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私だけが村人のスローライフ  作者: プロット・シン
第一章【村人発見】
12/15

life 12〔庶民、旅のはじまり〕

 ――突如として始まった人類と魔族の争い。

 ソレを蚊帳の外で時折り眺める一般庶民こと村人の私。

 結末、三日三晩続いた天地雷鳴な決戦は食事を配給していた疲労により倒れた事を心配し現れた両者の休戦合意で終結する。

 今思い返せば短い期間ではあったが村の中で人類と魔族が同じ釜の飯を食う状況だったのは凄くよかったのではないか? そんな風に思う、今日この頃の洗濯日和なり。


  ※


 さて、争いの後いくつか私の近辺にて変わった事がある。

 先ず神獣が村に斎いた。

 ――大体の生活は子供の姿で、何処かしこで寝て過ごしている。

 そして、村に新しく門番が王都より派遣され居付く事となった。

 一体誰が来たかって? それは勿論――。


  ※


「――シロさん、午前のお仕事お疲れさまです」

「めめ滅相もございませんっ、アヤネ様――」


 何を恐縮するのか、未だなんとも言えない心持ちには一応なる。が村人としての慣れで気にはせず。

 我が家のダイニングルームへと誘導する。


「お昼の準備できてます、一緒に食べませんか?」

「――ありがとうございますっ!」


 深い深い礼。其処に、一匹の子供が風の如く俊敏な動きにてやって来る。


「飯だなアヤネよ! して何だッ?」

「今日はパンを焼いたのでサンドイッチ、カスクート的なものです」

「おおッ、名前からではよく分からんがとかく美味そうな言葉だぞ!」


 一体どういうベクトルで高揚しているのかが全くもって謎だ。


「じゃ皆で食べましょう」


  …


 何を隠そう私は今、もの凄く幸せである。

 だってさ。所謂現状って文字通りのスローライフじゃない?

 絵に描いた餅ではなく実際に起きている状況。

 友が出来、もふもふのペットが居る。

 しかも生活上の心配は皆無で。

 ぇ何コレ、幸せが過ぎん?

 ひょっとして近日中に私って死ぬのかな。なんて思うくらい、現在進行形に最高である。

 極め付けは――。






「――本日もまた例の村案内が来ました」

「……またですか」


 昼食の最中、雑談とした感じでシロさんが告げる報告に、呆れ口調で返す。


「いつも通り追い返しましたが、……きっと明日も来ますね」


 だと思う。


「このまま放置するとシロさんの業務に支障が出そうですね」

「いえボクは……門衛騎士なので、それも仕事の内です。アヤネ様の心配には及びませんので、ご安心ください」

「……そうですか」


 まあ仕事に支障が出る事よりも、内情としては業務上の失敗などでシロさんがこの村を離れる理由が出来てしまうのが嫌なだけ。

 だって折角昇格したというのに、それが台無しになってしまっては本人にとっても……。


「大丈夫です。この位の事で門番を離れる失態に繋がるミスはしません」


 おっと。表情に出てしまっていたかな。


「この度はアヤネ様のおかげで護衛騎士から門衛騎士に昇格する事が出来ました。本当にいくら感謝してもし足りない気持ちです」

「――私は何もしてませんよ」


 結構ガチな話で。


「いえ、アヤネ様が居てくれたからこそ皆本分を活かしそれを全うする事で其々の職点を得て停滞していた状況を打開したと思います。特に気持ちの上では皆が救われたと、そうボクは思います」


 実に面倒な仕様だと、改めて思うけどね。


「……――そういえば犠牲者の数が想定よりも少なくなっていた、と聞きましたが?」

「ぁ、はい。どうやら今回の相手、魔王トキは時間を操る力があったそうです」

「時間を? 魔法とかではなくですか?」

「最初はそういう話もありましたが、幻惑の類いではないかと。しかし先日一通の手紙が魔王から送られてきまして、その内容というのが」


『愚かな人類は滅ぼすに値せず。此度の恐怖を学び、分を弁え余命の時を生きるがよい』

 by魔王トキ。


 というコトらしい。

 ちなみにその手紙には自らが行使した力が要所の時間を戻すものである事が記載されていたとのことで、今後の対策に向けて各機関が慌ただしく動いているらしい――。


「――じゃあ死者は出なかった。というコトですか?」

「そういう訳ではありません……。少なからず、戦死者は出ました。ただ想定よりも少なかった、という話ですね」

「……そうですか」


 ――黙祷。


「アヤネ様……?」

「はい、何ですか?」

「今のは一体?」

「ぇ、黙祷のコトですか?」

「……モクトウ?」


 ぁ、なるほど。

 なので意を説明した、結果。


「なるほど。しかしアヤネ様は何故そんな事を?」

「ぇっと、私の、家では――そういう感じだったので……」


 なんとも説明し辛い。


「そうなんですね、アヤネ様の……」


 前世の記憶があると、いろいろと入り交じる。


「……それって、ボクもして、差し支えはありませんでしょうか? 一人、戦死した者の中に祈りを捧げたい友人が居て……」


 それは――。


「――モチロンです。私も一緒に、祈りましょう」

「ありがとうございます、アヤネ様」

「それでは、此度犠牲になった戦死者、並びに被害者の魂に対し――」


 ――黙祷。


  ※


 私は、元ブラック残業の過労死OLで異世界に転生した。

 私の転生した異世界は数多くの職業、神が授ける“天職”と呼ばれる人生がある。

 ハッキリと言う。

 この仕様はクソである。

 が。

 其処で生きる人々にとって天職とは文字通り変えようの無い現実。

 大成を目指すのならば効率良く行動しなければならないし、夢もまた現実の一部に他ならない――呪縛とも取れる、道しるべだ。

 だからこそ、この世界の人々は悩み多くも真っ直ぐに突き進む。

 考える事を放棄してるって?

 そう。じゃあ過去の自分は、どうだったのだろうか。

 目の前の仕事を熟す、何も考えずに指示通りに動く。日々を熟す。

 もしも人生が神様の掌、その上で生きているというのならば、きっと生きるというコトに自由な意思は無い。

 ……とまあ、何が言いたいのやら。私って前世から、そう。

 ただ一つ自信を持って言えることは、私は今――笑っているのだ。

 前世には無かったその時、その瞬間を、普通に味わう。

 何度も何度も咀嚼して味気無くなるまで。

 普通に生きていたい。


  ※


「ェ、どういうコトですか……?」


 昼食後の片付けを終えて、一段落。といったところで家の扉を叩く音。

 怪しむ事も無く、何気なく開く私は訪問者と対面した。

 顔を見せたのは王都より来た使者、との事で。

 第一声――。


「――アヤネ様、国王がお呼びになっております。どうか王城まで、お越しいただけませんでしょうか……?」


 てな次第で、思わず聞き返してしまった訳だ。

 そして。


「こちらに王より賜った正式な許可状がございます。お受け取りいただければ即時護衛付きの馬車にて、お送りいたします」


 相変わらず庶民とは何なのかを誤認しそうな待遇。

 まあ、王様が来いと言うのだから一般人である村人に断る権限は本来無い。――が。


「少しだけ時間をください。村を出る準備をしますので」

「勿論ですッ、どうぞごゆっくりと行いください!」

「いやでも王様を待たせているのなら、急ぎで」

「全く問題ありません!」


 何でだよ、無い訳無いだろ。


「……とにかく急ぎます」

「ご負担お掛けしますっ、もし手伝える事があれば何なりとお申しつけください!」


 少なくとも国の使者に手伝わせる様な旅支度はない筈だ。

 しかしながら。

 軽く会釈し、自室へと向かう。

 数ヶ月? イヤ、一年振り位だろうか。

 久しぶりの外泊。この貴重な時間を、何に使うか――胸が躍る。

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