第七話 新たな任務
変異体は敵性遺物へ視線を逸らし、そして顎をクイクイッと動かす。
ワシは彼の指し示す方向に『敵性遺物』があるのを目視する。
「.......それは、本気で言っておるのか?」
「信じないのならいい。
勝手に戦って勝手に滅べば終わる話だ。
だが、我々天使はそんなことは望んじゃいないんだ。
だから、我らを止めてくれ、モンズ.......!」
ワシは赤の槍を喰い止め、しばらく黙考する。
そして変異体が闘争本能の赴くままに拳を振るったところでワシは一定の距離を取り、ヤツに再度質問を問いかけた。
「.......ワシにその役目を負えと?」
「ちなみに言っておくが、今我々が守っている遺物は『人為的に生み出された物』。
つまり、お前たちの仕事は我々を止めた先にある」
「止めた先?
黒幕がいるってことか?」
「その通り。
我々は首謀者の手によって、武人連合の襲撃命令を遺物によって命じられている」
「.......武人連合を狙う魔の手が迫っているのじゃな?」
ワシは冷静に変異体の攻撃を見切り、そして右脚による蹴り上げを変異体の顎に叩き込む。
「ぐぅあっ!!」
「さて、ちと状況が厄介になったのう。
果たしてあのヨムドさんが、この件をどこまで知ってるのやら.......確認が必要じゃ」
ワシは追加で迫り来る侵略天使の猛襲を掻い潜り、そして敵性遺物へと走り出す。
途端、黒の変異体に何かが襲いかかったかのような打撃音が周囲に伝播した。
ワシの攻撃でぐらつく天使に奇襲を行ったのは、ウーイズの避難を終えた武官のラルカだった。
「モンズ君、待たせた!!!
ヤツらは僕が抑える!!!
だから君は遺物を破壊してくれ!!!」
「了解」
ワシは地上から五メートル地点に浮遊している天使の石に飛び上がり、そして遺物の神気を右脚へ宿す。
『粛清の遺物』の力を目一杯足に込めると、ワシは全身全霊で捻りを加え、その勢いの乗った脚を敵性遺物へと捩じ込んだ。
「粛清脚.......!」
ワシは「バキッ」と音を鳴らしながら、敵性遺物の芯に蹴りの衝撃を伝える。
そして遺物の力が一瞬で表面の反対側に伝播すると、遺物は瞬く間に砕かれた欠片へと姿を変えていた。
「.......ありがとう、モンズ。
どうか、黒幕を倒して、くれ........!」
変異体は安らかな顔でワシに微笑みかけ、そしてそのまま塵と化し霧散する。
周囲に待機していた侵略天使たちは遺物の消滅と共にその場から消えていくと、生き延びた第七班のメンバーたちは一斉にワシの方へ詰め寄った。
「モンズ、すごいよ!!!
まさか一人で変異体をやっつけるなんてね!!!」
「リーダー.......!
いや、今回はたまたま運が良かっただけですよ。
それより、少し気になることがあるんです」
ワシは武官のラルカに向かって「首謀者」の存在について話を進めようとしたその時、ラルカは明後日の方角を見るや否や、その方向に視線を釘づけにしていた。
「モンズ君、今回の件、誰かの思惑が絡んでいるのは事実か?」
「聞いてたんですか、リーダー?」
「話の途中からだがな。
それよりどうなんだ?
ヤツは、変異体は、どんな話をしていたんだ?」
ワシは武官のラルカに変異体ドレックスが突然語り出した事実とその概要を事細かに説明する。
そしてワシが大方内容を伝え終えると、武官のラルカはしばらく考え込んだのちに一つの決断を下した。
「リーダー、どうしたんですか?」
リーナンは武官のラルカに駆け寄り、彼が何かを考えていることに不思議そうな表情を見せる。
そしてリーナンが新たな問いを投げかけようとしたその時、ラルカはガッと振り向きワシらに召集の号令を呼びかけた。
「第七班、集合だ」
すぐそばの木にもたれかかっているウーイズを除き、ワシら三人はラルカの元へ急いで近寄る。
するとラルカは真剣な表情でワシらに新たな任務について話し始めた。
「ラルカ、一体どうしたんだよ、集合って」
「リーナン、非常に残念だが、これより新たな任務をお前たちに与える」
「任務.......?」
「モンズが話してくれたんだが、今回の件.......出来事の裏側には侵略天使を操る首謀者がいる可能性が浮上した。
そこで、僕とモンズ君を筆頭に、敵性遺物の痕跡と周辺の調査を開始する!!!」
「周辺の調査だぁ.......!?
ラルカ、お前一体どうしちまったんだ!?」
ベテラン武人のリーナンは武官のラルカの発言に困惑し、苦言を呈する。
しかしラルカの決意は変わらず、彼は第七班に立場上の権限を強制的に使用していた。
「リーナン、君は周辺の見張りだ。
敵を感知したらすぐに知らせろ!!!」
「.......あー、はいはい。
了解しましたよ」
そしてラルカは早速地面に落ちた『敵性遺物』の調査に取り掛かる。
ラルカは粉々に砕け散った破片を更に細かく解体していくと、七色のレンズのついたサングラスのようなものを取り出し、そして砕いた破片をじっくりと凝視していた。