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私だけが村人のスローライフ  作者: プロット・シン
第一章【村人発見】
17/18

life 17〔これではただの道化だよ〕

 

  *


 地下を流れる排水路、いわゆる下水道の様な場所を歩く。

 個人的な心象は王族なんかが逃げ延びる時に使う、逃走路。

 大抵は賊に追いつかれて、時間稼ぎに同行する護衛なんかが残ったりし山場にもなる有名な映えスポットではなかろうか。

 そんな悠長な事を考えている内、出口と思しき光の差す所に着く。


「さーて、着いたぞ。此度は如何に羽を伸ばそうかのー。のゥ、アヤネよ?」


 と言われましても。

 返答に困り、結果押し黙る。


「なんだ? もしや緊張しておるのか? 前にも申したが気楽に致せ。わしと其方はこれから父娘として振る舞うのだぞ。身を固めていては不自然であろう」


 なるほど、今回はそういう設定なのね。


「……親子ですか?」

「なんだ嫌か? では年の差夫婦でも所望するか?」

「そっちの方が無謀ですね」

「では血縁のまま、楽しもうではないか」

「……ちなみに立場は?」

「ふっふ、わしは旅の吟遊詩人。其方は大道芸を生業とする放浪者二人組、でどうだ?」


 何故その二人が組み合わさっているのかは定かでないものの、設定的に悪くはない。

 しかしだ。


「私、何も出来ませんけど……」

「いざとなれば歌でも歌えばよい」


 それはそっちの本業でしょ。

 と、相も変わらず、浅はかな王の考える娯楽は幸先未熟な仕上がりである。


「ではアヤネよ、此度も余と共にお忍びのデートを楽しもうではないか」


 まったく。気を抜くと直ぐにボロが出るのは以前と同じ。

 中年おやじが好奇心に任せて新しいものに飛び付く、感じでニヤリと笑う。

 この人が私の村が在る国の王、――ベルジック四世。その真の姿である。


「今宵は久方の自由、大いに酒場で洒落込むとしようぞ」


 まだ、日は十分に高いですけどね。


  *


 シロの不安は案の定、揺すっても起きぬ神獣を背中に負ぶり歩く事となる。

 村で過ごしている時から一度眠ると鳥類が止まり木扱いする程に深く、また食事時を除き呼び掛け程度では微動だにもしてくれない。

 普段はそれでも問題のない環境に助けられているが、ここでは易々と放置する訳にもいかない為に背負うしかない。といった流れだ。

 とはいえ現状、さ程嫌な思いはしていない。

 下に血縁関係者が居ない訳ではないが、弟となると実在がなく事実として新鮮な心持ち。

 無論相手は人の姿をしただけの獣、しかも神の血族と言われる月狼の種だ。

 畏れ多く、言葉にも出来ない。

 けれども直ぐ後ろでグゥグゥと寝息を立てて眠る姿は紛れもない、少年のソレだ。

 思わず自分の口角に出来た小さな緩みを許してしまう。

 と、唐突に誰かが自分の名を口にして、駆け寄って来る。その人物は――。


「やっぱりそうだ。モシ、お前もこの街に居たんだな」

「――……兄さん? どうして……」

「ん? いやだって、俺は放浪商人だからな……そりゃあ何処にでも居るさ」


 反論の余地なし。

 速やかに納得し、シロは兄の背負う巨大なバックパックに目を向ける。


「もの凄い量ですね……」


 生地の強度もさることながらソレを背負っているのも驚異的。

 しかしそんな畏敬の眼差しより、兄が見据えるのは自身の背後。

 ――瞳は大きく開かれて、予想外の邂逅に驚く妹よりも愕然としている。

 その理由は――。


「――ひょっとして、お前の子か……?」

「ェ」と思わず声が出る。次いで「いえ」と否定する矢先に。

「相手は誰だっ? どんな職業だッ? というかお前、いつ産んだんだっッ?」


 夕暮れを待つにはまだ早く、日差しの落ち行く中間点。

 人々行き交う大通りを横目に公衆園の中、飼い犬の散歩をする者の耳にまで届く。

 過去、これ程までに兄が声を上げる事があっただろうか? と言葉に詰まる妹の肩を更に鷲掴み。

 肉親の声が空高くへと舞い上がる。


「いったい何処のっ、ダレなんだーッ!」


  ※


 穏やかな時が流れる静かな村の入り口。

 木の柵で覆われた村の全体は小高い丘や平地が存在する、自然の川から引かれた環境も整う、格調の高い。――ただの村。

 柵の無い一箇所、人や物資が入る際には必ず通る村の出入口。にはテーマパークを思わせる人丈超えた大きな看板が二本の脚で進入路の傍らで立つ。

 掲げられた内容は至ってシンプル、村の名前。それだけが掲載された標し。

 しかし敢えてそれ等を無視する。

 一人の男が門番不在の村に進み入り、淀みなく村の中心から少しズレた一軒家を目指す。

 眼差しは真っ直ぐに、建物の在る方向だけを見据えて堂々闊歩。

 自信に満ちた表情は風切る肩と相応しい勇ましさ。

 仮に前日行われた争いで彼という存在を一目見れば、誰もが勇者ではないかと期待を寄せる。程の溢れた気配が、思わず目的地を前にし笑みとなって、こぼれる。

 イケない。

 まだ喜ぶ時ではない。

 思い返せばここ数回は、門番が駐在し始めた事で文字通り門前払いをされて辿り着けなかった。しかし、今日は何故か不在で。

 夢にまで見たあの景色、建物、そして念願の声も聞ける。

 落ち着け、我が心よ。

 そう言い聞かす様に、男は速まる鼓動を抑えて進む。

 一歩、一歩と踏み締める整地された草の生えた土の道。

 まるで王が国民の前に姿を見せるかの如く、ゆっくりと――扉の前へと、歩む。

 着いた。

 近頃は遠退くばかりで見る事も叶わなかったが、ここまで来れた。

 息を整え、身だしなみを確かめ。て、いざ。

 ――ノック。

 ドキドキと高鳴る胸。

 反応は、――無い。

 再度ノック。

 けれども同じ。

 ? 何故だ。まさか何かあったのか……?

 思わぬ事態に不安もよぎる。――と。

 視界に入っていたものの、意識していなかった張り紙にようやく心が向く。


“しばらく留守にします”


 予想だにしない文言を見、男は自身の口を手の平で押す様にし覆う。

 そのまま膝から崩れ落ちる流れで――地に両手を突き、四つ足となった。


「……そんなバカな」


 酷い、酷い。ああ神よ、私をお見捨てになったのか……?

 神が定める運命とはこれ程までに過酷、些細な悦びさえも許さぬ試練。

 その後男は、静かに、立ち上がる。

 そして主人不在の建物に一礼をし、静々と来た道を戻って行く。

 かつて勇ましかった背はもはや囚人の様に丸く貧しく。

 足取りも類似して重い。

 それでもなんとか、村の入り口まで辿り着く無気力となった瞳に映る掲示は男に残された将来の志すらも打ち砕く。


“改名しました。ラクサの村は今後ただの『村』とお呼びください”


 未来はそれを知った男共々、完全に希望を失い。――地へと落ちる事となる。


  *


 急遽のお忍び。からの緊急事態、――なのか?

 ハッキリと断定は出来ないが予想外、予定外の流れなのは店から出てきた中年男の不機嫌ぶりを見て、分かる。


「――ここもですか?」

「そのようだ。いったいどうなっておる……、何故ことごとく行きつけの店から食材が無くなっているのだ?」


 確かに事情を知らない者からすると摩訶不思議な現象が起こっている。――が、だ。


「さっき、通りかかった方に伺ったのですが、どうも昼間の内に近辺の店から食材を掻き集めたとの事です」

「何、どういう次第だ……?」


 それに付いては聞いた自分でも理解が追いついてはいない。ものの――。


「――聞いた話だと、小さな男の子が食べてしまったと……」

「全く理解が出来んな」


 同感です。


「まぁしかし、無い物は仕方がない。少々味は落ちるが別の店を探すとしよう」


 切り替え速いな。

 とはいえ駄々を捏ねられるよりは断然イイ。


「心当たりはあるか?」

「……まったく」


 こちとら年に一回来るかどうかの都ですので。


「では彷徨うとしよう。これもまた一興だ」

「――ですね」


 それにそうするコトで、程よい時間にもなる。


「では参るぞ、アヤネ。と違ったな、――大道芸人よ」


 いやソレ名前じゃないからね。


「目指すは美味い酒、飯、そして女の居る所だ」


 果たして私好みのかわい子ちゃんは居るのでしょうか。

 あと勿論口にはしないが、若い女の子を連れて行く店選びとしては条件ミスってますよ。


「ところで、わしが用意した物の着心地は如何だ?」

「着た感じは良いです」

「さようか、ならばよし!」


 ただお忍び故に全体をローブで隠しているから、まだなんとかなっているが――。

 ――この服装だと大道ではなく、ただの道化です。ちなみに化粧は断固拒否した。

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