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5話「最強になった代償」

 次の日の朝のことです。

 私は、ベッドで目を覚ましました。


「……昨日のことが夢みたいです」


 魔蝕計画とやらで魔王様とその幹部の力を与えられて、私は一夜にして最強の人間になってしまったわけですが、それと同時に大変なことにもなってしまいました。

 ……結婚です。


 私は、計画の途中で耐えきれなくなり、死ぬ寸前でした。

 しかし、それをオウマ様が契約を交わすことで助けてくださったのです。

 その契約の代償が結婚でした。


 私は、異世界留学生活一日目にして、魔王城に迷い込んだ挙句に、魔王様と結婚を果たすという、過去例を見ない場面に遭遇してしまったのです。


「いっそのこと、夢って言われたほうが現実的ですよね……」


 私は、伸びをして起きました。

 服は制服からパジャマになっています。

 誰かが着せ替えてくれたようです。


 そういえば、力を得たあと私はどうやってベッドに戻ったのでしょう。

 たしか、そのまま眠りこけて……。

 おそらく、ダコさんが運んでくれたのでしょう。

 あとでお礼を言う必要がありますね。


ガチャッ……。


「ちっす」


 噂をすれば、そのダコさんがやって来ました。


「おはようございます」


「お、イメチェンかい? 高校生にゃ、ちょっと早いぜー」


 気の抜けた口調でそう返してきます。

 ですが、イメチェンって……?


「どこか変わっているのですか? パジャマはイメチェンに入りませんし……」


「あ、そっか。契約のあと寝ちまったもんな。ほれ、鏡見てみー」


 そう言って、ダコさんが部屋にある姿見(すがたみ)をこちらまで運んできます。

 そして私が見たのは……。


「何ですか……これ?」


 私の姿は、昨日に比べて変化を遂げていました。

 元々は、一色の桃髪でしたが、今はその桃髪に黒のメッシュが入っています。

 さらに、目のハイライトが消えていて、完全に死んだ魚の目をしています。

 端的に言えば、人間味が薄れていました。


「あれじゃね、オウマ様とかツキナ達の力を取り込んだからじゃね。真人間ならぬ、魔人間ってな」


「う、嘘でしょ……?」


 これでは留学から帰ってきたときにお母さんに何て説明をすれば……。

 と言っても、そもそも無事に帰ることができるのかどうかも、今は危ういのですが。


「安心しなー。ご主人は今も変わらず人間だぜ。魂も変わらず人の形をしてるしー」


「魂に形があるんですね。まあ、人間なのであれば、良かったです……」


 私は、とりあえず落ち着いて、深く息を吐きました。


「あ、そういえば三分以内に食堂に来なかったら、オウマ様がご主人を殺すってさ」


 落ち着けなくなりました。


「は、早く言ってくださいよ! あわわ……、殺されてしまいます!」


 私は、脇目も振らずに食堂へと駆けました。

 ダコさんが抜けている部分が多いのは理解していますが、さすがにここまでくると感心すら覚えます。

 お礼を言いそびれてしまいましたが、考えを改め直すべきなのでしょうか。


 それにしても、体が軽いです。

 足が速くなったような気がしますし、何よりずっと走っていても息が切れません。

 これも、魔蝕計画によるものなのでしょう。

 これなら、三分以内に食堂に辿り着けます。


 走って、走って、角を曲がって、部屋に入って……。

 私は食堂に辿り着きました。


 広い食堂ですが、昨日と同じで、まったく人がいませんでした。

 部下の方はたくさんいるはずなので、おそらくオウマ様が食堂に来たときは、使用禁止なのでしょう。

 もしくは、私が怯えるからと配慮してくれているのか。

 どちらにせよ、人が多い場所はあまり好きではないので、助かります。


 私は、オウマ様の下へと全速力で駆けつけました。


「どうした? そんなに急いで」


 オウマ様がそう聞いてきます。


「オウマ様が、三分以内に食堂に来ないと殺すと言っていたとダコさんから聞きまして……」


「……ああ、それあいつの嘘だと思うぞ」


「へ?」


「ダコはよく冗談を言うからな。冷静に考えて、契約まで交わしたのに、三分以内に来ないだけで殺すわけないだろ」


「た、たしかにそうですね……」


 私は、気が抜けてその場に座り込みました。


(焦りました……)


 何でもかんでも、誰かの言うことを鵜呑(うの)みにするのはやめましょう。

 そう思いました。


「本当に騙されてんねー」


 ダコさんがあとから遅れてやって来ました。


「ちょっと! ひどいじゃないですか!」


 私は、文句を言います。

 実質魔王軍幹部だからって、容赦はしません。

 それを聞いてダコさんは、


「なあに、ちょっとしたデビルジョークさ。正直者が馬鹿を見るんだぜ、この世の中」


 呑気にもそう返してきました。

 もう許せません。


「だ……誰のせいだと思ってるんですかー!」


 そんな私の声が、食堂に響き渡りました。

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