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42話「過去を知って」

「──とまあ、こんな感じだね。このあと何事もなく卒業して、魔王軍幹部として働き出して今に至る。……時々話を端折ったんだけど、分かってくれたかな?」


「は、はい。説明が分かりやすかったので、全部理解できました。ただ……」


「ただ?」


「この状況でニオ様に話させるような内容ではありませんでした。その……ごめんなさい……」


 ニオ様のお話は、私の想像以上に重く、苦しく、辛いものでした。

 理不尽の(ハイエスケープ)(ドラゴン)の襲撃によってレイン様の故郷が滅ぼされていたこと。ニオ様のお父様が目の前で暗殺され、しかもその首謀者がニオ様と深く関わりを持つ人だったこと。ニオ様が魔王軍幹部を務めているのは、その事件によるものだったこと。

 様々な重苦しい話が、一度にのしかかってきて、聞いているだけで心が圧迫されました。

 私が殺人を犯してしまったときに、ニオ様があそこまで責任を感じて追い詰められていたのは、自分自身が他人を殺して部屋に籠るほど苦しんだからなのだと気が付きました。

 私が謝ると、


「いいよ。さっきは言わなかったけど、これを話すのは私にとって罪滅ぼしみたいなものなの。アヤミちゃんに話すのは私のためでもあったから、気にしないで」


「そ、そうですか……。だといいのですが……」


 何とも言えない声色で、そう返されてしまいました。


(ううっ……。ニオ様がこう言ってくれているとはいえ、申し訳ないです……)


 私には暗い過去なんて何一つありません。しかし、それでも辛い過去を話すことの苦しみくらいは理解しているつもりです。だからこそ、ニオ様の心の痛みがよく伝わってきます。

 ……でも、このまま暗い雰囲気を引きずっても、余計に辛いだけですよね。私が何とかしないといけません。切り替えていきましょう。

 私はそう決心しました。


「ところで、何か質問はある? 今なら何でも答えるけど」


「え? 質問ですか?」


「うん。さっきの話でも、まったく関係の無いことでもいいよ。……無いなら、この件は一旦終わりにする」


「えっと……」


 質問……。

 色々なことを聞いたので、何かしら答えないといけませんよね。ニオ様のお父様のこと……。いや、レイン様について……。


「あっ、理不尽の五つ星(ハイエスケープ)についてなのですが、今はどうなっているのでしょうか?」


 最終的に思い浮かんだのは、理不尽の五つ星(ハイエスケープ)のことでした。これまでされたのは過去の話ですが、これに関してはこれからにも影響してくる可能性があるので、聞いておかなければならないと思ったからです。


「んっとね。イルナ様の死が確認されてから変わってないね。だから、理不尽の豚鬼(ハイエスケープオーク)理不尽の(ハイエスケープ)(ビースト)理不尽の機械女(ハイエスケープガール)理不尽の(ハイエスケープ)(ドラゴン)の四体がいるよ」


「多いですね……。レイン様がイルナ様の力を受け継いでいるので、単純に考えてレイン様レベルの化け物が他に四体いることになるんですよね……。怖いです……」


「大丈夫だよ。アヤミちゃんは世界でも有する者の数が限られている固有能力を五つも持ってるんだから。ポテンシャルに関してはあなたも十分化け物だし。自身持と?」


「あ、あんまり嬉しくないですね……。化け物JK……」


 強いに越したことはありませんが、面と向かって化け物呼ばわりは少し複雑です。

 ま、まあかわいくて強いは最強って言いますもんね……。あ、かわいいとは一言も言われていませんね。これではまるで自画自賛しているみたいではないですか。どうしましょう。


(全部心の中の独り言ですし、もう私はかわいいってことにしておきましょうか。自分を褒めることも時には大切なのです)


 意味の分からない結論で締めることにしました。本当に何考えているんでしょうね私。

 そんな無意味なことを考えていると、


「それじゃあ私は訓練を再開するけど、良かったらアヤミちゃんもやってみない?」


 ニオ様から訓練のお誘いを受けました。

 私は、


「はい! ぜひ!」


 即答しました。ニオ様の話を聞いて私も強くならなければならないと感じたからです。

 私は、その後ニオ様から指導を受けながら、剣術を学びました。




 昼頃になりました。

 訓練は一旦休憩にして、私達はダコさんの迎えの下、食堂へと向かいます。


「ダコ、仕事は順調?」


「んなわけねえだろですね。この仕事が嫌でメイドやってんのに、結局やらされるハメになってうんざりですよ」


「だいぶご機嫌斜めだねー。頑張ってね」


「ぐぬぬ……」


 ダコさんとニオ様がそんな話をしています。二人とも仲が良さそうです。


「ご主人もこの仕事やってみます? 結構楽しいですよー」


「今の流れで信じるわけないですよね……」


「ちっ……さすがに無理かー」


 ダコさんが、私のほうにも会話を振ってくれました。

 優しさでしょうか? いえ、違います。おそらく本心ですね。私がはいと言ったら、確実に仕事を渡してきたでしょう。油断も隙もありません。

 さて、そうこうしているうちに、食堂までたどり着きました。奥の席にはレイン様がお椀を三つほど並べて待っていました。いつものような大皿は、今回テーブルには乗っていません。何かあったのでしょうか?

 そう不思議に思っていると、私の様子に気が付いて、


「今はオウマ様達がいないから、好きなものを取っていくの。いつもは健康を意識したものばっかりだからね。もちろん、オウマ様やツキナ様には内緒で……」


「おおっ……!」


 ニオ様がそう教えてくれました。べつに、普段の食事が美味しくないわけではありませんが、バランスの良さが意識されている分、どうしても満足感に欠けます。

 私は、今だけ……! と思いうどんと鮭のおにぎりを注文しました。待っていると、ささっと作ってくれました。私はそれを席まで持って行きます。うどんと鮭が乗ったおぼんを机に置いて……。


「うどん……!」


 実に、一日ぶりのうどんです。

 昨日魔界風うどんを食べたばかりですが、それだけで満足すると思ったら大間違いです。毎日うどんでも構いません。あわよくば三食とも……。

 もちろんおかしなことではありませんよ? あるうどんが有名な県では、一日数食うどんを食べる人がいるだなんて話を聞きますし、私は至って正常なのです。


(生まれがそこだったら、手紙にうどん県って書けたのですが……。せめて、あの県に知り合いでもいてほしかったです……)


 まあ、考えても仕方がありませんね。それよりもうどんです。全員席に着いたので、早速いただきましょう。私達はうどんを……いえ、各々選んだものを食べ始めました。


 スズズズッ……。


「美味しいです!」


 うどん、最高です!

 ちなみに、ニオ様はかしわ天に唐揚げ、それとチキンカツにチキンライスを。

 レイン様はキノコご飯になめこの味噌汁。エノキの味噌汁に、各種キノコがたくさん入ったキノコスペシャルの味噌汁。

 ダコさんは、大きなハンバーグにカレーを選んでいました。


「あれ、そういえば今日はダコさんも一緒に食べられるのですね?」


 珍しく、ダコさんが席に着いて私達と一緒に食べています。いつもなら、横でただ立っているだけなので、その光景は少し新鮮でした。


「ん? ああ、今日はあの二人がいないので、ルールを守らなくてもいいんですよねー。ニオ様はこういうところ寛容ですし、レイン様も見て見ぬふりをしてくれます。みんなが食事を楽しんでいる間、目の前にある料理を我慢する必要もないので、最高ですよー」


「あ、あくまで今やってることは非合法なんですね……」


 まさかルール違反だったとは……ダコさんらしいですね。とはいえ、私もうどんを食べている身ですので、人のことは言えないのですが。赤信号、みんなで渡れば怖くないとは、このことを言うのでしょうね。

 それから、私達は各々の大好きな料理を堪能(たんのう)しました。

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