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私だけが村人のスローライフ  作者: プロット・シン
第一章【村人発見】
20/20

life 20〔行列のできる一般的な事件現場〕

 連れ去られた。というよりも、自主的に付き従った感覚で相手側で準備されていた馬車に乗る。際は周囲で見張られていたものの拘束に関してはハンズもフリー。

 まぁ、それも仕方がない。

 一度吐き始めるとスイッチが入った様に、ダラダラと歩く酔っ払いの介助をしなければならず。誰も、触れようともしない……。

 てか一気に出し切れよ。と、何度も酸っぱい思いをする中で私を見る眼は同情すらも感じ、ようやく腰を下ろせる場所まで来た時にはともなう目隠しの時に。


「……先に何か飲んでおくか?」


 お優しい口調で気遣われ、感謝しつつも。


「今はヤメておきます……」


 そうか。と、僅かに空いていた隙間が緩やかに塞がる。

 目隠しをして何も見えない状況。耳だけは、まだ。


「――ぅッ」

「――。……すみません、耳もお願いできませんか?」

「……分かった」


 私は耳と目を閉じ、孤独になろうと思った。


「うッぷ」


  *


 ――寝間着のままの大臣、部屋には既に伝令兵が入室している。

 つい一時間前、寝床に入り。眠りにつく、途端の近況――飛び起きたその手には情報を伝達する上で重要な事柄が記載されている紙、を握り締める。


「ナニをやっていたのだ……?」

「ハッ、丁度護衛が交代する時間帯とかち合ってしまいまして」

「そうではない。何故これ程の時間を要したのかという、問い掛けだ」


 ? 伝令兵が首を傾げて、理解の度合いを示す。


「……この報告書には数時間前の時刻が記載されている。何故、発生直後の連絡が出来なかったのかと聞いておるのだ」

「――それは。そうした経緯になった理由といたしましては、各役職が職務を行った上での報告となりますので、相応の時間が」

「急事なのだぞ!」

「ぇ、ァ――ハッ!」


 まごうことなき天職社会の弊害に他ならない。

 如何に職務で溢れる者達が仕事を欲しているのかを具現化した、結果だ。


「ぬぬ、早急な対応を――国宝級の捜索を各機関で行うように伝令を出すのだっ」

「ハッ。――ええと、一つ確認をしてもよろしいでしょうか? 大臣」

「迅速に申せ」

「はい。その、国宝級の捜索と仰られるのは……具体的には、どの様な?」

「文字通り国家ないしは国民の宝を誘拐されたのだ。首謀者ならびに加担した者は厳罰、極刑に処す」

「……極刑」

「分かるな? 此度の事件はこの国にとっての一大事、大国すらも懇願とする国の宝を奪われたのだ。必ずや救い出せ、無論情報が外部に漏洩せぬように、な」

「ハッ」


 急ぎ、行動へと移す伝令兵。

 早急に実務を始めて必要な手続きを想定する大臣の卓越した気迫が、深夜の城内に静かな明かり点す。

 そうして明朝、各機関の連携は凄まじく初速こそ出遅れたものの残された手掛かりはくまなく捜査され後の足取りを掴む事は出来ずとも見事に――、一面を飾る。

 崇高な賢者の功績。百年ぶりに目覚めた神龍のお告げ。それ等を払い除け、大々的に表題となった見出しは――。


『村人誘拐 世界に衝撃』


 ――だった。


  *


 小刻みに震える自身の腕。

 握り締める朝刊が、手汗によってぐちゃりと歪む。


「……ううむ、人類の扱う文字とやらはイマイチ理解ができぬ。白騎士よ、この紙には何と書いておるのだ?」


 ベッドを椅子代わりに、何気なく朝の情報を目にするところまでは平然としていた門衛騎士に背後から取りつく。

 仲の良い、年の離れた弟が姉にじゃれているかの様に。あるいは親子にも見えなくはない。が、シロはそれらの戯れを神に等しい存在が気まぐれで膝に乗る程度の、無礼講に過ぎない指標と、捉えている。

 故に撫で回したい本音をわきわきとして抑え込み……。


「……――神獣様、アヤネ様が誘拐されました……」

「ユウカイ? それはどの様な、食事会なのだ?」

「……食事ではなく、連れ去られたというコトです」

「何者にだ?」

「分かりません……」

「ふむ。つまりアヤネが危険と、いうコトだな?」

「そうですね……」

「ならば連れ戻せば、良いのだな?」

「……できるのですか?」

「我の鼻をもってすれば造作もない。アヤネの痕跡が在る所に連れて行くがよいぞ」

「分かりました……!」


 次いで門衛騎士はベッドから立ち上がり、強く志す。

 ――アヤネ様っ、すぐに助けに参ります! と。


  …


 表通りからは少し外れた飲み屋街。

 普段の流れであれば常連の客を相手にする営業の準備すら始まっていない、朝の時間帯。

 一等に賑わう通りではない為か、出だしはいつも緩やかだ。

 にもかかわらず今日ばかりはひしめき合う人々で道に入る事すら叶わない。

 いや、正しくは連なる人達が通りの入り口から現地へと続く順番を待つ行列で。複数、到達し得る経路全てに枝分かれしている様。

 それはあたかも血液が心臓から送り出されて戻ってくる過程を再現しているかの如く街全体に及ぶ、人の流れ。

 関係する路で生活している者にとっては家から出る事すらもままならない驚愕の長い列。

 道しるべは途中幾人もの交通整理に属する職柄の者達が看板等を手で掲げたりして行っているが末端担当の者には到達するまでに掛かる時間を推測するコトすら、途方もない。

 問い掛けに対し、曖昧且つ不確かな情報で。もはや答えにもなっていない内容を立ち聞きしたシロは、肩車に近い形で自身に乗っている神獣の方へと話す。


「……この感じだと現場を見れるのは、日を跨ぐかもしれませんね……」

「ぅぅ、これほど人が繁殖しているとは。見ているだけで目まぐるしいぞぅ……」

「本当に、……凄いですね」


 しかし真に凄いのは現状を作り出す原因となった存在である。


「ここからの村人様誘拐事件現場へ行く進入経路、最後尾はこちらでーすっ!」


 一時間前よりも更に伸びた。――後続者が未だ増え続けている。

 冗談抜きで日付が変わってしまう、かもではなく現実的に活路が開かない。

 順番を待つ上で如何という話ではない。

 早く――。


「クンクン」


 ――?


「……神獣様? どうかされたのですか……?」


 しきりに鼻と共に顔を動かす。

 スンスンと、何かを頼りにしているかの様な、独特な挙動で鼻を鳴らす。

 刹那自身の頭部が臭っているのかと思った、次の瞬間。


「あっちだ」


 片方の手で真っ直ぐに指し示す。少年の告げる先は、列とは全く関係のない街の方を見ている。


「……あっち? あちらに、何が……?」

「アヤネのニオイがするのだ」

「ぇ、アヤネ様の……? ――でも」


 向かうべき所とは異なる方向。


「間違いない、アヤネ本人ではないが濃いニオイがするぞ」


 本人ではない?

 だとすれば、いったい。


「早く行かぬか?」

「ェでも」


 勘違いだった場合、今日中に着くのは絶望的に。


「ほれほれ、あっちぞー」


 バシバシと急かす少年の足。


「わわっ、――ひぃ」


 後ろ髪を引かれる思い、けれども動き出した足を止める理由はもうない。


「すみませーん、通してくださーいっ!」

「わっはっは、ハイヨー!」






「……ハァハァ」


 指示通りに到着した住宅街の外壁に思わず手を添えて肩で息をするシロからひょいと飛び降りる。

 ――神獣の鼻がフンフンと確かな情報を嗅ぎ取った。


「其処の者、出てこい。速やかにせねば五体を引き裂き、野鳥にでもふるまうとしよう」


 見つめる先は民家の間、細い通路の小さな物陰。

 ほんの僅かな時を置き陰より現れたのは一人の、――忍ぶ装束を着た謎の人物。

 目出し真っ黒な布に身を包む正体不明の何者かが静かな足取りで音も無く、二人の前にやって来ると持っていた手ぬぐいを差し出し、ひらりと垂らしてみせる。

 すると最後の吸引が静寂の中でゆっくりと正方形の布を揺らした。


「うむ、間違いない。このニオイだ」


 確信を込めて告げる。

 だが感覚とは別に、シロの方でも確かな記憶で核心を突く。


「……コレは、アヤネ様がいつもお持ちになっているハンカチです」


 次いで二人の視線が黒い布を纏った何者かに集合する。


「――拙者は敵ではございません。大臣の任でアヤネ様を捜索することとなった、忍びの者です……」


 埃っぽい路地裏、その言葉に応えるように一筋の光が差し込んだ。

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