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life 4〔週末は魔族、ただ来週は魔王再来です〕

 先ほどまでは小鳥もさえずる昼下がりの穏やかな帰り道。が一変し男達の表情は硬く突如として現れた謎の人物を見つめて心が張り詰める。

 それに耐え切れず、最初に悲鳴と思しき声を上げたのは白いローブを着る――(アイチ)


「急に誰だオマエッいきなり現れて訳分かんねえコト言ッ、テ……ェ」


 一瞬の事だった。ドサリと音を立て地面に倒れ込むアイチの姿が、他二人の男からは緩慢な様子で目に映る。


「……――余計な事を言えば殺す、と忠告したはずだが?」


 途端に場の空気が著しく鼓動を速め、静寂なまま自分達を見ている人物の鋭い眼差しが膝をそして恐怖に訴えながら、歩み寄る。

 出たのは辛うじて、立場という面目故のかすれ声。


「行け……」

「――……ェ」

「さっさと行けッ、逃げろッ!」


 緑色のローブを羽織る男は叫ぶ、直ぐ隣に居るレイジへ向かって力の限り。心が止まらぬようにと。


「でも兄貴」

「行けッツ!」


 響き渡る。魂の叫び、その必死な黒い眼から放たれる最大限の指図を受けて、レイジの膝が震えに打ち勝ち悲壮な顔をしてから――走り出す。


「……よし行け。ガンバレ、行け……」


 間近に迫る闇の使者、その姿に心は折れそうにもなる。が手に握るは竹馬の友(ナイフ)


「――時間稼ぎなんて小せぇコトは言わねーぞ。倒しちまうぞ……」


 自分自身を鼓舞する、そんな言葉を握りつぶすかの如く、面を覆う()の影が刹那にして迫り告げる。


「やってみろ」


 瞬間(ほとばし)る、赤い紅い命の最期を握り締めて死者となった肉体が倒れ伏す間に歩み出す。

 途端にズキリと脇腹が痛んだ。

 歩みを止め、確認した所にあったのは今し方役目を終えた男のナイフ。(おもむろ)に抜き取り、ほくそ笑む。


(ネズミ)らしい最期だ」


 紅の瞳、うすら笑う中で塞がる傷口。


「さて、逃がしたのを追うか……」


 陽の光すらも遮る漆黒のローブを頭から肩に落とし、再び歩み出す。

 その頭部には左右へと伸びてそり立つ二本の角。

 指先から滴り落ちる液は事後も、そのままに。

 魔界より赴いた使いは――進み行く。


  *


 思っていたよりも早かったなあと思う。

 というか早過ぎる、さっきのは何だったのかと。


「ニ、――逃ゲロっ!」


 は? 開口一番に何。

 確か初めての時にも居た、色は青で。


「なんかヤベェのがアンタを狙って来るんだ! だからっ逃げろッ!」


 冗談、ではなさそう。しかし――。


「――落ち着いてください。ヤベーのとは?」

「ヤベェもんはヤベェっ!」


 全く話にならんな。

 それだけ焦っている証拠なのだろう、けど。


「どんな見た目ですか?」

「ェ、ぁぁ……目は真っ赤で、真っ黒いローブを着てた……」


 今日はローブが多いなぁ。


「ありゃあ完全に死神だ、見つかる前に早く逃げないと大変なコトになる……」


 ふむ。


「ちなみになんですが、頭に角は生えてましたか?」

「ツノ……? いや、布で隠れてたから……」

「じゃあ、あの人は違いますか?」


 自分が指し示す先、目の前で青いローブの男が振り返る。

 と同時に小さな叫び声を発して尻もちをつく。


「見つかっちまったッひぃ」


 なるほど、この方なのね。

 確かにもの凄くヤベー雰囲気が、プンプンしてらっしゃる。




 一瞬視界が歪んだ様にも見えた。

 気付くと対話するには適切な距離まで、死神とやらが接近していた。

 思わず上がりそうになった声を押し込め、その真っ赤な瞳と対面する。


「貴様が村人で間違いはないか?」


 そして、ハイ。と答える前に、地に落ちた男が自分よりも先に言葉を発する。


「アっ兄貴はッ? 兄貴たちは……!」

「……――兄貴とはさっきオマエと居た男の事か? アレなら処分した。確認したければ好きにしろ、既にオマエの役目は終わった後だ。ま、行ったところでただの肉塊が転がっているだけだがな」


 そう言うと何かが座り込む男の方へと放り投げられて地に突き刺さる。

 ソレは見に覚えのある、鋭利な絆の記憶だった。


「これって……兄貴の」

「ただの鼠が持っていた物にしては上等な代物だ、我が肉体を僅かとはいえ傷付けたのだからな」


 おいおい、コイツはただゴトではない感じの状況だぞ。

 ようやっと理解したところで既に遅しだけども。


「――話を戻そう。して娘よ、貴様が村人で間違いはないか?」


 突き立った思い出の短刀を見つめて放心している男など意に介さず、巻き戻る初対面のご挨拶。こうなったら庶民に出来る事は、一つしかない。


「えっと……どちら様でしょうか?」

「そんな事は――……イヤ、先に名乗るべきであったな、失礼。我は大魔王直属の魔王、西魔界を統べる者、名をモトキセ。漆黒の魔王トキだ」


 情報がゴタついてんなー。

 まあ、ともかく――。


「――魔王トキさんですね。私はこの村に住んでいます、アヤネです」

「ほう、アヤネか、良き名だ。そして今の言葉からして貴様が噂の村人で間違いはなさそうだな」


 一体巷ではどんな噂が流れているのか……。


「単刀直入に申す、アヤネよ我と共に魔界へと来い。無論悪いようにはせんぞ」


 まさかの魔界に招待。――しかしながら、だ。


「申し訳ありませんが、私は村外には出れません。お引き取り願います」

「天命の楔か、つくづく無粋な神共だ」


 今度は天命か……。


「よかろう、それではその忌まわしい呪縛を解き、貴様を解放してやろう」


 何だと……? そんなコトが。


「それではまた会おうぞ、アヤネ」


 ェ。


「……楔とやらは?」

「今日のところは解決する手段は無い。一度魔王城へと戻り、週明けの同刻に再び訪れよう。それまではくれぐれも安全に暮らすが良い、ではさらばだ――」


 ――シュシュンと、ローブが一瞬にして渦を巻き細く長く最後には何も残さずに消える。

 なんじゃそら。

 結局なにしに来たんだよ、わざわざ。


「……兄貴」


 おっと、まだ未解決の問題が一人放心したままだったのを忘れていた。

 とはいえ、――うーん、どうしたものか……?


  …


「アヤネ様の所へと向かう途中と告げましたらば、お供したいと申しまして……」


 思いがけない見知った聖女の来訪、その後ろにはバツが悪そうな顔の二人が立っている。


「兄貴……ッ! ――何で!」

「いや、それがだな……気付いたら、この聖女(カタ)に命を救ってもらって……」

「わたくしはただ回復魔法で怪我の治療をしただけです。傷も見つけた時点で、かすり傷程度のモノでした」


 なんじゃそりゃ。


「ですが……少々気になるのは魔族特有の痕跡です。おそらくは幻惑魔法の類いかと思われますが。――アヤネ様、何か心当たりはございませんでしょうか?」


 あぁそれはもう、あるでしょう。




 ――てな訳で知ってる限りの説明をいたしました。ところ。


「そのようなコトが……。これは一大事です」

「……一大事?」

「はい。村人であるアヤネ様の身に危機が迫っております、これは一大事です!」


 そうなの……? 事態を殆ど把握できていない。


「こうなった以上、わたくしは至急王都へ戻り王と掛け合い軍の派遣を要請いたします」


 軍ッ?


「まっ待ってください、私はただの村人です……軍を動かすとか、さすがに……」

「いいえ、魔族が村を襲い、あまつさえ村人であるアヤネ様を狙っているのです。これは国家総力を挙げて守らねばなりません……!」


 普段の人口密度たったの一人しか居ない村なのですが、というかそれは本当に村なのか。


「それではアヤネ様、わたくしはいろいろと準備がございますので今日のところは早々に戻らせていただきますが、ご安心ください。アヤネ様の身は必ずやお守り通すとお約束いたします、この身に替えても」


 替えるなよ。こちとら一万人居たって聖女の代わりにはならん庶民だぞ――。


「ぁ、ちょっと」


 ――とか思ってる間に、そそくさと行ってしまった。

 見るからに気合いが入ってたなー。

 まぁなんて言うか、いつになったら私はスローライフを楽しめるのだろうか……。


「兄貴ー!」

「レイジー!」


 はいはい、良かったね。ハァ……。








  週末は魔族、ただ来週は魔王再来です/了

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