表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ファンタジー短編小説まとめ

俺が勇者!? やめてくれ、喋る盾! ~臆病者と毒舌シールドの勘違い英雄譚~

小説の書き方を変えてみました。

一人称で会話多め。

いかがでしょうか。

 

 第一章:出会いは突然、そして最悪

「あー、だりぃ……」


 俺、レオ・ナマケモノ(自称)は、今日も今日とて村の納屋で干し草のベッドに寝転がり、人生の貴重な時間を無駄遣い…いや、有効活用していた。だってそうだろ? 何もしない時間こそ至高。働いたら負けってやつだ。


 そんな俺の平和な日常は、ある日、唐突に終わりを告げた。


「おい、そこの怠け者! ちょっとその汚ねえ足で蹴っ飛ばしたモンを拾ってくれんか!」


 納屋の隅っこ、ホコリまみれのガラクタの山から、やけに甲高い、そして妙に偉そうな声が聞こえてきたのだ。


(……ん? 空耳か?)


 俺は寝返りを打ち、再び至福の惰眠へと旅立とうとした。しかし。


「無視すんな、このナマクラ野郎! お前の右足元にある、イカした盾のことだ!」


(イカした盾ぇ!?)


 思わず飛び起きた。確かに、俺の足元にはいつの間にか、古びた、傷だらけの丸い盾が転がっていた。中央には赤い宝石が埋め込まれているが、泥とホコリで輝きは鈍い。さっき、足を伸ばした時にでも蹴飛ばしちまったらしい。


 っていうか、今、こいつ喋ったよな?


「お、お前……喋れんのか?」


「見りゃわかんだろ、このポンコツが! さっさと俺様を拾い上げ、その薄汚れた布で綺麗に磨きやがれ!」


 うわぁ……なんだこの盾、超絶上から目線。しかも口が悪い。


 俺は恐る恐る、その盾を手に取った。ずしりとした重み。これが本当に喋ってんのか?


「よぉし、それでいい! 俺はシールドン! かつて魔王を震え上がらせた伝説の勇者が愛用した、選ばれし者のための盾よ!」


 赤い宝石がピカピカと点滅しながら、盾は得意げに自己紹介を始めた。


 ……なんだろう、この胡散臭さ。


「へ、へぇ……それはすごいっすね(棒読み)。で、その伝説の盾サマが、なんでこんな納屋の隅っこに?」


「うぐっ……そ、それはだな、諸般の事情というやつだ! そんなことより貴様、名はなんという!」


「レオですけど……」


「レオか! よし、レオ! 今日から貴様が俺様の新しい主だ! 光栄に思うがいい!」


 え、ちょっと待って。話が飛躍しすぎじゃない?


「いやいや、主って言われても……俺、ただの村人Aですし。力仕事も苦手だし、モンスターとか見ただけで気絶する自信ありますよ?」


「ふん、問題ない! 俺様がついていれば、ヒョロガリのお前でも勇者になれる! さあ、行くぞ! 魔王討伐の旅へ!」


「行かねえよ! っていうか魔王!? なんでそんな物騒な話になってんだ!?」


 俺の絶叫も虚しく、シールドンは高らかに宣言した。


「つべこべ言うな! 俺様が選んだのだから間違いない! 貴様には勇者の素質がある! ……たぶん!」


「たぶんってなんだよ、たぶんって! 無責任すぎるだろ!」


「いいから行くぞ! まずは小手調べに、村の近くの森に住み着いたゴブリンでも血祭りにあげてやろう!」


「血祭りとか物騒なこと言うな! 俺、生まれてこの方、虫一匹まともに殺したことないんだけど!」


 シールドンは聞く耳を持たない。それどころか、俺が持っている左腕にカシャン! と音を立てて勝手に装着された。うわ、外れないんだけど!?


「よし、いい感じにフィットしたな! これで貴様も勇者の仲間入りだ! さあ、冒険の始まりだぜ、レオ!」


「いやだから! 離せ! 誰か助けてくれー! 盾が、盾が俺を拉致しようとしてるー!」


 俺の悲痛な叫びは、のんびりとした村の風景に虚しく吸い込まれていった。


 こうして、俺の平和な日常は、やかましい盾によって理不尽に終わりを告げ、波乱万丈(主に俺にとって)な冒険が幕を開けたのだった。……マジで勘弁してほしい。


 第二章:初陣は涙目、相棒は毒舌

「うぅ……本当に来ちまったよ、ゴブリンの森……」


 俺はシールドンに半ば引きずられるようにして、村はずれの薄暗い森の入り口に立っていた。左腕には、元凶であるおしゃべり盾、シールドンがしっかりと鎮座している。こいつ、見た目以上に重いんだよな……。


「何をメソメソしている、レオ! 貴様は今日から勇者だぞ! シャキッとしろ、シャキッと!」


「勇者って自覚、全然湧いてこないんですけど……。それより、ゴブリンって本当にいるんですかね? 実はただの噂とか……」


「いるに決まっているだろう! 俺様の情報網をなめるな! この森の奥に、数匹のゴブリンが住み着き、旅人を襲っているとの報告が入っている!」


 シールドンの赤い宝石が自信満々にピカピカ光る。その情報網とやらが、どういう仕組みなのかは謎だ。


「はぁ……で、俺はどうすればいいんですか、シールドン先生?」


「ふっふっふ、よくぞ聞いた! まずは基本中の基本、盾の構え方から教えてやろう!」


 そう言って、シールドンはああでもないこうでもないと、盾の角度やら足のスタンスやらを細かく指示してきた。


「違う、もっと腰を落とせ! へっぴり腰すぎるぞ! そんなんじゃゴブリンの棍棒一発で吹っ飛ぶわ!」


「む、無理言うな! これ以上腰を落としたら足がつる!」


「情けないやつめ! いいか、敵の攻撃は俺様がガッチリ受け止めてやる! だから貴様は、俺様を信じてしっかりと構えていればいいのだ!」


 その言葉はちょっとだけ頼もしく聞こえたが、すぐに余計な一言が続く。


「もっとも、貴様のその貧弱な腕力で、俺様をしっかり支えきれるかどうかはなはだ疑問だがな! ギャハハ!」


「……やっぱりお前、性格悪いだろ」


 俺たちがそんなコントみたいなやり取りをしていると、茂みの奥からガサガサと音が聞こえてきた。


「! 来たぞ、レオ! 構えろ!」


 シールドンの声に、俺の心臓がドクンと跳ね上がる。やばい、本物だ。


 茂みから現れたのは、緑色の肌をした、小柄な……いや、俺よりはガタイのいい人型のモンスター。手には粗末な棍棒を持っている。あれがゴブリンか……!


「グギィ!」


 ゴブリンは俺を見つけるなり、奇声を発して突進してきた!


「ひぃぃぃぃ! 来たああああ!」


 俺はパニックになり、シールドンに教わった構えなんてすっかり忘れ、ただ盾を前に突き出して目を固く閉じた!


 ドゴンッ!


 鈍い衝撃が左腕に伝わる。だが、痛みはほとんどない。


「おい、レオ! 目を開けろ! いつまで震えてるつもりだ!」


 シールドンの声に恐る恐る目を開けると、ゴブリンが目を回して地面に倒れていた。どうやら、俺がめちゃくちゃに突き出したシールドンが、うまい具合にゴブリンの脳天にヒットしたらしい。 


「な、なんだ……俺、勝ったのか?」


「勝ったも何も、ただのラッキーパンチだ! だがまあ、結果オーライとしておこう! よくやったぞ、レオ! ……にしては、腰が引けすぎだがな!」


「う、うるさい! 結果が全てだろ、結果が!」


 生まれて初めてモンスターを倒した(倒してしまった)という事実に、俺はまだ心臓がバクバクしていた。しかし、シールドンの言う通り、痛みはほとんどなかった。こいつ、本当に頑丈なんだな……。


「油断するな、レオ! ゴブリンは群れで行動することが多い! まだ仲間がいるかもしれんぞ!」


 シールドンの警告通り、茂みから新たに二匹のゴブリンが姿を現した!


「うわっ、まだいたのかよ!」


「落ち着け! さっきと同じように、俺様を信じろ! ……まあ、お前の運の良さも多少は信じてやってもいいがな!」


「それ、褒めてんのか貶してんのかどっちだよ!」


 二匹のゴブリンが左右から同時に襲いかかってくる。まずい、挟まれる!


「左だ、レオ! まず左の奴の攻撃を受け止めろ!」


 シールドンの指示通り、とっさに左のゴブリンに盾を向ける。ガキン! と金属音が響き、ゴブリンの棍棒が弾かれた。


「よし! 次は右だ! そのまま盾をスライドさせろ!」

 言われるがままに盾を右に動かすと、今度は右のゴブリンの攻撃をギリギリで受け止めることができた。


「な、なんか……いける……のか?」


「当たり前だ! 俺様と貴様のコンビ……いや、俺様の的確な指示があれば、ゴブリンなど赤子同然よ!」


 調子に乗ったシールドンがギャーギャー騒いでいるが、確かにさっきよりは落ち着いて対処できている気がする。もしかして、俺、ちょっとだけ才能あるんじゃ……。


「調子に乗るな、ヘタレ! 敵はまだ目の前にいるぞ!」


「だからヘタレって言うな!」


 そんなやり取りをしながらも、俺はシールドンの指示に従い、なんとか二匹のゴブリンの攻撃を凌いでいた。攻撃は全てシールドン任せ。俺はひたすら盾を構えて、言われた方向に動かすだけ。それでも、ゴブリンたちはなかなかシールドンの防御を突破できないでいた。


「グギギ……!」


 痺れを切らしたのか、一匹のゴブリンが大きく棍棒を振りかぶった。大振りだ!


「チャンスだ、レオ! ヤツの懐に潜り込め! そして……盾で殴れ!」


「ええ!? 盾で殴るの!?」


「いいからやれ! 俺様のこの頑丈なボディで、一撃お見舞いしてやれ!」


 もうヤケクソだ! 俺はシールドンの言葉通り、ゴブリンの懐に踏み込み、左腕のシールドンを力任せに振り抜いた!


 ゴッ!


 鈍い手応え。ゴブリンは短い悲鳴を上げて、白目を剥いて倒れた。 


「おっしゃあ! 見たか、俺様の勇姿を! ……まあ、実際に殴ったのは貴様だがな!」


「はぁ……はぁ……疲れた……」


 残る一匹も、同じようにシールドンアタック(仮)でなんとか仕留めた。森の中には、三匹のゴブリンが転がっている。


「ふぅ……やった……のか?」


「ああ、やったぞ、レオ! 初陣にしては上出来だ! さすが俺様が見込んだだけのことはある!」


 シールドンは心なしか得意げだ。まあ、実際に活躍したのはほとんどこいつだけど。


「……なあ、シールドン」 


「なんだ、改まって。俺様の偉大さにようやく気づいたか?」


「お前、本当にただの盾なのか? なんか、やけに戦い慣れてるっていうか……」


 俺の素朴な疑問に、シールドンの赤い宝石が一瞬、複雑な光を宿したように見えた。


「……それは、またいずれ話す時が来るかもしれんな。今はとにかく、今日の勝利を祝おうではないか! よくやったぞ、我が主レオよ!」


「だから主はやめろって……。あと、腹減った。村に帰って飯食おうぜ」


「うむ! それがいい! 勇者も腹が減っては戦はできぬからな!」


 こうして、俺の涙目初陣は、なんだかんだで勝利に終わった。シールドンの毒舌と的確な(?)指示のおかげで、かろうじて生き残れたわけだが……。


(……本当にこれから魔王討伐なんてするのか? 俺……)


 帰り道、俺の心は一抹の不安と、ほんの少しの達成感で揺れ動いていた。そして、左腕の盾は、相変わらずやかましかった。


 第三章:おかしな依頼と変な仲間?

 ゴブリン騒動から数日後。俺は相変わらず、シールドンにせっつかれながら、退屈な(シールドンにとっては)平和な日々を過ごしていた。村の人々は、俺が森のゴブリンを追い払った(ことになっている)と知り、やけに尊敬の眼差しを向けてくる。やめてくれ、そんなキラキラした目で見ないでくれ。俺はただ、うるさい盾に操られていただけなんだ。


「おい、レオ! いつまでそうやって干し草の上でゴロゴロしているつもりだ! 新たな冒険が我らを呼んでいるぞ!」


「呼んでない呼んでない。俺を呼んでるのはこの干し草ベッドだけだ」


「この穀潰しが! 少しは勇者としての自覚を持たんか!」


 そんなある日、村の広場が何やら騒がしい。野次馬根性(だけは人一倍ある)を発揮して見に行くと、旅芸人の一座のような派手な馬車が停まっており、その周りを村人たちが囲んでいた。


「なになに? なんかあったのか?」


 俺が首を突っ込むと、村長が困ったような顔で立っていた。


「おお、レオ君! 実はな、この旅の方々が、ちょっと困ったことになっておってのう……」


 話を聞くと、この一座は「キャラバン・ドリーム」と名乗り、各地を巡業しているらしい。そして、彼らの大切な「秘宝」が、昨夜この村の近くで野盗に奪われてしまったのだという。 


「秘宝ですと!? それは聞き捨てなりませんな!」

 なぜか俺より先にシールドンが食いついた。


「ええ、そうなんです! あれは私たち一座のシンボルでして……あれがないと、公演もままならないのです!」


 一座のリーダーらしき、派手な衣装を着た女性が涙ながらに訴える。彼女はリリアと名乗り、その瞳は切実だった。


「ふむ……野盗か。レオよ、出番だぞ! か弱い乙女の涙を拭い、秘宝を取り戻してこそ真の勇者!」


「いや、俺は勇者じゃ……」


「つべこべ言うな! 人助けは勇者の使命だ! 村長殿、この依頼、我々が引き受けましょう!」


 シールドンが勝手に快諾してしまった。おい、俺の意思はどこいった。


 リリアさんはパッと顔を輝かせ、「まあ! 本当ですか!? ありがとうございます、勇者様!」と俺の手を握ってきた。……いや、だから俺は勇者じゃないって。でも、こんなキラキラした目で見つめられたら、断れないじゃないか……。


(……またこのパターンかよ)


 こうして、俺とシールドンは、リリアさんから野盗のアジトの場所を聞き出し、しぶしぶ「秘宝奪還作戦」を開始することになった。


「野盗のアジトは、ここから北にある岩山地帯の洞窟だそうだ。気を引き締めていけよ、レオ!」


「はいはい……。で、その秘宝って、一体どんなもんなんだ?」


「なんでも、『虹色に輝く伝説の鶏の卵』だそうだぞ」


「……は? 鶏の卵?」


 思わず聞き返してしまった。伝説の? 鶏の卵?


 なんか、こう、もっとこう……聖剣とか賢者の石とか、そういうのを想像してたんだけど。


「うむ。なんでも、その卵を舞台装置に使うと、素晴らしいイリュージョンが生まれるらしい。一座にとっては命よりも大切なものだそうだ」


「へ、へぇ……(それ、ただの珍しい色の卵なんじゃ……)」


 一気にやる気が削がれたが、引き受けてしまった手前、やるしかない。


 岩山地帯を進むと、リリアさんの言った通り、洞窟の入り口が見えてきた。入り口には、見るからにガラが悪そうな見張りが二人立っている。


「さて、どうする、レオ? 正面から突っ込むか? それとも奇襲をかけるか?」


「いや、どっちも無理だろ! 俺、戦闘はゴブリン相手がやっとなんだぞ!」


「情けない! では、俺様にいい考えがある!」


 シールドンが何やらコソコソと作戦を俺に耳打ち(?)する。 


 その作戦とは……。 


「……本気で言ってるのか、お前?」


「当たり前だ! 俺様の作戦に間違いはない!」


 俺は半信半疑のまま、シールドンの言う通りに洞窟の少し手前で、わざと大きな音を立てて石を転がした。


「ん? 何だ?」


 見張りの一人が音に気づき、こちらに近づいてくる。もう一人は持ち場を離れないようだ。よし、ここまでは作戦通り。


 近づいてきた見張りが、物陰に隠れていた俺の姿を見つける。


「なんだテメェ! こんなところでコソコソと!」


 その瞬間!


「いまだ、レオ! 大声で叫べ!」


「ええい、ままよ! 『お、お前の後ろに火の玉がーっ!』」


 俺はシールドンに言われたセリフを、渾身の力で叫んだ!


 見張りは「はあ!?」と間の抜けた声を出し、一瞬だけ後ろを振り返る。


「その隙だ! 突っ込め、レオ! そして盾で殴れ!」


「また盾で殴るのかよ!」


 文句を言いつつも、俺は見張りに突進し、シールドンを思いっきり叩きつけた!


 ゴッ! 見張りはあっけなく気絶した。


「よし! まず一人!」


「……なあ、シールドン。これ、完全に騙し討ちだよな?」


「戦術だ、戦術! 結果が全てよ!」


 もう一人の見張りも、同じ手口(今度は「お前の足元に蛇がーっ!」バージョン)で難なく(?)撃破。我ながら、こんなんでいいのかと思う。


 洞窟の中は薄暗く、松明の火があちこちで揺らめいていた。奥からは、野盗たちの騒がしい声が聞こえてくる。


「どうやら宴会中のようだな。好都合だ!」


「いや、逆に多勢に無勢でやばいだろ……」


 俺たちは息を潜めて奥へ進む。すると、広間のような場所に出た。そこには十数人の野盗たちが酒を飲み交わし、大声で騒いでいる。そして、その中央のテーブルの上には……あった! 虹色に鈍く輝く、鶏の卵くらいの大きさの石……いや、卵?


「あれが秘宝か……思ったより小さいな」 


「問題はどうやって奪うかだな……」


 と、その時。


「おーい、お前らー! 酒が足りねえぞー! 誰か蔵から持ってこーい!」


 野盗の一人が叫んだ。チャンスか? 


「レオよ、あの野盗に変装して近づくのだ!」


「変装って言っても、服とかどうすんだよ!」


「さっき気絶させた見張りの服を拝借すればよかろう!」 


「うわ、えげつないこと考えるな……」


 結局、俺は見張りの薄汚れた服を無理やり着て、フラフラとおぼつかない足取りで野盗たちの輪に近づいた。顔は俯いて、バレないように……。


「おう、お前、新しい酒持ってきたのか? 遅かったじゃねえか!」


 野盗の一人が俺に気づき、声をかけてくる。やばい、顔を見られたら一発でバレる!


「あ、ああ……ちょっと、腹の調子が悪くて……」


 俺はできるだけ声を低くして答える。


「なんだ、根性ねえな! ま、いいや、酒はそこに置いとけ!」


 幸い、野盗たちは酒に夢中で、俺のことなど大して気にしていないようだ。


 俺はゆっくりとテーブルに近づき、さりげなーく虹色の卵に手を伸ばす……。 


 とその時!


「ん? なんだおめえ、見慣れねえ顔だな……。まさか、あのヘッポコ見張りじゃねえだろうな?」


 野盗の頭目らしき、ひときわ体格のいい男が、ギロリと俺を睨みつけてきた! 


 まずい! バレた!


「ひぃっ!」


 俺は思わず小さな悲鳴を上げてしまう。


「やっぱりテメェ、何者だ!」


 頭目が立ち上がり、他の野盗たちも一斉にこちらを向いた。完全に囲まれた!


「……レオよ」


 シールドンが静かに言った。


「はい、なんでしょうか、シールドン様……」 


「……逃げるぞッ!!」


「だろうねッ!!」


 俺は虹色の卵をひっつかむと、一目散に出口に向かって走り出した!


「待てコラァ! 俺たちの酒の肴をどこへ持っていくつもりだ!」


「え、あれ酒の肴だったの!?」


 リリアさん、あんたの秘宝、野盗に食われかけてたぞ!


「やかましい! 捕まえろ!」


 野盗たちがワラワラと追いかけてくる!


「シールドン、どうすんだよこれ!」


「こうなったら仕方ない! 例のヤツをやるぞ!」


「例のヤツってなんだよ!?」


「いいから、俺の言う通りに動け! まずは右に避けろ!」


 言われるがままに右に避けると、すぐ横を棍棒が通り過ぎた。危ねえ!


「次はジャンプだ!」 


「無茶言うな!」


 それでも必死にジャンプすると、足元を何かが薙ぎ払った。


「そのまま体当たりだ!」


「どこに!?」


「目の前の酒樽だ!」


 俺はわけもわからず、近くにあった大きな酒樽に全体重を乗せて体当たりした!


 ガシャーン! 酒樽が倒れ、中身の酒が床にぶちまけられる!


「うわっ! 俺の酒が!」


「足元が滑るじゃねえか!」


 野盗たちが酒で足を滑らせ、次々と転んでいく。おお、これは……!


「どうだ、俺様の機転は! さあ、今のうちにずらかるぞ!」


「お前、たまには役に立つこと考えるじゃねえか!」


「たまにとはなんだ、たまにとは!」


 俺たちは、洞窟内でドタバタコメディさながらの大立ち回りを演じた末(主に逃げ回っていただけだが)、なんとか虹色の卵を抱えて洞窟を脱出した。後ろからは、野盗たちの怒号がまだ聞こえてくる。


 村に戻ると、リリアさんが心配そうに待っていた。 


「レオ様! シールドン様! ご無事で……! そ、その卵は!?」


「へへっ、なんとか取り返してきましたよ」


 俺は得意げに(シールドンの受け売りだが)虹色の卵を差し出した。


「ああ! 私たちの『夢見るレインボーエッグ』! 本当にありがとうございます!」


 リリアさんは涙を浮かべて喜んでくれた。……夢見るレインボーエッグって名前だったのか、あれ。


 こうして、俺の二度目の冒険(?)も、なんだかんだで成功に終わった。


 帰り際、リリアさんが俺にこっそり耳打ちした。


「あの……もしよろしければ、私たちの一座と一緒に旅をしませんか? あなたのような勇敢な方がいてくだされば、心強いのですが……」


「えっ」


 まさかのお誘い。俺はシールドンと顔を見合わせる(シールドンに顔はないが、そんな気がした)。


「ふむ、それも悪くないかもしれんな! 新たな冒険の舞台としては、うってつけかもしれんぞ、レオ!」


「いや、俺は平和に暮らしたいんだけど……」


 俺の小さな抵抗も虚しく、なんとなく、このお調子者の盾と一緒に、もう少しだけ旅を続けることになりそうな予感がした。……やっぱり勘弁してほしい。


 第四章:ポンコツ幹部とまさかの遭遇?

 キャラバン・ドリームの一員(仮)として、リリアさんたちと数日ほど旅を共にした俺とシールドン。まあ、一員と言っても、俺は相変わらず雑用係か、たまにシールドンに無理やり舞台に立たされて(盾役として)微妙な空気を生み出すくらいしかしていないが。


「レオよ、いつまでそんな隅っこでイジイジしているのだ! もっとこう、シャキッとせんか!」


「シャキッとして猛獣使いの檻に突っ込めとか言われても無理だろ! 俺、猫にも威嚇されるんだぞ!」


「情けない! それもこれも、貴様の勇者としての自覚が足りんからだ!」


 そんなある日、俺たちが次の町を目指して街道を歩いていると、前方に何やら禍々しいオーラを放つ一団が見えた。黒い鎧に身を包んだ兵士たち……そして、その中央には、やけに豪華なマントを羽織った、見るからに偉そうな男がいた。


「……ん? あれは……魔王軍の紋章!?」


 シールドンが、いつになく緊張した声を出した。

「ま、魔王軍!? おいおい、冗談だろ!? なんでこんなところにいるんだよ!」


「どうやら、我々もツイてないらしいな……。あれは間違いなく、魔王軍の幹部クラスだ!」


 マジかよ……。ゴブリンや野盗とはわけが違うぞ。あれは、本物の、ガチの敵だ!


「に、逃げるぞ、シールドン! 今すぐ回れ右だ!」


 俺が踵を返そうとした瞬間、


「待てい、そこの者ども!」


 偉そうな男……魔王軍幹部と思わしき人物が、こちらに気づいた。終わった。俺の人生、ここでゲームオーバーだ。


「ひぃっ!」


 俺はその場にへたり込みそうになるのを、必死で堪える。


 幹部はゆっくりとこちらに近づいてくる。その顔は……あれ? なんか、やけに眠そうだ。目の下にはクマができているし、髪もボサボサだ。


「……んー? なんだ、お前たちは。旅芸人か? ……ふぁ~あ」


 幹部は大きなあくびをした。威厳も何もない。


「(……おい、シールドン。こいつ、本当に幹部か? なんか、こう……ダメな上司の臭いがするんだけど)」


 俺は小声でシールドンに尋ねる。


「(う、うむ……確かに、覇気は感じられんな……。だが油断するな、レオ! 魔王軍の幹部が弱いはずがない!)」


 幹部は俺たちをジロジロと見回し、やがて俺の左腕のシールドンに目を留めた。


「ほう……その盾、なかなか古めかしいな。どこで手に入れた?」


「え、あ、これはその……拾い物でして……」


 しどろもどろに答える俺。


「ふむ……まあいい。我は魔王軍四天王が一人、睡魔将グーミンである! 我が名は魔王様もお認めになるほど、まどろみを誘うことで知られておる……ふぁ~」


 またあくびかよ! 四天王って、もっとこう……シャキッとしてるもんじゃないのか!?


「(四天王の一人がこれかよ……魔王軍、人材不足なんじゃ……)」


「(黙れレオ! 見た目に騙されるな! きっと何か恐ろしい能力を隠しているに違いない!)」


 グーミンと名乗った幹部は、俺たちを見下ろし、ため息をついた。


「はぁ……実はな、我は今、非常に困っておるのだ。先日、魔王様直々に、この辺りの村々から『やる気』を徴収してこいと命じられたのだが……いかんせん、我がこの性格ゆえ、どうにもこうにも『やる気』が出なくてな……」


 ……え?


「『やる気』を徴収……? なんですか、それ?」


 思わず聞き返してしまった。


「うむ。人間どもから『やる気』を吸い取り、それを魔力に変換して魔王様に献上するのだ。だが、この作業がまた、地味で面倒で……ああ、眠い……」


 グーミンは本当に眠そうだ。今にもその場で寝てしまいそうな勢いだ。


「(……おい、シールドン。こいつ、もしかして……ただの怠け者なんじゃ……)」


「(いや、しかし……これも罠かもしれんぞ! 我々を油断させるための巧妙な芝居かも……!)」


 シールドンはまだ疑心暗鬼のようだ。こいつ、意外と慎重派なのか?


「そこでだ、旅芸人のお前たち」


 グーミンが俺たちを指さした。


「ひとつ、我に協力してもらえんか?」


 ……は?


「協力……ですか?」


「うむ。お前たちのその芸で、村人たちの『やる気』を一時的にでもいいから、こう……グーッと高めてほしいのだ。そうすれば、我も徴収しやすくなるというもの……。成功の暁には、見逃してやらんでもないぞ?」


 なんだその無茶振りは! 俺たちに村人のやる気を上げろってか!? しかも敵である魔王軍幹部の手伝いをしろと!?


「(レオよ! これはいわゆる、絶体絶命のピンチというやつだ! しかし、逆に考えればチャンスかもしれん!)」


「(チャンスってなんだよ! どう見たってただの無茶振りだろ!)」


「(いいか、ここはグーミンの提案に乗るフリをして、逆にヤツのやる気を削ぐのだ! そうすれば、戦わずして勝利できるかもしれん!)」


「(そんなことできるのかよ……)」


 シールドンの無謀な作戦(?)に半信半疑ながらも、俺たちはグーミンの提案を受け入れるしかなかった。断ったら、今度こそ消されるかもしれないし……。


 そして、俺たちは近くの村の広場で、即席のステージ(?)を開くことになった。もちろん、観客は村人たちと、その後ろで腕を組んで(眠そうに)見守るグーミンと魔王軍兵士たちだ。


「さあ、レオよ! ここがお前の腕の見せ所だ! 俺様の指示通りに、魂のパフォーマンスを見せてやれ!」

「魂のパフォーマンスって言われてもな……俺、芸なんてやったことないぞ!」


 俺が舞台袖(ただの木の陰)でオロオロしていると、リリアさんがそっと近づいてきた。


「レオさん、大丈夫。私が合図をしたら、アレをやってください」


「アレ……ですか?」


 リリアさんはニッコリと微笑み、俺に小さな袋を手渡した。中には……色とりどりの紙吹雪?


 そして、キャラバン・ドリームのショーが始まった。音楽が鳴り響き、踊り子たちが華麗に舞う。軽快なリズムと明るい笑顔に、最初は遠巻きに見ていた村人たちも、次第に手拍子を打ち始めた。


「(よし、いい感じだぞ、レオ! このまま村人たちのテンションを上げていくのだ!)」


 シールドンが小声で指示を出すが、俺にできることなんて……。


 と、その時、リリアさんが俺に合図を送ってきた。今だ!


 俺は渡された紙吹雪を、思いっきり空中にぶちまけた!


 ヒラヒラと舞う色とりどりの紙吹雪。それは、夕日に照らされてキラキラと輝き、まるで魔法の粉のように見えた。


 村人たちから「おおーっ!」という歓声が上がる。


「(やったか!?)」


 しかし、その瞬間。


 一番後ろで見ていたグーミンが、ふらりとよろめいた。


「……な、なんだ……このキラキラしたものは……目が……目がチカチカする……うぅ……急に……眠気が……」


 そして、グーミンはバタッとその場に倒れ込み、そのままスースーと寝息を立て始めたのだ!


 ええええええ!?


「グーミン様!? 大変だ、グーミン様がお倒れになった!」


 魔王軍の兵士たちが慌てて駆け寄る。


「(……おい、シールドン。これって……)」


「(……うむ。どうやら、あの紙吹雪のキラキラが、ヤツの『睡魔』を刺激しすぎたようだな……。自滅、というやつか?)」


 まさかの展開。俺がまいた紙吹雪が、魔王軍四天王を眠らせてしまった……?


 そんなことある!?


 兵士たちは、ぐっすり眠ってしまったグーミンを抱え、

「こ、これは一時撤退だ! 覚えていろよ、人間どもー!」

 と、捨てゼリフを残して慌てて退散していった。


 ……嵐のように去っていった魔王軍。


 広場には、ポカーンとした村人たちと、俺たちキャラバン・ドリームの一座だけが残された。


「……勝った……のか?」


 俺が呟くと、シールドンが呆れたように言った。


「勝ったというか……なんというか……。まあ、結果オーライだな! さすが俺様の選んだ勇者だ、レオ! まさか紙吹雪で四天王を撃退するとは、思いもよらなかったぞ!」


「いや、俺もだよ!」


 こうして、俺たちは(主に偶然と敵のポンコツさのおかげで)魔王軍四天王の一人を退けることに成功した。


 リリアさんは「レオさん、すごいです! まるで魔法みたいでした!」と目を輝かせている。いや、本当にただの紙吹雪だって……。


 なんだかよくわからないうちに、また一つ、俺の(不本意な)武勇伝が増えてしまった。


 ……俺の平穏な日常は、一体どこへ行ってしまったのだろうか。 


 第五章:俺たちの冒険は……まだ始まったばかり?

 睡魔将グーミン撃退(?)の一件は、瞬く間に近隣の村々に広まった。


「旅芸人の一座に、魔王軍幹部を退けた謎の勇者がいるらしい」


 そんな噂が、尾ひれ背びれどころか、翼まで生えて飛び交っている。やめてくれ、ハードルを上げないでくれ。


「いやあ、レオ殿! あなた様のおかげで、この辺りも平和になりましたぞ!」


「これも全て、レオ様と、そのお供の喋る盾様のお力ですな!」


 行く先々の村で、俺はそんなふうに持ち上げられるようになった。シールドンは「うむ! もっと讃えるがよい!」とご満悦だが、俺の胃はキリキリと痛むばかりだ。


「なあ、シールドン……もう、いいんじゃないか? 魔王軍の幹部も追い払ったことだし、俺、そろそろ故郷の村に帰って、干し草ベッドと再会したいんだけど……」


 キャラバン・ドリームの馬車に揺られながら、俺はそっとシールドンに提案した。


「何を甘ったれたことを言っているのだ、レオ! 我々の目的は魔王討伐だぞ! 四天王の一人をたまたま眠らせたくらいで、満足している場合ではない!」


「たまたまって言うな! ……いや、まあ、たまたまだったけどさ……」


 シールドンは相変わらずやる気満々だ。こいつのモチベーションはどこから湧いてくるんだ。


「それに、だ」


 シールドンは少し声を潜めて続けた。


「あのグーミンとかいうポンコツ幹部、おそらく他の四天王にこのことを報告するだろう。そうなれば、次はお前を『要注意人物』として、もっと強力な刺客が送られてくるかもしれんぞ?」


「ひっ……! それは困る!」


 俺は思わず身震いした。そんな物騒な展開は絶対に嫌だ。


「だろう? だからこそ、我々は先手を打って魔王を倒しに行く必要があるのだ! それが、結果的にお前の平和な日常を取り戻す一番の近道だと、なぜわからん!」


「うーん……言ってることはわからんでもないけど……でも、魔王って……」


 正直、まだ実感が湧かない。魔王なんて、おとぎ話の中の存在だと思っていた。それが、まさか自分の人生に関わってくるなんて。


 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、リリアさんが微笑みながら話しかけてきた。


「レオさん、次の町に着いたら、大きな祭りがあるそうですよ。きっと楽しいですよ!」


 彼女は、俺が「勇者」だからではなく、ただの「レオ」として接してくれている気がして、少しだけ心が安らぐ。


「祭り……いいですね」


「ええ! 美味しいものもたくさんあるみたいですし、夜には花火も上がるんですって!」


 花火か……。故郷の村の小さな夏祭りを思い出す。あの頃は、まさか自分が喋る盾と一緒に魔王軍と戦うことになるなんて、夢にも思わなかったな……。


「なあ、シールドン」


「なんだ、また弱音か?」


「……もし、本当に魔王を倒したら、俺、本当に平和に暮らせるようになるのか?」


 俺の問いに、シールドンは少しの間黙り込んだ。そして、いつもの軽口ではなく、少しだけ真剣な声で答えた。


「……ああ。俺様が保証する。そのためにも、貴様にはもう少しだけ、俺様の言うことを聞いてもらわねばならんがな!」


 赤い宝石が、力強く輝いたように見えた。

「そっか……」


 まあ、こいつがそこまで言うなら、もう少しだけ付き合ってやってもいいか……なんて、ほんのちょっとだけ思ってしまった俺は、だいぶこの盾に毒されてきているのかもしれない。


 馬車は進む。目指すは次の町。そして、その先には何が待っているのか……正直、あまり考えたくない。


 でも、まあ、なんだかんだで、このやかましい盾との旅も、悪くない……なんてことは絶対にないけど、退屈しないことだけは確かだ。


「おい、レオ! 次の町に着いたら、まずは情報収集だ! 魔王城の場所を突き止めねばならんからな!」


「はいはい……。でもその前に、祭りでリンゴ飴食べたい」


「貴様は本当に食い意地が張っておるな! ……まあ、俺様にも少し寄越すなら許さんでもないが」


「お前、どうやって食うんだよ!」


 俺たちの珍道中は、どうやらまだまだ続きそうだ。


 ああ、俺の平和な干し草ベッドよ、いつになったらお前の元へ帰れるのだろうか……。


(俺たちの冒険は、まだ始まったばかり……なのかもしれない。勘弁してほしいけどな!)


【完】


ブクマと評価を頂けると作者が喜びます。本当に喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ