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私だけが村人のスローライフ  作者: プロット・シン
第一章【村人発見】
16/18

life 16〔人手不足が解消されるとサービスの質は向上します?〕

「――実に満足、これ程に食が満たされたのは久方ぶりの事であるぞ」


「……それはよかったです」


 一店舗を食い尽くし満足気に自身の腹を撫でる神の獣。


 反対にシロの内心は複雑で、後で問い詰められる等しないかと精神が干上がる。


「ぬ、これは丁度良い。白騎士よ、ここらで食後の昼寝でもせぬか?」


 ェっと俯いていた顔を上げる門衛騎士。


 その目に入ったのは店から数分歩いた先にあった広大な敷地を持つ自然公園だった。


「……公園でですか? それならもう少し行くと目的地の宿が」


「なにを言っておる、こういう場所こそ昼寝が捗るのは当然の理であろう」


「はぁ……」


「そら、早く行かねば、より良いスポットが取られてしまうではないかっ」


「ぁ、お待ちください」


 言うが早いか、嬉しそうに入園する少年の後ろ姿に手を伸ばし、自分は出遅れる。


 昼寝と言うにはやや遅刻気味だが反対する理由もないのは事実。


 気になる点があるとすれば――。


「――、……アヤネ様は、何処で何をしているのでしょうか……」


 応えも無い晴れた空へと視線を移し、モシ・ロヒノはそう呟くのだった。


  *


 ある晴れた日の地下牢獄にて。


 突如理由も分からずに投獄された村人と、盗賊が隣人のよしみで話をしていましたところに。――頭までフード付きのローブでスッポリと隠した人物がやって来ました。


 ちなみに二人組です。


「お待たせ致しました」


 何も待ってなどいなかった。――が。


「どちら様でしょうか……?」


 と、鉄格子の向こう側に立つ人物に冷静な素振りで、尋ねてみる。


「これは、――失礼を致しました。アヤネ様、わたくしでございます」


「……アナタは」


 意外にも、ぱさりと頭巾を肩に落とし出てきた顔と面識があった事を――思い出す。


「ティアンさん……?」


「その通りです、ティアン・マッケローで御座います。覚えていてくださいましたか」


 というコトは――まさか、直ぐ後ろに居る、もう一人の人物は――。


「――……ひょっとして、後ろに居るのって……?」


「はい、お察しの通りです。――この国の王、ベルジック陛下であらせられます」


 やっぱり。


 次いで、納得する私の前に、同じく頭巾を落として顔を見せるその人がずいっと正面に割り込み己が執事を遮る。


「遅くなってスマナイ。周囲を欺くには、いろいろと手間が掛かるのでな」


 だから何も待ってはいなかった、けど。も。


「また手の込んだやり口ですね……」


「ふっ。だろ? わしも今回ばかりは名案であったと、自惚れておるところだ」


 少年っぽさを残すニヒルな笑み。


 ダンディズムの定義は分からないが、恐らくその分類に該当するであろう、ちょいワルおやじ風の五十代男性。


 絵に描いたようなモテ髭を蓄え。大人の余裕がどこか冷たさすらも感じさせる、堂々たる中年の王様。


 無論比喩などではなく、本物の国王が目の前に居る人物の――正体だ。


「――陛下、待望の再会でお喜びのところ申し訳ありませんが。お急ぎを」


「分かっておる。――では失礼するぞ」


 ェ?


 何故か牢の扉を開け、自分の居る室内へと入ってくる。


「どうして入るんですか……?」


「抜け道はこの部屋の奥にあるのでな、使わねば甲斐があるまい」


 そういうコト。いや、だとしても可笑しな話だけど。


「……一体どこに行くんですか?」


「それは出てからのお楽しみだ」


 またそういうシブイ事を言う。


「ささ、アヤネ様も王の後に続き。わたくしは無礼ながらアヤネ様を装い、ここで待機いたします」


 なるほど。


 と概ねの流れは察した。


 が、一つ気掛かりがあるので、出て行くその前に――。


「――あの、隣の牢に居る方の罪状って、お分かりですか?」


 恐らくここまでの流れも全て聞こえていたであろう事を見越し、その上で一瞬エっとなり記憶を探る様に首を傾げる執事の、返事を待つ。


「……わたくしの記憶が正しければ、先日街で食い逃げをし三日程投獄されている小物かと、思いますが。何か? まさかアヤネ様に破廉恥な事でも申しておりましたか? だとすれば明日にでも処刑いたしますが」


 相変わらず毒舌且つ断罪に容赦ない方だ。


「いえ、そうではなく。彼は既に反省し己の罪を悔いていますので、どうか軽減してあげてください」


「な、なんと、罪人にまで慈愛の情状酌量をお申し付けるその心の深さ、そして愛。わたくしは感動いたしました……っ」


 お恥ずかしいので、そういうのはちょっと……。


「――畏まりました。わたくしの領分に限りは致しますが、アヤネ様の意向を叶えるべく善処させていただきます。ので、心置きなくお出になられてください」


「お願いします」


 と言うコトなので、きっと近い内に出れるよ――レイジ君。


 敢えて言葉にはせず。


 おそらくは石壁を隔てて、誰にも見られたくはないであろう様相の相手を想像し。


 執事に一礼をした後、国王の待つクローゼットの所へと、向かうのだった。


  …


 ――定期の見回り。


 地下牢の監視を任された兵士が数少ない囚人の部屋を見て、足を止める。


「おまえ、何をやっているんだ……?」


 三日前に無銭飲食で捕まり、一週間の禁固刑となった下っ端盗賊。


 彼は今、兵の理解が定かではない状況で、両足を抱え俯いている。


「……腹でも痛いのか?」


 返事のない様子に心配して、兵の声が再び掛かる。


 すると徐に気力を感じられない盗っ人の顔が上がり、鉄格子の方へと瞳を動かす。


「心配しないでくれ……、オレは今、変えられない自分の運命に嫌気をさしているところなんだ」


「……そ、そうか?」


「フっ」


 そうして石造りの床は尚も冷たく。夢見がちな盗賊は自ら心を締め付けて、一筋の涙を流すのだった。


  *


 常、王の傍らに控え。時、王の意向を叶える為に額で皺を寄せる。


 彼は、小国ながらも、どの大国も有さない国民を抱える大臣。


 日々の悩みは御国柄狭い領土を少ない人手と資源で補う工夫、凝らすには相当な苦労を要する。故に時折り視線は窓の外、空を泳ぐ。


「――……はぁ。毎度毎度あの方の我がままには頭を悩まされる……」


 誰に言うでもない、完全な独り言。


 しかし言わずにはいられない。


 計画予算の云々は大した問題ではないが、それ自身が神への冒涜に繋がらないのか?


 と。


 再び溜め息が出る。


 其処に三度ノックの音。――返答後に入室したのは、一人の伝令兵。


「失礼いたします。先ほど届きました書類を持って参りました」


「そうか。ここに置いてくれて構わないぞ」


 卓上の一箇所、常に空間を残す事で様々な業務に対応するエクストラ・スペース。


「ハ、――失礼します」


 ドサリと置かれる紙の束。


 今夜も就寝時間が遠のく。


 そう思った矢先、重なった文章の一番上に記入された一枚の薄い通知に注目する。


「待ちたまえ」


 直ぐには容認できない内容が反射的に部屋を去ろうとする兵士を呼び止めていた。


「……コレは事実かね?」


「ハ?」


「私の知らぬところで、皇族のお忍びでもあったのか?」


「いえ、その様な報告は何も、聞いておりませんが……」


「では貴族が予定外の晩餐会でも開くのか?」


「そういった連絡も、ありません……」


「では何だこの請求は? 昼食代と書かれてはいるが明らかな、現実味の無い金額ではないか……」


「そちらは既に支払い済みのモノです」


「そういう事を言ってる訳ではないっ」


「ぇ、ぁ――ハッ! 申し訳ありませんっ! 自分は担当ではないので、詳しい事情までは分かり兼ねます……」


「――まったく。ならば担当の者を至急私の所に寄越す伝達をいたせ」


「ハ。ただ担当の伝令兵は当番を終えておりますので、次に担うのは一週間後の仕事となりますが……?」


「どういうコトだ? ソレは」


「ええと、なにぶん役職が渋滞しておりますので平等となると勤務体制の空きが少なく」


 結果どの機関でも仕事の取り合いになっているのが、天職世界に於ける社会問題の第一位である。事は、当然把握している。


「――……分かった。もう下がってよいぞ」


「ハ、失礼します」


 そうして部屋を出ていく伝令兵を見送った後、再び大臣の視線は透き通った硝子の向こうを虚ろな瞳で、眺める。


 其処に現れたのは外側の窓を拭く清掃員。


 午前中に見た者とは、別の人物だった。


「どもー」


「……」


 業務に携わり嬉しそうにしているその表情を暫し観る。


 次いで大臣は自らが行う重なった仕事の一帯へと――突っ伏した。

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