネの匂いがするからと来てみたのだが……。眷属とも、見えぬが……」


 不思議がる表情をし二人の姿を見据える。

 その後ろには大柄の魔物と、その巨大な棍棒を軽々しく手で押し止める様。

 されども魔物の脅威など意に介す素振りは微塵も無く。

 まるで散歩中に偶然見つけた野花の名を思い出したかの如く窮地で喘ぐ二人に表情を緩めて、述べる。


「そうか、さてはキサマらは“友人”と言う奴ではないか? どうだ?」


 返答はない。

 しかし困惑は続いている。

 結果ついに、驚き見開いていた騎士の口から何よりも理解し難い人物像の疑いが漏れ出る――。


「――……子供?」


 二人の目に映るのは紛うことなき子供の立ち姿。

 そしてその髪は陽の差す日中においても細く美しい月光色の輝きで靡き、薄らと笑う。

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