第八話 復活の盾男
「リーダー、調査って一体なにをするんですか?」
「モンズ君、君は初めて見るだろう?
これは『気跡レンズ』と言ってね、砕かれた遺物から人や遺物の持つ気の色を見分け、干渉した痕跡を見つけられる優れた道具なんだ」
「気跡レンズ.......?」
「ま、要するに『エネルギー波でできた指紋を見分けるためのレンズ』って認識してくれたらいいと思うよ。
で、今僕がやっているのがそのエネルギーの持ち主とエネルギーが干渉した時間の特定だ。
このサングラスは高額だけど、いざって時、エネルギーを見分けられるから便利なんだよね」
そんなことを言いながら武官のラルカは懸命に作業を進めていく。
遺物を拾い、砕き、見つめる.......そんな作業を延々と繰り返していると、ラルカは遺物の一部から妙な気が干渉している事実に気がついた。
「.......???
なんだこれ、人の気が混ざってる。
これ、天使の石とは別に何かがぶつかった跡がある。
もしかして、石が『遺物化』したのってこれが理由か?」
「遺物化.......?」
「物や動物が何らかの作用によって『遺物の一部として新生する現象』のことだよ。
詳しい仕組みは分からないが、遺物化は基本無機物に多く発生する現象だ」
「物や動物も遺物になるってことなんですか?」
「まあ極めてレアな事例ではあるがな。
しかし、それにしたって『遺物化』の痕跡が新しいな。
というか新しすぎる。
この遺物、つい最近遺物化したばかりのものみたいだが、どうも人為的な何かを感じさせるな」
武官のラルカは懐疑的な目で遺物の破片をまじまじと見つめている。
途端、周辺で見張りをしていたイーナンから緊急の伝達が入った。
「ラルカ、敵だ。
何かが近くにいる.......!!」
「よし、概ね情報は集まった。
さて、すぐに戦闘準備に入れ!!!
敵の視察を行い、迎え撃つぞ.......!!」
第七班はウーイズを残してラルカの指示に合わせ、全員が戦闘態勢へ移行する。
そしてイーナンの言う敵が現れた瞬間、ワシらは背筋をゾクリとさせる。
「反応が消えたのでまさかとは思ったが.......変異体はおろか遺物まで攻略されるとは。
少々、武人らを舐めていたよ」
そこに現れたのは先日『武豪』を名乗っていた男『エドナ』と途轍もない密度の神気を内に秘める翡翠の目を持つ長髪の男だった。
「エドナ.......!?
なぜお前がここにいる!?」
「ほう、ここはお前の担当だったか、ラルカ。
冴えないお前にしてはお手柄だな」
「御託はいい.......!
お前は何をしてるんだと聞いてるんだ、エドナ.......!!」
「あーあー、空気の読めない野郎だなあ?
黙って見逃せば生きて帰れたものを.......!」
エドナはワシらに向かって強烈な殺気を解き放つ。
そしてワシらがその気迫によって全身がピンと硬直したその瞬間、悲劇は起こった。
「ラムス、撃て」
エドナの命令が翡翠の眼の男の耳に届く。
次の瞬間、ラムスと呼ばれた長髪の男はラルカに向けて超高熱のレーザービームを心臓部へ打ち出した。
「ぐぅアッ.......!!」
武官のラルカはラムスのレーザーをまともに被弾する。
そして胸を穿たれると、血を吐き出しそのまま絶命へと至った。
「ラルカァアアアア!!!!」
イーナンがラルカのそばへと駆け寄る。
しかしその隙をエドナは一切見逃さなかった。
「危ないッ!!!」
ワシはイーナンに向けられたレーザーを止めるため、『粛清の遺物』の能力を右脚に流し込む。
しかし.......。
「うっ.......!
体が、重い........!」
ワシは使い慣れない神気の影響ゆえか、体全身が鉛のように鈍く、重く変わるのを実感する。
「まずい、このままでは.......!」
そんな最悪の事態が脳裏をよぎったその時、彼は盾を握りしめて、そしてレーザーを弾き防いだ。
「.......!!
ウーイズ!!!」
「すまん、迷惑かけたな。
ここは俺が引き受ける!!!
お前らは先に本部に知らせろ!!!」
「ウーイズ、お前.......!」
「さっきは情けねえ姿を見せた。
だが、今度はしくじらねえ!!!
モンズ、俺に手を貸せ!!!
さっきのこと、悪いが水に流してくれ!!!」
「.......おう!!!」
ワシはウーイズと共に拳を構える。
そしてラムスがレーザーを構えていたところを、ワシがカウンターで顎に蹴りを叩き込んだ。
「ほう、ラムスを上手く抑えたな。
なるほど、脅威はいつぞやのお前だったか。
『夢の遺物』を壊した男、モンズ.......!!」
「ふんっ、何が夢の遺物じゃ!!!
身に覚えなどありゃせんわい!!!」
ワシはウーイズに横目で合図を送り、ラルカの遺体を運んでもらう。
ついでに新人の武人とイーナンの移動を確認すると、ワシはニヤリと笑みを溢し、武者震いをした。
「お前さん、先日ルマと言い争ってたやつじゃな?
なぜ、ワシらに危害を加えるんじゃ?」
「あまり出しゃばるなよ、小僧。
お前は何も知らなくていいんだ。
それ以上踏み込むなら、お前たち全員消すぞ?」
「やってみい。
ワシは簡単には死なんぞ?」