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私だけが村人のスローライフ  作者: プロット・シン
第一章【村人発見】
18/18

life 18〔転々とする職業は、ただ職場移動しているだけ〕

 ――夜の訪れ。

 幾つかの店を吟味して、もとい。


「ここも良い店であったな! ッ、クゥ」


 何件目かの梯子。


「ぉ、次はこの店に入るぞ」


 マジで目に付いた所、全部に入る気かよ。


「さすがに、休憩しませんか……?」


 あと女の肩を借りて恥ずかしくはないのかい。


「ナニぃ、まだまだこれから、夜は始まったばかりぞっ」


 だから言ってるんだよ。

 日没間もない時間帯で既に深夜のムードを醸し出しているのは事実アンタだけだぞ。

 いくら表通りからは少し外れた飲み屋街でも、夕食前からヘベレケ気味って、これは歓楽街を楽しめていると言うのか?

 しかも本物の王様が。


「……こんな楽しいのは、久しぶりのことぞ……」


 ――……。


「王とは孤独、唯一無二故に酒を浴びる事もできぬ」


 べつに浴びるのは喝采だけでイイでしょう。


「だが今宵は王の立場に抗い、其方と美味い酒が飲めるのだ。寄らぬ訳にはいくまい?」


 ちなみに私は生粋の下戸だ。

 けれども――。


「――……ぶっ倒れても、運べませんよ」

「無論、担う必要はない」


 そうは言いますけども。貴方は、王様なんですよ……。


「いざ参るぞっ」

「はぁ……」


 とはいえ職に縛られる憂鬱は私も同じく常に持ち合わせている。


「――ぉ、なんとこの店はサイコロの目でジョッキの数が決まるのか。うむ、興じるとしよう。わしは運が良いからのぅ」


 そういえば、この世界にもウコンってあるのかな……?

 ま、飲んでも呑まれるな。が一番ですけどね。


  *


 時は日が暮れる少し前。

 思いもよらない兄との遭遇で、急遽近場のカフェへと身を落ち着かせたシロは主に赤ん坊等が要する背の高いベビーチェアを店で借り、深い眠りから覚めぬ少年を落下防止ベルトを使って固定した後、近親者の方に姿勢を正す。

 一見すると上下関係を思わす行儀と捉えられる仕草だが、身内に対する態度は相手が誰であっても遜色がない。

 モシ・ロヒノは、一様に変わらないのだ。


「……変わってないな」

「ェ?」

「いや、なんでもない。――それよりもさっきの話なんだが、本当なのか……?」


 席に座る以前、既にある程度の経緯は説明し誤解そのものは解けている。――が。

 突拍子もない内容と目の前の現実に、ほんの僅かではあるがまだ疑う気持ちを残す兄妹からの最後の見極め。

 それも――。


「ハイ」


 ――偽る事を知らぬ家族の瞳を知り、影も形も無くなった。


「……そうか」


 ふいと兄の視線がハイチェアで熟睡する神話の狼へと向く。


「にわかには、信じられないな……」


 引き続く疑念。

 自ら疑いを晴らした妹の釈明にではなく、半信半疑な超自然的存在に対する信用。


「――兄さん」

「ん。ぁぁ、どうかしたか……?」

「時間はよろしいのですか? 兄さんも、何か用事があってこの街に居るのでは……」

「ああその事か。それなら問題ない。やりたかったコトは昼間のうちに終わらせたし、エイミーの店にも寄ったから心残りもない」

「……エイミーの店?」

「ん。まさか、知らないのか?」

「何も聞いていません」

「そうなのか……。まぁいろいろ忙しくしていたからな、きっと手が回らなかったんだろう。気にするな」

「――ハイ」

「それに店って言っても期間限定の露天商だ。わざわざ身内を呼び寄せる程の内容でもないからな」

「なら、兄さんは……?」

「俺はアレだ、こんな職業だからな。手紙でのやりとりはしょっちゅうだ。もののついで、てヤツだな」

「……そう、ですね」

「ところでお前はどうなんだ? ちゃんと、連絡くらいはしてるんだろ?」

「――……たまに」

「たまにか。お前の“たまに”は、期間が長そうだな」


 兄として、もとい大切に思う家族としての感覚。妹の、些細な表情の変化に気づき。


「前にも言ったが、俺はお前がどんな天職で産まれていても大切な家族として接するつもりだった。と言うか、そんなコトは考えてもなかったよ。なにせ初めての兄妹、待ち遠しいと思うほかはなかったさ」

「……兄さん」


 しかし核心となるのは、ここから。


「エイミーとの間で何があったのかは知らないが、アイツも子供だったんだ。改めて話してみるといいさ。その方がお互いに、スッキリとするだろ?」


  …


 久々に会った家族の顔。

 ――変わりなく、優しい眼で自分を見る。

 そして去り際に渡される一枚の紙。

 ――街の大通りに面した露店の位置を示す。

 手を振る兄。

 ――言い置く。


「久しぶりに話せて楽しかったよ。まあなんだ、最初は相も変わらずかと思ったが……。お前、少し変わったかもな、勿論良い意味でだ。――じゃ母さんと父さんには俺から適当に言っておくから、達者でやれよ。それと、失礼のない様にな……」


 最後はやや不安げな表情で、背中の少年を見――言った気がする。


「兄さん、ありがとうございました」


 ヒラヒラと頭上近く後ろ姿のまま片手を小さく振り動かして、――兄は去って行った。

 途端に今し方言われた言葉を呼び戻す。


“お前、少し変わったかもな”


 言うまでもなく初めて、そんな事を言われた。

 ボクは本当に変わったのだろうか?

 自分では分からない。

 他の家族にも会えれば、確証を得る事が出来るかもしれない。けれど――。

 手の中で小さな紙切れが静かに音を立てる。

 ――最後に彼女と交わした言葉は今でも胸の奥つっかえて、踏み出せない要因となっている……。


“改めて話してみるといいさ”


「……――エイミー」


  *


 普段人里離れた場所で暮らしているが故に考える事のなかった疑問。

 飲食業界で働く人々の悩み、とは。


「あれ、さっきうちの店で飲んでませんでしたか?」


 なんとなく見覚えのある人物が据え付けの横長テーブル、隣の席から声を掛けてくる。


「……かもしれません」

「ここって二件隣の店ですよね……」


 それを指摘するのであればお互い様と思うが。


「じつは僕、さっき仕事が終わって、ここへ飲みに来たんです」


 何が実はなのか謎だが、確か入店した直後に他の店員と交代してたような……?


「本当に参りますね、今週はなんとか一枠働けましたがヤル気の熱が上がる前に交代ですから不完全燃焼ってヤツですよ」


 生前ブラックだった私からすると、それで食って生けてるのが神話級の疑問だよ。


「アナタは、何の職業を授かりましたか?」

「私は村――、――……大道芸人です」

「大道芸人? そう言われると確かに……」


 まじまじ見られるとお恥ずかしく。

 派手な布地がチラ見えしているローブ、サッっと襟を正す。


「失礼しました」

「いえ、お気になさらず」

「……しかし大道芸ですか、それだと一箇所に定着する事がままなりませんね」


 本音を言いたいところではある。が、今は立場を貫き通すしかない。

 とはいえ役作りなど当然していないので世間話程度の相槌を打つ。


「もう慣れました……」

「そうですか。実は僕の弟も放浪系の職業で、会うのは年に一・二回なんです。だから定住できない方達の苦労は分かっているつもりです」


 で、何が言いたいのかねぇ……。

 ここだけの話、私は前世からの結構なコミュ障です。


「もしよければ苦労話を聞かせてください。僕、聞き上手と言われること多いんですよ」


 残念だが既に距離を空けたい気分に陥っているんですが。

 苦手だわー、以前から。こういうタイプ――。


「――……特には」

「まぁまぁそう言わずに、これも何かの縁です。一杯奢りますよ」


 要は今夜の肴ね。

 他人の苦労話は酒と古典的な組み合わせですから。

 しかし下心が無いとも言い切れない。


「……そういえば、そちらは何の職業ですか?」

「僕? 僕はウェイトレスです」


 オマエ女だったんかーいっ!

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