7話「留学生活とスパイ生活が始まります」
「わあ……」
通路を出て見えてきたのは、2070年代の西洋の住宅街でした。
聞いたところによると、開発の過程で異世界のイメージに合わせて、西洋風の街並みで統一して作られたんだとか。
目の前には広場があって、ニホドリム国の住人がたむろしています。
人種も異世界だけあって、西洋人のようなほりの深い顔の人が多いです。
国は想像以上に広く、反対側の壁どころか、左右の壁すら見えません。
城壁のカーブの角度で国の広さが窺えると聞いたことがありますが、それの通りに考えると、この国は相当広いことが分かります。
おそらくですが、二つや三つの県くらいには相当するのではないでしょうか。
「夢の異世界ってやつですかー? 気持ちは分からなくもないですけど、早くしてくださいよー」
「あ、はい!」
私達は、地図を確認したり、人に聞いたりしながらこれから留学することになるニホドリム魔法学園へと向かいました。
道行く人は、ちらっとだけ私のことを見てきますが、とくにそれで陰口を言われたりはしませんでした。
人種差別を徹底的に禁止されているのか、はたまた日本から来た人物だからと物珍しそうに見ているだけなのか。
真意は分かりませんが、人種差別が無いだけでもかなり快適です。
今はまだ、留学という形でしか国民が行き来することはできませんが、いずれは移住も可能になって、少しずつ多民族な国になるのかもしれません。
それから、街の様子を眺めながら道を歩いていましたが、そこで気付いたのは、思ったより異世界感は無いということ。
地球人が積極的な開発を進めたのもあって、良くも悪くもヨーロッパ感のみの印象が強いです。
これはこれで、過去の西欧諸国にタイムスリップしてるみたいで、新鮮なんですけどね。
少なくとも、国の外に出ない限りは異世界感というのを味わうことはできないと思います。
そして……、
「ここがニホドリム魔法学園……」
「でけえ……」
目的地へと辿り着きました。
豪華な門に、豪華な建物。
日本でもここまで豪華な学校はそうありません。
魔法を取り扱う分、安全性に配慮されているのでしょうか。
門の先には庭が広がっていて、その先に建物があります。
この広さに対して、ドローンなどの警備が無いのが不自然ですが、理由など知る由もありません。
門は閉まっていますが、インターホンがあったので、それを鳴らします。
ピンポーン……。
少し待つと、
「はい。こちら、ニホドリム魔法学園です。ご用件をどうぞ」
声が返ってきました。
なので、
「はい。留学生の潤咲アヤミですけれども、通していただくことはできませんか?」
私のほうから返事をしました。
さすがに、こればかりはダコさんに任せるわけにはいきません。
いずれは、コミュ強になるつもりなので、その第一歩です。
私が転移する際、不手際のせいで想定とは別の場所に飛ばされたことを知っていたのか、
「潤咲アヤミさんですか?! どうぞ、案内しますのでそこでお待ちください」
一日遅れたからと言って、とくに怒られたりはせず、そこで待つように言われました。
やがて、インターホンの音がぶつっと切れて、しばらくして一人の教師がやって来ました。
「おはようございます。教師のトココと申します」
橙色のボブカットで、体格は小柄。
体のサイズに合っていない魔導服を着て、頭には魔女帽子をかぶっています。
全体的にだぼっとしていて、まるで子供みたいです。
かわいいです。
「それにしても、今日中には大捜索が始まる予定だったのですが……。いやはや、ご無事で何よりです」
物騒なことを言い始めました。
当然と言えば当然ですが、大捜索……。
始まる前で良かったです。
「それでは、授業はすでに始まっているのですが、まずは寮を案内しますね」
そして、トココ先生がそんなことを言い始めたので、
「そのことについてなのですが……」
私は、転移先が森だったこと。
森の中を彷徨っていると森の中に住んでいた住人に助けられたこと。
その住人の元で暮らしたいので、寮生活ができないことを、ダコさんを使ってアピールしながら説明しました。
必死に説明すれば、嘘もばれないはずです……。
それを聞いたトココ先生は、
「そうですか……。問題は無いとは思いますが、一応確認だけさせてもらいますね。それでは、教室のほうに向かいましょうか」
少し考え込んだ後に、寮の話は一旦保留という形にしました。
放課後までには、結論が出ていることでしょう。
そうして、案内が開始されることになったので、私はダコさんにしばしの別れを告げました。
「それじゃあ、行ってきますね」
「へーい……。あ、そうだご主人」
「?」
振り返って門へと向かおうとすると、ダコさんに引き止められます。
いつになく真剣な顔をしています。
「何かありましたか?」
私が聞き返すと、
「あの方も誰も説明してなかったから言っておく。耳貸して」
そう言って、私に近づいて来ました。
オウマ様と言わず、あの方と言ったのは名が知れ渡っているからでしょうか。
私が耳を傾けると、
「今のご主人。魔蝕計画で強くなってるから、下手すると簡単に人が死ぬぞ。魔法を使うにしても、最大限弱くすることを意識しなー」
そう耳打ちしてきました。
(そんなに強くなってたんですか……)
私は怖くなりましたが、とりあけずその言いつけを守ることにしました。
私は、こくっと頷いて、門へと向かいました。
色々ありましたが、いよいよ夢の留学生活の始まりです!