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4話「魔蝕計画」

 案内された先は、食堂でした。

 広々としていて、白い布が被せられた長方形のテーブルが、いくつも並んでいます。

 それだけ、魔王城には兵が多いのでしょうか。


 しかし、厨房(ちゅうぼう)で働いている方が作業をしている音がするくらいで、とても静かでした。

 今は誰もいないようです。

 ……ある数人を除けばですが。


 テーブルの一角には、オウマ様、それとダコさんから聞いていた鬼と半霊の女性がいました。


「はい、ここ座って」


「失礼します……」


 ツキナ様の案内の下、オウマ様の真正面にある椅子に、私は座りました。

 ダコさんは私の斜め後ろで腕をぷらぷらさせて立っています。

 どうやら、魔王様であろうと不真面目な態度は健在のようです。

 尊敬すら覚えてきます。


 テーブルには豪華な料理の数々が並べられていました。

 ステーキのようなお肉に、サラダや魚。

 四人ではとても食べられる量には見えません。

 地球ではこんなに高そうな料理を食べることは早々無いので、正直驚いています。

 まあ、ほどほどにしておかないと、肥満体型になってしまうでしょうが。


 やがて、オウマ様が話を始めました。


「さて、話を始めようか。改めて、アヤミには国に潜ってスパイをしてもらう。やることは簡単だ。留学生として学校生活を普通に送りながら、学校のトップに君臨しろ。お前の留学先は人間世界でもエリート校だから、各機関との連携も強い。周りから注目を浴びれば、それだけ受動的に自然と情報が入ってくる。それで、我が魔王軍の世界征服に役立ててくれ」


「その……質問よろしいでしょうか?」


「構わん」


「留学期間は一年で、時間も限られているなかで、私のような凡人がトップを目指すのは、非現実的な計画に思えるのですが……」


 そう、私はごく普通の人間です。

 学力は平均で、運動は人並み以下。

 50メートル走が遅いのはもちろん、持久走でも、先にゴールした大勢のクラスメイトから、注目されながら応援を受けるというトラウマを、毎回受けていました。


 そんな私が、したことのない魔法の勉強や実践を通して、ヒエラルキーの上位に昇り詰められるとは到底思えません。

 オウマ様は、そんな私を見て答えます。


「ああ、だから非現実を現実にできる魔蝕(ましょく)計画を実行する」


 オウマ様は、引き続き魔蝕計画とやらの説明を始めます。


「魔蝕計画は、俺や幹部の力を混ぜ込んだ料理を食べて、対象者を魔で(むしば)むというもの。リスクもあるが、成功すればとてつもない力を得られる。魔を食すので、貴様からすれば魔食計画とも呼べるな」


「なるほど……。それなら、トップも夢ではありませんね。しかして、そのリスクというのは……?」


「対象者のエネルギーが不足していたら、魔に体が乗っ取られて最悪死ぬ。だから、魔蝕を行う前にこうして大量に料理を用意させたんだ。最低でも、腹九分目以上は食べろよ」


「はい」


 四人では食べきれない量があるのも、納得のいく理由でした。

 絶対に死にたくないので、たくさん食べましょう。

 太るなんて、気にしている場合ではありません。

 私は早速いただくことにしました。


「いただきます」


 美味しいです。

 私の好きな食べ物であるうどんが無いのが残念ですが、地球にある料理とよく似ている食べ物が多かったので安心して食べられました。

 異世界開発プロジェクトにより地球の料理が人間世界に浸透して、それがこの魔王城でも取り入れられるようになったのでしょうか。

 私には知る由もありませんが、美味しいという事実があるので、とくに気にする必要はありません。


 その後、20〜30分程度かけて、これ以上食べられなくなるくらい、たくさん食べました。

 感覚では腹十二分目くらいです。お腹たぷたぷです。

 ちなみに、私が手をつけなかった料理は、そのまま幹部の方々の料理になるようです。


「よし、それじゃあ早速始めるぞ。準備に時間がかかるから、来るまでには食べられるようになるさ」


 それは良かったです。

 今までこんなに食べたことがなかったので、はち切れそうで心配でした。

 デザートは別腹と言いますが、今のままでは食べることすらままならないでしょう。


 そして魔蝕料理がくるまでの間ですが、とくにやることはありません。

 オウマ様は腕を組んで目を(つむ)っていますし、ツキナ様や他の幹部の方は、私が手をつけなかった料理達を、オウマ様や自分の下へと分けています。

 ダコさんは、何もすることなくぼーっと天井を眺めていました。


 というか、ダコさんはメイドなのに、今のところ仕事らしい仕事をしてません。

 なぜ、注意すら受けないのでしょうか。

 私は聞いてみることにしました。


「あの、オウマ様。こう言っては失礼かもしれませんが、なぜダコさんはメイドさんらしい仕事を何一つされていないのでしょうか……? 口調も丁寧とは言い難いですし……」


「ああ、ダコはメイドという役職を与えているが、本当は魔王軍幹部の一人なんだ」


「と言いますと……?」


「ここに座っている吸血鬼のツキナ、鬼のニオ、半霊のレイン、そして堕天使のダコ。これが魔王軍幹部の構成なんだが、ダコ自身が幹部をやりたがらなくてな。だから、仕方なくメイドという名目で、他のメイド達に紛れて家事などをさせたり、(まれ)に侵入者が来たときには、対応させるようにしている。ダコは俺でも制御はできない」


「そ、そうなんですね……」


 まさか、本当に最強キャラだったとは……。

 ダコさん自身が、わりと適当な人だったので、何かの冗談だと思っていました。

 魔王軍幹部が専属メイドとして付いてくれるなんて、かなり贅沢なことなのかもしれません。

 まあ、逆に世話が焼ける方でもあるのですが。


 そんなやり取りをしていると、厨房からメイドの方が身長に料理を運んできました。


「あれ、これって……」


 料理と言っても、それは完全にパフェでした。

 種類はチョコバナナパフェです。

 バニラアイスに、アイスにチョコ。

 普通のパフェと違うのは、禍々(まがまが)しい闇色のオーラが漏れ出ていることでしょうか。


「そう、パフェだ。その昔、人間世界ではパフェが流行していると知ってな。デザートは別腹なのだろう?」


「ま、まあそうですね……。ちなみに、これを食べたら、どうなるのですか? 最悪死ぬんですよね……?」


「知らん。多分苦しくなる」


「ええ……」


 不安で仕方がありませんが、私はスプーンを持って、勢い良くパフェを口にほおばりました。


「おっ、いい食いっぷりー」


 味は普通のパフェと変わらず美味しいです。

 甘党な私にとって、パフェとは至高(しこう)の一品になります。

 ですが、どうなるのか分からない以上は、味を楽しむ余裕はありません。

 一口、また一口と、休むことなく食べていきます。

 やがて、


「ごちそうさまでした……」


 完食しました。


「ふむ、あとは耐えるだけだな」


「はい。でも、すぐにくる……」


 すぐにくるわけではないんですね。

 そう言おうとしたときでした。


「ぐっ……!」


 強烈な腹痛がやってきました。

 私はその場に倒れ込んでしまいます。


「頑張れよ」


 オウマ様がそう声をかけてくれます。

 ただ、思った以上に苦しいです。

 今までの人生でかかったことのある病気の苦しみが、すべて詰め込まれたかのようでした。

 腹の痛みは、次第に全身にまわり、頭がくらくらしてきます。


「はあ……はあ……」


 私は、苦しみに喘ぎ続けます。

 体は震え始めて、全身が焼けるように熱くなったり、凍えるように寒くなったり……。

 これは一体、いつまで続くのでしょうか。

 自殺願望が無い私ですら、死んだほうがマシだと思えるほどの苦しみ。

 気を抜けば、本当に死んでしまいます。


 ですが、少しずつ意識が朦朧(もうろう)としてきました。


「オウマ様! これやばいですよ……?」


「生命力が衰えてきている……。このままでは、死んでしまいます……」


 鬼と半霊の女の子達が、オウマ様に必死に訴えかけている様子が辛うじて目に映ります。


「ああ、分かってる……」


 少しずつ体から力が抜けていきます。

 今度は昔の思い出が脳裏に……、走馬灯というやつですね。

 小学生の頃に転んで泣いたときや、中学生の頃に入りたかったけど、結局勇気が出ずに紙を提出しそびれて、一人寂しく下校を行なっていたときなどの記憶が(よみがえ)ってきました。

 ろくな思い出がありません。


 ……このまま死んでいくのでしょうか。

 そんな私を眺めながら、オウマ様は呟きます。


「……やむを得ないな。ツキナ、ニオ、レイン、ダコ。目を(つむ)ってろ」


「承知しました」「はい……」「了解……」「あい」


 オウマ様は、私の背中を持ち上げて、言いました。


不滅(ふめつ)(ちぎ)りを今ここに交わす。我が力を(かて)に、安らぐ少女に命を吹き込まん」


 そして、魔法陣が浮かんで、何が起こるかと思えば、突然オウマ様は私の(くちびる)にキスをしました。


「……?」


 死ぬ寸前だったみたいで、動揺する暇もありませんでしたが、キスをされた直後から、少しずつ体の痛みが抜けていきます。

 言葉を言葉として認識できるようになった頃、


「契約だ。お前の命を助ける代わりに、お前は俺の(つがい)になった。だから、……俺の妻になってくれ」


 オウマ様は、契りの内容を口にしました。

 命を助ける代わりに……。


「え、妻?」


 オウマ様のほうへと顔を向けると、オウマ様は頬を赤らめて、そっぽを向いていました。

 その状態のまま、喋り続けます。


「そうだ。契約にはそれに見合う対価が必要でな……。お前は命を与えられる、つまり自由を得る。そして俺は、対照的に自由を制限される。だから結婚だ。責任を取ってお前を養うという行為が、契約の対価になってしまったのだ」


「よく分かりませんが、要するに私はオウマ様と結婚をすることに……?」


「ああ……」


 その事実を認識すると同時に、私も頬が赤くなります。


「……」


 オウマ様、ツキナ様、ニオ様、レイン様、そしてダコさんが見守るなかで、私はとてつもない力を得ました。

 そして結婚。


 私の留学生活は、一日目にして普通でない道を歩むことになってしまいました。

 一体、これからどうなるのでしょうか……。

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