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私だけが村人のスローライフ  作者: プロット・シン
第一章【村人発見】
7/16

life 7〔一日の終わり、それは庶民にとってただの温かい水〕

 そもそも私はこの村に居たいのか?

 ――諦めて、伸ばしかける手。

 けれども。


「……卑怯な気がします」


 言ってしまう。前世の時から変わらない、私の悪い癖だ。


「何の事だ?」

「アナタは自分の勝手都合で私を連れて行くのに、皆は何も知らずに唖然とするだけ。それって、卑怯ですよね?」

「ふむ。なるほど、つまり貴様は外で(たむろ)う者達にも活躍の場を設けるのが礼儀である。と申したいのだな?」


 そういうコトなのかな。

 正直なにを伝えたいのかは自分にもよく分からない。


「――いいだろう。確かに貴様の言い分には一理ある。口惜しいが神などと言う創造者気取りのモノが施した呪いはこの世の理としてすべからく存在する。志の無い有象無象と言えども生有る者に対し、魔王らしからぬ振る舞いであったと言えよう」


 出来れば端的に申してほしいなー。


「で、あれば――我が魔王軍を率いて正面より再度、迎えに参るとしよう」


 ぇ。それって……。


「……あの」

「故に次こそは否応無しに連れて行くぞ、また会おうアヤネよ」


 ぁ、ちょ。

 ――またクルクルっと渦を巻き、この場から消えてしまった。

 ええと……。

 もしかすると、私は現状。


「アヤネ様!」


 護衛騎士が慌て、寄って来る。

 恐らくは術者が居なくなり縄が解けたのだろうと。


「お許しください! ボク、何も……ッ」

「いいんです、気にしないで……」

「でも、アヤネ様の機転でなんとかなりましたね!」


 何とか? どうも、まだ正しくは理解が出来ていない様だ。


「……大変なのは、これからだと思いますよ」


 ェと顔の動きが止まる騎士さん。と直後に文字通り慌てた様子で玄関から飛び込んでくる伝令が一人、息を絶え絶えに声を上げる。


「デ伝令です……っ! 村、前方に突如として――、魔物の群れが現れましたッ!」


 やっぱり、そうなるのか。


「直ちに迎撃体勢を、整えて、迎え撃ちます……!」


 とりま落ち着きなさいよ。と思いつつ、自身も深く呼吸をする。


「分かりました。申し訳ありませんが、あとで偉い人をこちらにお願いします。お伝えしなければならない事がありますので……」

「――ハッ、かしこまりました! アヤネ様も十二分にお気を付けてください!」


 どうもと一礼をする。

 さてと、今後どういう成り行きになるのかまでは分からないが、私自身が招いた事態。

 ……なるべくなら穏便に済ませたい。


  *


 小さな村を取り囲む人の群れ。

 近隣にまでも及ぶらしき、その愚鈍の集団を見――フンと漆黒の魔王ことトキは一笑す。


「集い集い醜き欲の塊よ、哀れなり」


 自らが指揮する軍の最後方その上空にて、浮遊する。魔王の所に、従属する鳥獣の魔物が近付き一礼とし首を垂れた後、告げる。


「魔王様、ご命令通りに透明魔法を解き軍列を整えました」

「では先ずは正面からブツケ戦闘を開始しろ」

「ハッ」

「その後ある程度の時を経て出撃させた者達を下がらせろ、それで相手の前線は突出し左右に隙が出来る」

「――さすがは魔王様です、それで人間共を挟み込む作戦ですね」

「フン、奴らとてその程度の事態には備えはあろう。だが、それでよい」

「……と言いますと?」

「花を持たせてやるのだ。奴らにとってはそれが最も芯に迫る打撃となろう」

「……?」


 魔王は笑う。

 これは戦ではなく、人生を投げ打つ価値のある劇にしなければならない。

 己が命運を賭け、果たし、満足した時こそ――我が演出は脚光を浴びる。


「さあ開演の時だ。天命の楔に縛られし者達よ、我が舞台で情熱をもとに散るがイイ」


 時は村人が誕生してから十六年後の春、長きに渡る平和の終わり魔族と人類が再び戦火の中で血を燃やす。


  *


 ――本来戦とは避けるべき事のはず、なのだが。


「我が隊は前線にて小一時間魔物の襲撃に耐えておりましたが善戦虚しく他の隊と交代となりました……ッ」

「お疲れさまでした」

「そのようなお言葉をいただけて、皆感無量です!」


 ――そして一礼。くるりと回り、次の方が目の前にやって来る。


「我が魔道隊は前線部隊を支援魔法で支え、大きな成果に貢献しておりました……」

「縁の下の力持ちですね、引き続きよろしくお願いします」

「ぁぐ、滅相もございません……!」


 ハイ、くるり。

 次は凄まじい応急手当の跡が目に付く三人組が登場する。


「我らは衛生兵として戦場を駆けずり回っておりましたが、ひょんなことから所持していた包帯が絡まり合いやむ無く戦場から離脱して参りました……っ」


 髪の毛に絡みついたガムかよ。


「……少々お待ちください」


  …


 ――その後も数時間にわたり続く戦場からの帰還者、その報告が鳴り響く陣太鼓の様な音の後に、ようやく終わる。


「アヤネ様お疲れさまでした」


 護衛騎士のシロさんがにこやかに述べる。

 ぁぁ……。


「――アヤネ様? どうかされましたか……?」


 足が棒のように感じる。


「アヤネ様……ッ?」


 ふッ。


「アヤネ様ーっ」


  *


 疲れとはお湯に流れ出ると、私は思う。


「――アヤネ様、体調の方は如何でしょうか……?」

「大丈夫です、持ち直しました。ご心配をおかけしてスミマセン」

「い、いえ、ボクは……、――そ、外を見張っておりますのでっ、何かあれば直ぐに声をおかけください!」

「ありがとうございます、シロさんも無理をなさらずに」


 とまあ、社交辞令はそんな感じで本格的に湯船を堪能する。

 本当に何も無い村だが、小さな窓から見える美しい夜空と風呂。これさえあれば一日の疲れなどエリクサー並に解消される。

 ああ、風呂よ。月が綺麗で、ああ風呂よ。

 なんて詩人っぽくなってみたりして。


「あ、あの、アヤネ様……?」


 おっと。


「はい、何ですか?」

「申し訳ありませんっ、折角おくつろぎなさっているのに……」

「構いませんよ」


 まあ言うて同性だしな。


「えっと、その……昼間の事なのですが」


 ああ。何を言いたいのかは直ぐに察しが付く。が。


「はい? 何でしょうか」

「……なんとお詫びしていいのか、不甲斐ないです……」


 ふむ。


「気にしないでください、結果的に無事には済みました」

「それは全てアヤネ様のおかげで……」

「そんなコトはないですよ。シロさんが居てくれたおかげで落ち着いてました」


 正味関係ないとは思うけどね。


「……でも護衛騎士としては、何も出来ていません」

「次、頑張ればいいと思いますよ」

「――、……そうですね。次、があれば……」


 ? なんというか、思いの外本人的にはダメージがデカかったというコトだろうか。


「いずれにしても明日がありますよ」

「……そうですね」


 そして明日もまた、地獄の立ちんぼなのだろう。

 ――念入りにふくらはぎをマッサージしておこう。

 ふと。


「そういえば、甲冑って用を足すのに不便しませんか?」

「……ェ?」

「激しく動く時とかも、痛くないですか?」

「あの、アヤネ様、急に何を」

「着替えは、男女別?」

「そんなっ一度に急に聞かれてもッ」


 しかし湧き起こった疑問は後を絶たない。


「まどろこしいのでシロさんも一緒に、入って来てください」

「アヤネ様ッ?」


 ここだけの話、内心では同年代の知人が出来た事を喜んでいたのだ。

 いっそ、このまま友人になりたい。


「来ないのなら、迎えに行きましょうか」


 ザバーっと、湯の中で立ち上がる音を聞かせてやる。


「まっ待ってください! 行きますっ、行きますからー!」


 うむ、苦しゅうない。

 そうして私の生活はまた明日も、私の知らぬところで熱く繰り広げられる。

 果たして村人とは何なのか?

 そんなコトは本当に、どうでもよかったりするー。

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