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38話「お前ら全員ぶっ殺す! 3ー3」

 いつも明るくて、とても優しかった先生が、今は剣を構えながら、鋭い目つきをしている。生えているはずのツノも、今は生えていなかった。


「まったく……。自分を囮にして私に攻撃役を担わせるなんて、自殺行為じゃない? ()()()


「ははっ。ウラギなら成功するだろって信頼だよ。実際、うまくいっただろ?」


「もう……。調子いいんだから……」


 二人は、仲睦(なかむつ)まじそうに言葉を交わした。


(まさか……)


 前にギル様は、自分には妻がいると仰っていた。それに加えて、ウラギ先生の()()()という呼び方から、ある一つの推測が成り立つ。

 それは、ギル様とウラギ先生が婚姻関係にあるということだ。

 二人が結婚していて、夫婦である目的を成し遂げるために、国への反逆を図ったというのであれば、色々辻褄(つじつま)が合う。


(ウラギ先生にツノが生えていないから、ウラギ先生は人間……? となると、勇者と魔王軍幹部による共謀(きょうぼう)なのかな……。動機が分からないけど、目的はお父さんの暗殺だろうから、彼等はやるべきことをすべて達成している)


 あれ……? これはもう私達の負けなんじゃ……。

 敗北、そんな言葉が脳裏によぎった。


 お父さんの命はもう還ってはこない。だから、今からどんな行動を取ったって、彼等の勝利には変わらないのだ。

 捕えたって、殺したって、何の意味も無い。(かたき)を取ったという意味では何かが満たされるだろうが、結局何も残らずに虚しくなるだけだ。

 もう、私には何もできないのでは……。

 私が、半ば諦めていると、


「さあて、ウラギ(人類最強の勇者)さんよ。俺と一緒に存分に暴れようぜ!」


「暴れて何になるの……。さっさと倒して、逃げるわよ!」


 ギル様とウラギ先生が、戦闘体制に入り始めた。

 二人の視界の先には、ボロボロのレインがいて、剣も持たずに立ち向かおうとしていた。

 先ほどのウラギ先生の一撃がかなり効いていたようだ。


時雨(しぐ)……レイン……!」


 レインの下に魔法陣が現れて、縦に半分で割って片側を水に、もう片側を闇に染めていた。

 魔法陣の外側の円には柱が八本形成されていて、同じく水と闇の柱が交互に立ち、ぐるぐると回っていた。

 片目は蒼く、もう片方の目は黒く発光し、黒青の山火事のような大きさのオーラを()(まと)った。

 レインの全力だ。


「ちっ……! 俺達もいくぞ!」


「ええっ……!」


 二人は声を揃えて、恋人繋ぎをしながら同時に叫んだ。


「|二面性逆襲形態(プロジェクト)《フタオモテウラギル》(フタオモメウラギルプロジェクト)・解放(始動)


 その瞬間、勇者の光のオーラと、魔王軍幹部の闇のオーラがぶつかり合って、すぐに混ざっていった。

 絵の具で色を混ぜ合わせて混沌色のような不気味なオーラで、時雨(しぐ)レインにも劣らない巨大なオーラを作った。

 三人が、ぶつかった。


雨完無理(うかんむり)


 レインが、手榴弾のように抱える闇を暴発させて、一つ一つに殺傷性が込められた無数の小さな玉を、全方位に撒き散らす。

 しかし二人は、


翻弄勇者(ほんろうゆうしゃ)」「断捨離段階(ギルステップ)


 それをい(さば)て避けて、完全に防ぎ切った。


「なっ……」


 予想外の結果にレインは動揺している。二人は、そのまま猛攻撃をしかけていく。


「……っ!」


 レインは、後ろに引き下がりながら辛うじて対処するが、明らかに苦戦を強いられていた。


(人類最強の勇者と魔王軍幹部のタッグ……。レインでもそう簡単には対処しきれない……)


 私は、それを眺めていた。ただ、ぼーっと眺めていた。

 って待てよ……?


(何で私は、(かたき)()つべき相手を目の前に、戦っている親友を目の前に、ただぼけっと突っ立っているの……? 倒さないといけないのに、助けないといけないのに、何で私はただ眺めているの……?)


 違う……! こんなことをしている場合じゃない!

 そこで私は気が付いた。


(ああ、そうだ……。目的が果たされたかなんてどうでもいい。とにかくレインを助けないと……。私を絶望させたあいつら全員に復讐しないといけない)


 やっても意味が無いとか、もう私にできることなんて無いとか、卑屈になって立ちすくんでいる場合ではなかった。

 事実とは絶対。だけど絶対正しいわけではない。理屈でどうこう言っても、行動しなければ結果は伴わない。

 今くらい感情に身を任せてもいいだろ……! 私は怒りの導線に火がついた。

 唱える。 


紅蓮解放(ぐれんかいほう)!」


 この世のすべてを燃やし尽くさんとする太陽のような聖なる炎を纏った。

 あまりの熱さで、周囲には時々プラズマが発生しており、目は紅く発光していた。

 戦っている三人は、私の存在に驚き、一斉に私のほうへと振り向いた。

 私は、これまでの鬱憤(うっぷん)を言葉に乗せて、怒号を浴びせた。


「ギル様、ウラギ先生……! よくも私のお父さんを殺してくれたな……! お前達に敬称なんてもはや必要ない。全員ぶっ殺してやる!」


 鬼の鋭い目つきで、炎を撒き散らす。どんどんと炎の勢いは増していき、今、私の限界をも超えていった。

 紅蓮を(まと)っている自分すらも、内側から焼けつくような熱さを感じた。


(数分も持たないかもしれない。でも、それでいい……! 限界を超えた一撃を、二人に叩き込む!)


 私は唱えた。


紅蓮蹴(ぐれんげ)り」


 大地に亀裂が入り、周辺にある建物すらも熱気だけで燃やし尽くしてしまいそうな勢いで、二人に挟まれる位置、つまり二人の間まで炎を纏って高速で移動する。

 そして、地面を力の限りぶん殴って、


旋風(ホワールウィンド)爆発(バースト)紅蓮(ぐれん)!」


 バーン!


 旋風(ホワールウィンド)爆発(バースト)紅蓮(ぐれん)を放った。

 旋風で二人を包み込み、大爆発を起こして衝撃を与えて、紅蓮の炎を旋風と爆発に相乗させて大ダメージを与える私の必殺技。


「ぐああああ!」


 男の叫び声、つまりギルの悲鳴が聞こえる。

 炎が止むと、ギルの全身は深い火傷を負っていて、倒れ悶えていた。

 一方のウラギはというと……


「くそ……! 二年も温めたのは間違いだったようね……」


 無傷だった。全方位に無属性のバリアを形成していて、私の必殺技をすべて防いでしまったのだ。

 私はすぐに拳を振るって、ウラギに一撃を喰らわせにいった。

 だが……、


 ダッ……! ガッ……! キンッ!


 何度振るっても、剣で受け流されるばかり。

 最後には金属音が発生して、腕が弾かれてしまった。


(実力の差か……!)


 何度挑んでも、(ふところ)を突ける気がしなかった。

 そのうち、後ろからギルが襲ってきたので、


「くっ……!」


 レインのほうへと一旦引いて、構え直した。


(どうするのが正解なんだ……。最適解を探さないと……)


 私は勝つ手段を必死に模索して、頭を回転させ続けた。

 しかし、実力は劣らずとも勝らない拮抗状態(きっこうじょうたい)なのが実情。

 どれだけ考えてもいい手段は思い浮かばず、次第に頭に激痛が走る。


「痛っ……!」


 数分は持つと思っていたが、予想以上に消費が激しいのだろうか……。頭が割れるように痛い。頭痛に意識が持っていかれて、考えるという行為が(おろそ)かになってしまう。

 頭を抑えて苦しんでいると、


「ニオ! 焦っては、本来の力を発揮することはできません。今は二対二ですし、倒すチャンスはいくらでもあります。怒りを(しず)めて、落ち着いていきましょう」


「レ……イン……」


 私は、その言葉を聞いて深呼吸をした。すると、炎の勢いが弱まって、体に溜まった疲れがどっと押し寄せて、過呼吸気味になった。


「はあ……はあ……はっ……ぁ……!」


(何この疲れ……。尋常じゃない……)


 持久走を走り終えたあとのような感覚に近いかもしれない。もしこのまま戦ってたら、奴等に一撃を喰らわす前に倒れていたかもしれない。

 改めて、レインには感謝しなければならない。

 少しして呼吸が落ち着いてきた私は、気を取り直して、


「ごめん、それとありがとう。おかげで頭が冷えた。一緒に戦おう! レイン!」


 そう声をかけた。


「ええ、どういたしまして。では私は、ニオが二人を相手している間に剣を取り戻してきたので、同じく剣を持つウラギ先生を相手します。ニオはギル様を」


「了解!」


 そうして二人のほうをみた。二人も、私が呼吸を落ち着かせたり、話している間に火傷を回復させて作戦を立てていたようだ。

 私達の目線に気が付くと、お互いに顔を見合わすのをやめて、こちらを向いた。

 再び勝負が始まった。


 私は、技を発動させるわけでもなく、走ってギルの下へと赴き、殴り合う。

 レインは、


()時雨(しぐれ)


 地を蹴り空を蹴り、ウラギの下まで高速で飛んで、斬り合いを始めた。

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