3話「だらしないメイドさん」
さんざん失言をした後、私は部屋に案内されることになりました。
「今日から、ここがあなたの部屋。常識の範囲内で自由に使ってくれとオウマ様が仰せよ。専属のメイドがこれからあなたに付くから、用事があったときはその子を頼りなさい」
ツキナ様が、部屋とルールについて説明をします。
これに加えて、部屋の出入りは最小限にする。
また、一人の行動は禁止で、専属のメイドの方を側につけておく必要がある。
など、細かく教えてくれました。
「なるほど……。それで、その専属メイドの方というのは……?」
「ええ、オウマ様が適任の子を選んでいるみたい、もうすぐ来ると思うわ」
私のお世話をする人になるので、この考え方は見当違いだと思いますが、できれば迷惑をかけないようにしたいですね。
さて、一体どんな人が来るのでしょうか。
コッコッコッ……。
すると、足音が聞こえてきました。
「噂をすれば……ね」
ツキナ様が呟きます。
足音は次第に大きくなって、やがて私の部屋の前で止みます。
そして、扉を叩いて、誰かが入ってきました。
「失礼しやーす……」
黄髪で、寝癖が目立つボサボサのロング。
だらだらとした立ち振る舞いに、やる気が感じられないジト目。
言葉遣いやその雰囲気から、気怠げな様子が感じとれます。
「あの、お名前を教えていただけませんか?」
「んー? お前が主人かよ。弱そー」
「な、名前……」
聞いたことに答えてくれません。
こういうとき、どうするべきなのでしょうか。
思えば前世でも、自分の意見を蔑ろにされることが多かったですね
舐められてるのでしょうか……。
「ほら、さっさと名前を答えなさい」
ツキナ様がフォローに入ってくださいました。
いきなり私を噛もうとしてきた、突拍子のないツキナ様が手を焼くほどですから、よほどの問題児なのでしょうか。
「ういっす……。私の名前はダコ。面倒なんで、自分のことくらい自分でやってくださいねー……」
自分のことすらできなさそうなダコさんは、そう名乗りました。
悪くも悪くもマイペースに見えるので、今後関わるのは少し不安ではありますが、一応オウマ様に仕える身ですし、何とかなることでしょう。
……そう思いたいです。
「はあ……。まあ、こんな感じでいつもだらけてる子だけど、よろしくね。何で、オウマ様がこの子を選んだのかは謎だけど……」
「が、頑張ります……」
本当に日頃から手を焼いているみたいです。
魔王軍幹部を前にしてこの態度、かなりの大物ですね。
「それじゃあ、あなたの今後の方針について、オウマ様と、他の幹部と会議をしてくるから、しばらくそこにいてね。ダコも、しっかりなさいよ?」
「分かりました」「あいよー……」
ツキナ様は去っていきました。
取り残された二人。
ダコさんは、何も言わずに私のベッドを占領し始めました。
「あの……」
「……何すか?」
ちょっと怖いです。
どんな人生を歩めば、こうなるのか不思議で仕方がありません。
でも、聞きたいことが山ほどあるので、我慢するしかありません。
挑戦です。
「ダコさんは、人間なのですか?」
オウマ様のツノや、ツキナ様の血の気の無い色白すぎる肌や八重歯とは違って、ダコさんにはとくにそれといった特徴的なモノがありません。
もしかしたら、ツノや翼を引っ込めたりして、オンオフで調整しているのかもしれませんが、分からない以上は聞くしかありません。
ダコさんは、大の字で今にも寝そうなほど力無い姿で、だらだらと言います。
「違う。私は天使だぞ、がおー」
「天使はがおーでは……って天使?!」
「うん、見てなー」
ダコさんは、のっそりと起き上がって、謎のポーズを取ります。
「変身」
通常なら、体が光に包まれてフリフリの服が部位ごとに現れるのでしょうが、そんなことはなく、普通に天使の輪っかが浮かんで、翼が生えてきました。
ただ……、
「真っ黒ですね……」
黒く濁った輪っかに漆黒の翼。
お世辞にも、天使らしいとは言えません。
堕天使です。
「そっ、仕事のサボりすぎで堕天したんだよねー。面白いでしょ」
「おもしろ……い? ……よく分かりませんが、サボるならほどほどにしたほうが……」
「ちぇっ、真面目ちゃんかよー……」
そう言って、再びベッドへと潜ります。
私、まだそこに座ってすらいないのですが……。
それから、しばらく部屋は静寂に包まれました。
とくに話すことがなければ退屈な時間。
でも、私はこの世界について分からないことだらけなので、タイミングを伺って時々質問をします。
めんどくさがりながらも、ダコさんは答えてくれました。
以下は、その質問と返答です。
Q1 魔王城周辺はどのような構造になっているのですか?
A.魔王城を中心として街ができてて、いつも天気はごろごろ雲ー。
Q2 魔王軍幹部は何人いますか?
A.何人だと思う?
Q.いや、それじゃアンサーになってないです……。
A.吸血鬼に鬼、それと半霊の人間で計三人だぞー。
Q3 なぜ、ダコさんが私のメイドになったのか、オウマ様から理由は聞かされていますか?
A.聞かされてないぞ。まあ、私って普段は不真面目なのに、いざとなったら頼りになる最強のキャラだしなー。強いからじゃねーの。
そんなこんなで時間は過ぎ、本格的にダコさんが眠りにつき始めた頃、
「夕飯の時間よ。今後の方針についてあなたに説明しておくことがあるから、いらっしゃい」
会議を終えたツキナ様がやって来ました。
時刻は分かりませんが、もう夕方のようです。
私は、なかなか起きないダコさんをゆすって起こして、ツキナ様の案内の元、食事をしに行くことになりました。