表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/45

37話「無双 3ー2」


「きゃああああ!」「逃げろ……!」「おい、押すなよ!」


 先ほどまで歓声だったものは、悲鳴へと変わっていく。場は騒然(そうぜん)として、混乱状態に(おちい)っていた。


(な……んで……?)


 私は、思考が停止した。

 誰もが逃げていくなか、私はその場に立ち尽くしていた。

 民衆はすぐに誰もいなくなり、第四広場には私とレインだけが残った。


(分からない分からない分からない分からない……!)


 何でギル様がお父さんを刺したの? 何の動機で? 目的で? 何で今実行したの? 何が起こってるの? 他の幹部の方々も何で止めないの? 全員グルなの? みんなも何で逃げるの? 逃げてないで誰か助けてよ! 私のたった一人のお父さんを!


 ……。


 突然のことに頭がパンクしそうになったが、少しずつ頭が回ってくるようになり、状況を理解した。涙が頬を伝って流れ落ちる。

 立つことさえままならない状態になって、膝から崩れ落ちた。


「あっ………ああっ……!」


 もう二度と、顔も上げたくない。そんな思いでただひたすら四つん這いで(うつむ)いて泣き続けた。

 そのときだった。


「固有能力『抑制』解除」


 私の真横でレインがそう呟いた。

 レインの目が黒く(にご)り、それまで内に秘めていた力を、闇を解放し始めた。

 抑制されたものがあふれだして、場の雰囲気を大きく塗り替えた。

 ギル様や他の幹部の人も私達の存在に、主にレインの存在に気が付いて、


「ちっ……気付かれたか……!」


 剣をお父さんに突き刺したまま、剣を手から離して身構えた。三人が、レインを睨み続ける。

 レインは、(にら)まれた状態で私に、


「ニオ、ごめんなさい。ルモノ様を助けることは、おそらくできません。ですが、今できることに精一杯取り組みますので、そこで休んでいてください」


 そう言って、腰に携えた鞘から、剣を取り出す。

 前触れもなく、戦闘は始まった。


剣銃(ソードマグナム)百三十四(ワンサーティフォー)


 レインちゃんを(まと)う大きなオーラから、数百程度の玉が分裂して出てくる。

 その闇の玉が、徐々に形を変えて、やがてすべてが剣の形になっていく。

 レインちゃんは片手を差し出し、(にぎ)(こぶし)を作って、剣を発射した。

 不規則に右や左から剣が飛んでいき、魔王軍幹部を苦しめる。


「ぐっ……!」「何よこれ……!」「やっば……!」


 幹部達が、持ち前の技でギリギリ捌き始めた。捌くのが限界で、他に目を向ける余裕は無さそうだ。

 そこにレインは技を重ねた。


()時雨(しぐれ)


 時雨を()(まと)って、真上に高速で跳び、そこからさらに空中を力強く蹴った。

 点と点を結ぶかのように、まるでワープをするかのように、幹部の女の一人の下へ飛んでいく。


時雨斬(しぐれぎ)り」


 ()時雨(しぐれ)の超速度を利用しながら、高速で()いで、幹部の女の体に、斬撃による深い亀裂を刻み込んだ。

 女は吐血しながら、あっという間に命を落としていく。


「まずは一人……」


「なにっ……!」「……!」


 剣銃(ソードマグナム)百三十四(ワンサーティフォー)の対処に追われていた幹部達が、一瞬遅れて反応する。

 反応して、剣銃を(さば)きながらレインのほうに首を向ける頃には、レインはもうその場にはいなかった。


「どこだ……!」


 幹部達が、左右をきょろきょろする。だが、見つけられない。

 レインの姿は、私にだけ見えていた。レインは、すでにはるか上空へと飛んでいた。

 ()(ひね)りながら、ギル様とは別のもう一人の幹部のほうに体を向けて、


一直線雷時雨(レールガン)


 剣を槍のように、勢い良くぶん投げた。

 剣が光の速度で飛んでいき、雷のようにピカッと一瞬だけ光ったかと思うと、


 ドゴォォォォン…………!!!!


 落雷の音がして、いつの間にかその幹部の人の心臓を貫いていた。


「がはっ……!」


 その幹部も、全身を硬直させながら倒れて死んでいく。


「これで二人目……」


 レインは、技を放った衝撃で後方にぶっ飛びながらそう呟き、やがて私の真横に着地した。


「レイン……」


 圧倒的だった。戦闘が始まってから、時間にして一分も経っていないだろう。数瞬のうちに、魔王軍幹部二名を(ほふ)り、残る敵はギル様ただ一人となった。


 ギル様は、


「……二年前もそうだったが、やっぱりお前は人ならざる化け物だな! おかげで、今も震えが止まらないぜ」


 大声で突然そう喋り始めた。

 初めは何事かと思ったレインも、


「……半霊ですから。それよりも、なぜこんなことをしているのでしょうか? 理由を教えてください!」


 距離が離れているので、その分大声を出して、質問を投げかける。

 ギル様は、


「答えないと言ったら?」


 揺さぶりをかけるように、こちらの様子を(うかが)いながら返してくる。

 レインは動揺することなく、


「一緒ですよ。答えようが応えまいが、どのみちあなたは殺します」


 そう答えた。


「だろうな……。国を裏切った反逆者に慈悲(じひ)なんてあるわけない。むしろいらない。さあ、かかってこいよ!」


「……」


 話はすぐに終わり、再び戦闘ムードへと戻った。

 レインは投げ飛ばした剣を取り戻すために、足を後ろに引いて軽く構える。


(おかしい……)


 私は、今の一連の流れを見て思った。なぜそう思ったのか。

 それは、ギル様の返答があまりに不自然だったからだ。

 自身を反逆者だと認識しているあたり、この暗殺は、事前に入念に計画されたものなのだろう。

 なら、今のこの状況は彼にとってかなりまずいはずだ。

 レインという魔界でも指折りの最強の敵が現れて、計画に参加しているごく少数の仲間、それも魔王軍幹部が二人も瞬殺されて、本来なら大誤算。もう少し焦ってもいいはずなのだ。

 にも関わらず、ギル様はかかってこいなどと、自棄(やけ)を起こしたかのように意味不明な挑発をしている。

 本当に気が狂ったのか。はたまた、計画の範疇(はんちゅう)なのか、私には()(よし)もない。

 だが、どちらか分からない以上、こちらから見れば不自然な行動なので、警戒するしかなかった。

 レインも、当然その異常さを感じ取っていて、警戒していた。


 しかしレインは、このままでは何も変わらないと判断したのか、一呼吸を置いて、戦う決心をした。

 そのまま地を蹴って、高速で一直線にギル様の下へと向かっていった。


 ──だが、その判断は誤りとなってしまう。


光波(シャイニングウェーブ)勇撃(ゆうげき)!」


「!」


 レインがギル様の下へと向かっている途中で、死角からタイミングを合わせられて、真横から光の斬撃が、地から伸びるように飛んでくる。

 それが、レインの体に命中し、


「ぐっ……!」


 レインは真横に吹っ飛ばされた。

 私が唖然(あぜん)としていると、技を放った本人が、華麗に飛びながら、ギル様の横まで飛んでくる。


「……は?」


 その人は、私達の担任であるはずの、ウラギ先生だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ