life 1〔世界でただ独りの村人を発見っ!〕
記号等で区切るなどし主観を変えたりもします。
※作者は文章力が拙いので。予め、ご了承ください。m(_ _)m ヒラニ
この作品はフィクションです。
実在の人物や団体など、現実的体制や根拠仕様とは一切の関係がありません。
ご理解の上、ご覧ください。
――元ブラック残業のOLが異世界に転生した。
私が転生した異世界は数多くの職業、神が授ける“天職”と呼ばれる人生がある。
簡潔にどういうモノかと言うと、出生直後に神様から与えられるこの世での生業。以後その職に即する生き方を絶対厳守しなければならない――という人生の設計だ。
あえて言おう、ハッキリと。
これは“仕様”です。
日常や従事する仕事の枠内で個々の自由はあるものの、その殆どは定められた行動内での“選択肢”でしかない。※転職は不可。
せっかくブラック社員からの卒業で、晴れて異世界転生系主人公になれたと大喜びしていた私に待っていたのは、偉大なる神が定める世界の縛り。前世と同じく敷かれた人生の計画の上でしかなかったのだ……。
それでも私は元ブラックな社員、ある程度の自由があるのなら上等だよと転生後を素直に受け入れる。
果たして私の天職は何になるのか……?
伸るか反るか、鬼が出るか蛇が出るか、一か八かの人生最初の大勝負。
既に周囲の状況を理解していた赤子の瞳に映る定められる人生の項目、その回転が徐々に遅く、ゆるやかに、――停止する。
完全な停止、目の前の勝敗に私の思考も刹那途絶える。
「こ、これは……何というコトだ……っ!」
傍らに居た聖職者っぽい人が驚きの声を上げる。
私も出来るものなら、そうしたいとは思うが目の前の現実を理解するので目一杯。ていうか冗談? 冗談だよね? だってコレ――。
【貴方の職業は“村人”です】
――職業じゃないじゃん。
※
そして十数年の時が経つ。
その間に色々と、山程の葛藤があった。
とはいえ転生してしまった以上は、どうしようもない。
私は新しいこの世界で再び社会の一部となり、再度ギチギチと音を立て歯車の役割を果たそう、そんな覚悟で授かった“天職”を受け入れた。
が、私の覚悟は数年で、早々と噛み合わなくなった。
そうしてただ呆然と、列をなして並ぶ人々を眺める人形の様な表情となり。
というか現実に、目の前には沢山の人が私の住む小さな家へと続く道の上でまだかまだかと自分の順番を待っている。
何の、番かって?
――玄関先で迎える私と話す、為の、その待ち時間です。
「次の方」
私の近く玄関口の外側、脇に控えて立つ村長が列の先頭に声を掛ける。
やって来たのは見るからに神々しいオーラを放つ、おそらくは聖女と呼ばれる類いの美女。私なんかとは比べるまでもない、想像を絶する偉大な御方だ。
そんな御方が私よりも先に首を垂れて一礼をする。
しかもその相手は本来なら逆に屈膝礼をすべき庶民である、私に。
「本日はお日柄もよく――村人様、何かお困り事はございませんか?」
「ありません」
「……――何か些細な事でも」
「ございません」
「全くでしょうか……?」
「はい、至って平和です」
「左様でございますか……。――それではまた来月にでも聖都より参ります」
「お気遣いなく」
「――次の方」
▼
偉人、聖人、伝道者、並びに英雄、豪傑、何処ぞの軍師様、及び高名家、謎の革命家、国家の指導者、士族、華族、貴族、続々と訪れる有名知名著名な方々のご挨拶。
いつの間にか、恒例となった月初めのイベント。
確認しますが――私ってただの“村人”ですよね?
「儂は千年前にこの地を訪れた三賢者、大魔導士トリフじゃ。娘っ子よ、何ぞ困り事は」
「――お帰りください」
▲
全ての来訪を断り、終えたのは日が暮れた後だった。
ハァ…ハァ…。
――フザケんじゃねーぞ。
来て、即刻で断ってるのに……何でだよ!
最後の方とか客を置き去りにして断ってた気がするわ……ッ。
「お疲れさま……、わし、帰るね……」
アンタも大したもんだよ村長。
「今夜は村に泊まるから、用があれば深夜でも気にせず叩き起こして……何なら鍵、渡しておこうか?」
「……結構です」
と言うか、もう持ってる。村に在る家の鍵は全部。
「――村長さん、お疲れだと思いますので、ちゃんと寝てくださいね」
「……わしなんかに、本当アリガトね……」
何でだよ、村長でしょうアンタ。
「じゃ、また明日、出発する前に必ず挨拶に来るからね」
「……――お気遣いなく」
そうして途中ランタン片手に何度も振り返り、手を振っては別れの言葉を口にする村長が、向かう先は村の中にある小高い丘、その上に在る自分の家。
本当ちゃんと前を見て歩けよ、もういい歳なんだからっさ。
――さて、と。
今居る玄関口から振り向き、照明に照らされる狭い自宅の中を見渡す。
「……今夜中に終われるの、コレ……」
来訪者が持ってきた土産の山。足の踏み場どころか、単純な居場所すら見当たらない。
「引っ越したいなぁ……」
しかしただの“村人”では、これ以上に広い家へ引っ越す事も出来ない。
「……さっさと片付けよ」
品物が崩れないよう、そっと足を動かす。と贈り物の袋から落ちそうになっている薬瓶が目に入った。
おいおい、エリクサーが落ちそうになってますがな。というか、薬品棚の空きってまだあったかな……。
確認するにも、この状況では……――。
「――今月もまた徹夜か……」
……トホホ。
※
私が転生した世界には神が授ける数多くの職業がある。
その数や内容を人類は未だ把握できておらず、神が望めば無限にあるのではないかとも言われている。
しかし大抵は既知の職業になる事が殆どで、ここ数百年は新職を授かる赤子は誕生していない。――その折に、私が生まれたのだ。
世間は当然驚いた。何より、その職業に。
その訳を知り、私も驚いた。
まあ、ここからを簡潔に言うとだ。
偉人、聖人、伝道者、英雄、豪傑、軍師、高名家、革命家、指導者、士族、華族、貴族その他諸々ありとあらゆる分類に属する肩書きが世に出回っているというのに、一般大衆たる庶民の代名詞“村人”がこの世界には一人も居なかったのだ。
ぇ、なにそれ? そもそも村人って職業なの……? と思うかもしれないが、私も思ったし。だけど、この異世界では職業として扱われているから言葉としての道理とかは関係が無い。
目の前で示された文字通りに“村人”を受け入れるしかないのだ。
ただ一つ誤算というのか……想像とは違う、庶民の暮らしが、私の予定を狂わせる……。
※
当初、私は転生した異世界での生活にある種の諦めで悟っていた。
ブラックでも結構そっち系の話は網羅した方で、スロットのリールが止まるまでは正直に言って、心は踊っていた。
いわゆるチート系、それともまだ見ぬレア職業? ひょっとすると聖女――、ドアマット系や令嬢は趣味じゃないのでパスしたいが、選ばれれば楽しむ他はない。
商業的には最初チョコレートを製造する流れにすれば旨く進展するんでしょ、とか。そんな感じで、内心は浮かれていた――のに。
「また月末には来るからね、何かあったら直ぐ連絡してね、食糧や水はちゃんと毎日届いてるかな?」
「……十二分を過ぎるくらいにあります」
自宅の食糧庫は一杯で、村の空き家を勝手に倉庫小屋としても使っている。
「もっと増やそうか? それともリクエストはある?」
何で増やす、いま私の言葉をちゃんと聞いていたか。
「……できれば食糧の配達は、三日に一回位でお願いします」
「ぇ。ぁ、そうだよね。毎日だと出迎える側が大変だよね、ゴメンねゴメンね」
むしろ逆だろうと。ここヘンピな村だぞ、私の為だけに足を運ぶ配達業者の身になってやれよ。と。
「じゃ、ちゃんと今の話を伝えておくからね。風邪とか引かないでね、アヤネ様」
「……村長さんも、体調にはご自愛ください」
「わしなんかに、本当身に余るね……」
何でだよ。
――さて、片付けの続きでもしますか。しかし、断捨離とは一体……。
「あの」
ん?
「ここは――何て村ですか?」
「……、――ここはラクサの村ですよ」
「そうですか……! ありがとうございますっ、――ではまた!」
ではまた。じゃねぇよ。
手前は今週で三度目だろ。ちゃんと覚えているからな。
という感じで――。
私が転生したこの異世界には、神が定める数多くの職業がある。
しかし大抵は既知の職業になる事が殆ど、その中に“ただの村人”として生まれた私は待望の、社会全体が待ち焦がれた唯一の一般人。
庶民に救済を求められる聖女は逆に自ら福音を得ようと、足を運び。
所在不明だった偉大な賢者は、その存在を示しに現れる。
そして名ばかりだった村の長が過保護に礼をもって尽くし、好奇心で訪れる人々は観光名所の様に扱う私の所へとやって来ては村名を聞いて去って行く。
――ねぇ、村人って何……?
私が想像していた異世界生活と違うんだけど。
ただ一つハッキリと言えるコトは――。
――エリクサーってリ〇ビタンみたいな味がする。てコトだけ、だ……。
世界でただ独りの村人を発見っ!/了
投稿を安定させる為、マイペースに公開をしております。
※執筆が遅いです。平常時、月2程度のペースです。
――但し人気や意欲のある時にはより頑張っていると思います。