表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私だけが村人のスローライフ  作者: プロット・シン
第一章【村人発見】
19/19

life 19〔庶民の口から出るのは、ただの〕

 ボクっ娘の多い異世界生活になりつつある、今宵。

 感覚では夜の八時を過ぎた頃。


「うぃー、ひっク、ぉぉ……」


 酔いどれた王様を見つめて、夜空の月に転ずる。

 いったい私は何をやっているのだろう。

 来た当初は久しぶりの都と浮かれていたのに、今は肌寒い夜風に運ばれる路地の埃が目にしみやがる。


「――誰ぞ、誰ぞ、近くに、……居らんのか?」


 アンタも目をやられちまったのかい。

 とまあ、冗談はさておき。


「……居ますけど。何ですか?」


 一応声色で、不満は示しています。


「ぉぉ其方であったな。スッカリと忘れておったわ……」


 マジでドイヒーなんですけど。

「今宵はいろいろと世話をかけておるが、明日は其方の為に時間を設けておる。今夜ばかりはわしを許せ……」


 ――なんだよ。急に。


「取って付けたような言い訳は義理を果たしたとは言いませんよ」

「……フ、相も変わらず容赦のない言葉を使いおる」

「これといった立場がありませんから」


 ソレぞ持たざる者の強み。


「安心せい、機嫌を取る気など毛頭にない。事前の計画だ」


 なら――楽しみにしておこう。


「……だが一つ、予想とは異なる成り行きになってしまった……」


 ェ。逆に、一つだけなの……?


「長らく王座で据えた所為か、足腰がままならぬ……」


 単に酔ってフラつくだけでしょ。

 本当に、この国を支えられているのだろうか……?


「――して、そこの者らは無粋な職柄で、間違いはないか?」


 エっと王の声が向かう先へ、振り返る。

 其処に居たのは文字通り路地裏住民として有名そうな雰囲気を放つ、怪しい三つの影。

 今更ながら、こういうシチュエーションにはおあつらえ向きの路地、だったなと思う。

 そして影の一つが暗い所から差す月明りの下へ。

 何で、わざわざ明るみに出るのかを聞くのは、当然野暮となるので抑える。


「ご名答。で、そっちはベルジック王で、間違いはないな?」


 ご明察とは言い難い推測だったけれども、話の流れを切るのもよくないので自主的に存在を薄くして横へ――下がっていよう。


「そっちの女は護衛か? 見え見えの変装だな」


 待て待て、見た目で性を判断するのはおすすめしないぞ。

 あと自分の何処に誰かを守ろうとする意志を感じたのか、甚だ疑問ではございます。が。

 下手な反応はせず、お静かにしておきます。

 何せ、ただの村人ですから。


「……随分と冷静だな、相当な手練れってコトか」


 お待ちください。


「勘違いするでない。この者は先ほど飲み屋で知り合っただけの、演芸を職とする赤の他人だ。不甲斐なくも座り込んだわしを介抱しておった、ただそれだけの者だ」


 なんか若干指す芸能の幅が広くなった気はするもののさして変わらないので問題ない。と沈黙を守り続け。――背後の状況を顔の向きは変えずに、窺う。

 直ぐそこは未だ人通りの少なくない飲み屋で盛んな横町のメインストリート。

 ――なんとかして。


「逃げてもいいが、自立できない王様の命は保証しないぜ。てかアンタ護衛だろ? 逃げていいのかよ」


 良い悪いの観点で言えば構わないと思う、けれども。

 ……さすがに良心が傷付くな。

 それは出来れば避けたい。

 しかし手立てがないのも事実として、――どうしようもない。


「フ、わしも見くびられたものだな」


 そう言いつつ建物の外壁を支えにしズリズリと音を出して立ち上がる、中年おやじ。

 見かけの状態は期待薄、でもちょいワルなルックスから感じられる雰囲気は意外にも。


「うッ、ぷす……」


 こりゃ駄目だな。

 ――ひとまず無視し。

 悪党であろう者達の方へと視点を移す。

 直後にふわりと前髪が靡く、と同時に月光で輝く刃物の切っ先――を見る。


  *


 宿泊の手続きを済ませて、入室。

 部屋は別に用意されていたが起きた時に状況を説明するのが安易になると判断して自身のベッド、その主な範囲を少年の姿をした月狼に明け渡した後、――どっと寝台の端に座り込む次第から趣旨を外れて半身横たわる結果。

 何もかもが誘われる、睡魔の急襲に反撃の猶予なく――白旗を揚げる。

 眠りにつく僅かな隙間……、従事する責任や心配をかなぐり捨てた純粋な渇きで、その名を口にする。


「……アヤネ、様……」


 意識は途絶える。

 程なく二人を収めてゆりかごとなった宿の上空、まもなく満ちる月の明かりが門衛騎士に一日の終結、静かな終わりを告げる様に薄い雲で遮られて、――淡い光となる。


  *


 薄明かりの月光が流れ、再度鋭く輝きを放つナイフ。

 喉から伝達される突き出された情報が張り詰めた身体の節々に接着してミリも動けないまま、――一度目の制止後切っ先までは取り下げていなかった人物の動向に命を委ねる次第。

 いつまで、この状態が続けられるのか……?

 そろそろ膝が抑制できないくらいには時間も流れたでしょうに。

 ねぇ。と今後の事について相手側の後方で見ている司令塔であろう人物へ、視線を送る。


「……――二度も言わすな、さっさと戻ってこい。今回の件で基本殺しは無しだと、事前に言ってあるだろ……」


 と。仰っておりますが……?

 そうしてスゥーと自分を縛り続けていた危険物があっけなく、血圧低めの視界からも引き下がり。

 ほっとする。


「そんなコトを口にしてイイんですか? ナメられますよ」


 まぁ、言わせるような事をしていたのは君だけどね。


「……そう思うのなら、指示にないコトはするな。余計な仕事が増えれば報酬にも影響するだろ。現場ではスマートに動け」

「運ぶモノが減れば、その分早く済みますよ?」

「違う。利口に立ち回れってコトだ」

「――、――はいはい。分かりましたよ、っと」


 とりま視界からも物騒な金属加工物が除かれる。

 しかし緊迫する場の空気は何も変わらない。


「にしても、コイツやっぱり手練れですね。僕の俊足スキルに一切動じてませんから」


 去り際捨て台詞の様に言い、喉元に迫った賊の一人が仲間の所へと戻って行く。

 内心、俊足スキルとかあるんだ……。と自分には縁の無い神様の恩恵に嫉妬しつつ、解放された命の有難みを静かに――恐縮する。

 怖かったよー。若干膝の顎も出て震えてるし。


「おい、今さらなんとかしようなんて思うなよ? こっちは明るい内から尾行してある程度情報は得ている。赤の他人なんてのは猿芝居以下の主張だ、受け入れる訳ないからな」


 何を勘違いされたのか。私はただ怖気づき、ブルっていただけなのだが……。


「――やっぱり始末しておきますか?」


 君は本当に好戦的だな。上は苦労するよ。

 とまあ他人事の様に黙って見ておりますが、その場合の被害者は当然自分になる訳で。

 誰か、助けてください。


「待て」


 お。となるより先に、発言者が壁を支えにしなければ立っていられない酔いどれ中年おやじなので、助けにはならなそうと期待はせず。二言目に何を言うのかを傍観し、待つ。

 是非とも何かしらのヘイトは集めてほしい。


「その者はわしの護衛等ではない。ただの、村人だ……」

「ぇ」

「ェ」


 と、なんか変な共鳴も起きた。

 ……今? ――何で。


「その方、目的はわしの拉致であろう? ならば無関係な民に手を出す必要があるまい」


 そういう――。


「冗談はよせ……、村人が王都に居る訳ないだろ……」


 ――ぁ、そういう。


「嘘ではない、この者は誠の村人である。故に手を出してはならぬ、――よいな?」


 状況、立場を考えるのならば。ナニ言ってるの? このヒト。なのだが……。


「本当に村人なら、マズいですね……」


 あぁと返る応答。これまでとは違い、明らかに動揺の色も見える。

 と、何かに気づいた様子で、揺るぎそうだった男の顔に救いの手を差し伸べられた時に表す光明を見出す。

 その眼差しは何故か先ほど詰め寄られた際に開けたローブの内側を見据えており。

 ……?

 次いでニヤリと男が微笑む。


「言うは易し、一国を統べる王と思い危うく騙されるところだったな……。ベルジック王、他者を偽る才において神の天佑はこちらに味方しているのを理解できていないのか?」


 言いたいコトがよく分からないけれども、とにかく自信はありそうな表情。――で。


「その女の服装はどう見てもただの村人が着る代物ではない。もし本当に村民だと言うのなら、服選びの才能を持たずして産まれた本物のピエロ……。どちらにせよ、道化役者にもなれずな、ただの道楽者ってところか?」


 おい。確かにひがな一日を過ごしている事の方が専らだけど、もソレが私の天職なんだよ、チクショッウ!


「待て、何を勘違いし……っプ」

「……もういい。ベルジック王、オマエが話す相手は俺ではなく依頼した本人だ。言いたいコトがあるのなら後で好きなだけ騙し込むといい。依頼さえ完了して報酬を貰えれば、俺達はもう一切、関与しない」

「まっッ、ぅ、っぷ、」


 だから何度もごちゃまぜにはしないほうがいいと、言ったのに……。


「――!」


 うわ、もうサイアク。酔っ払いって本当に……、――ああもう。

 ほら水筒の水飲んで――。

 ……はぁ。――どうなることやら。

 庶民の口から出るのは、いつもため息と愚痴ばかりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ