第六話 闘争の悪魔
「悪夢の、変異体........?」
「モンズ君、急いで本部へ伝えるんだ!!!
走れ!!!」
「は、はいっ!!!」
ワシはラルカに言われるがままに武人連合本部の方向へ一目散に走り出す。
が、ワシらの動向を見張っていた変異体はワシの進行方向に『侵略天使』を送り込み、瞬時にワシらを包囲していた。
「しまった、囲まれた.......!」
第七班全員の間に緊張が走る。
その間、悪夢の変異体と呼ばれる黒いやつはゆっくりと地面に着地し、赤の槍を構えた。
漆黒の変異体はゆっくりとベテラン二人に近寄り、ニヤリと一笑する。
そんな最中、最初に緊張の拮抗を破ったのは囮役のウーイズだった。
「変異体.......!
コイツを仕留めれば、俺の評価は鰻登り間違いなしだ.......!」
「やめろ、ウーイズ!!!
お前に倒せるわけがねえ!!!」
「黙れ。
お前は俺より年下だろうが.......!
お前らは黙って見てろ」
ウーイズは「コイツは俺の獲物だ.......!」と言わんばかりに悪夢の変異体に突撃する。
ウーイズは踵を大きく上げ、変異体に向けて強烈な威力を込めてその踵を振り落とす。
変異体は赤の槍で甘んじて受け、ウーイズの更なる連撃も槍で巧みに捌いていた。
「チッ、ちょっとは頭が回るようだな。
だが、所詮は天使.......お前は昇格の踏み台だぁああ!!!
昇格、昇格、昇格、昇格、昇格、昇格ぅう!!!」
ウーイズは執念とも言える目つきで変異体に追撃を浴びせ続ける。
変異体はしばらくの間ウーイズを観察したのち、口らしき黒い穴から堕天の熱線を勢い任せに吐き出した。
「は.......?」
ウーイズは高熱の熱線を全身に喰らい、仰向けに倒れる。
全身黒コゲとなったウーイズはうつ伏せになり地面を這う。
そして.......彼は無様な姿でワシらに助けを乞いた。
「嫌だ、助けて.......!」
変異体はウーイズにトドメを刺すべく再度熱線を吐き出そうとエネルギーを溜め始める。
しかし、ウーイズの助けの言葉を聞いた途端、ワシの覚悟はとうに決まっていた。
ワシは変異体が吐き出したウーイズを襲う災難を自慢の蹴りで蹴り飛ばすと、ワシは興奮で身震いしながら漆黒のそれの前に立ち塞がった。
「.......」
「よう、黒天使。
ワシの仲間に手を出す気か?
あまり調子に乗るなよ?」
ワシはにんまりと笑いながら変異体ドレックスと対峙する。
その黒いフォルムからは考えられない強い気迫がワシの肌をピリピリと刺激している。
武官のラルカはワシがビームを蹴り飛ばした事実に驚愕すると、瞬時に機転を利かせウーイズを背負い運び始めた。
「モンズ君、強い君を見込んで頼みがある!!!
しばらく変異体を抑えこんでいてくれ!!!
僕は全員の......ウーイズの保護に回る!!!」
「無論、最初からそのつもりですよ」
変異体ドレックスは翼を増量し、翼の質量を倍にしたのち空中へ飛び上がる。
そして勢いよく羽ばたき突風を生み出すと、マッハで急接近しワシに槍を突き出した。
「うおっ!?」
ワシは懐に突き出された槍を手のひらで突き飛ばすと、槍を振り回す変異体にアッパーのカウンターを見舞う。
が、ワシの動きに瞬時に反応した変異体はすぐさま槍で防御を固め、ワシと拮抗した攻防を演じはじめた。
「ちなみに聞く。
お前ら天使はなぜ人間を襲うんじゃ?
見たところ、対話ができん連中には見えんが.......」
「天使の攻撃性は知ってるか?
天使は槍を振るい空の均衡を保つことでその地位を築いてきた。
いわばこの槍は『誇り』の象徴でもある。
だが、四十年前、事件が起こった.......!」
悪夢の変異体ドレックスは唇を噛み、悔しながらに語り始めた。
「まさか、遺物の雨に関係が.......?」
「大アリだ。
俺ら天使は『天使の石』と呼ばれる特殊なコロニーから生み出される、いわば人類の親戚のようなものだ」
ワシらは赤の槍と拳を交差させ、一切手を緩めないまま攻防を継続した。
「だが、俺たちの生まれる天使の石が『侵略の遺物』ってのに乗っ取られたんだ。
途端、天使は『秩序の象徴』から『闘争の悪魔』へと姿を変えた。
コロニーからは次々と闘争本能の塊が生み出され、そして俺たちは悪夢をもたらす怪物になってしまった」
「ならば、なぜそれを止めなかったんじゃ.......!」
「止められなかったんだよ。
逆らえなかった。
天使は精神的に天使の石に支配される構造を持つ。
だから止められないんだ.......!」
「そんな.......!」
「だから俺たちはどうにもできなかった.......!
目の前で起こりうる悲劇を、自らの手で生み出すハメになった.......!
お前にこの悪夢が分かるか?」
「悪夢.......」
ワシは絶句しながら変異体の槍を受け止める。
そして彼は更に続いて発言していった。
「モンズ、断じて言うが、俺たち天使はお前ら人間を恨んじゃいない。
むしろ自分らの無力さに失望しているまである。
だからよ、どうかあの敵性遺物.......諸悪の根源を壊してくれねえか?」
「えっ.......?」