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29話「第七代目魔王 2ー1」

 それから、数ヶ月が経ったある日のことだった。


紅蓮波(ロータスウェーブ)!」


 私は、授業の一環(いっかん)として、学校の中にあるとある闘技場の上で、レインちゃんと戦っていた。

 剣を振ることによって、紅蓮色の衝撃波が、何本もの斬撃となって、レインちゃんの下へとまっすぐ飛んでいく。

 それをレインちゃんは、()わして、()わして、最後には……、


「斬……!」


 木刀で私の斬撃を斬ってしまった。


「嘘でしょ?!」


 そのまま、目が追いつかないくらいの超スピードで私のすぐ目の前まで来て、


「チェックメイト……」


 私の喉元に、その木刀を突きつけた。


「試合終了!」


 その瞬間、先生の合図が出て、私達はそれぞれ武器を下ろす。

 そこから私は能力を解除して、反対にレインちゃんは能力を発動した。


「いやー。やっぱり勝てないねー……」


「いえ、ニオさ……。ニオ……もこの数ヶ月で見違えるほど強くなっていますよ。実際に、クラスの皆さんからの評価も上がっていますし……」


 クラスのみんなのほうを見ると、


「異次元……!」「この二人だけおかしい……」「ペアが唯一固定だもんね……」


 口々に感想を言い合っていた。


「本当だね、私も注目されてきてる。……気持ちいい」


 数ヶ月も経てば、環境や雰囲気もがらりと変わって馴染(なじ)んでくるものだ。

 私は、クラスの全員と仲良くなることができて、レインちゃんも、私の命令で戦闘時以外は能力を発動させ続けることで、その気後れな性格がクラスメイトに受け入れられるようになっていた。


 今は、私にさん付けをやめさせることで、より距離を縮められるようにしている。

 レインちゃんは躊躇(ためら)っているが、このタイプの子はきっかけが無い限り、自ら変わろうとはしないので、させるしかない。

 少しずつ仲良くなっている気がして、ちょっと嬉しい。


「では、次のペア、戦闘開始!」


 先生の合図で、次の人達の試合が始まった。

 両者が互いに剣や魔法をぶつけ合う。

 だが、私達の試合のあとということもあり、


「おっ、今のいい一撃」「落ち着くー……」


 ゆったりとした空気で、試合を観察して談笑を楽しんでいた。

 やがて、すぐに決着がつく。


「おつかれー」「いい勝負だったよ」


 あっさりと交代していく。

 二人の表情に若干の落ち込みが見えるのは、やっぱり私達のあとだからだろうか。

 クラスのみんなもノリがいいとは言え、落差のせいか反応は薄いし……。

 何だか申し訳ない。


「それでは次……ってあなたは……!」


 先生の合図で、次のペアの戦いに移行しようとしていたときのことだった。

 先生が突然、闘技場の出入り口のほうを向いて、そこにいるある人物に驚きの声をあげた。


「……?」


 私を含め、クラス一同が出入り口へと振り返ると、そこには一人の男が立っていた。

 赤髪で、ローブを(まと)っている。厳格な雰囲気を保ち続けるその男は、今この魔界で最も影響力のある人物で、


「第七代目魔王、ルモノ様?!」


 魔王だった。

 その男は、私の下へとまっすぐ近付き、私へと声をかける。


「よっ! さっきの戦い見てたぞ。強くなったじゃないか」


「やめてよ、お父さん。結局、負けちゃってるんだし……」


 そう、その魔王は私のお父さんだった。


「はははっ。世の中勝ち負けだけじゃないぞ。この俺が言うんだ。間違いない」


「たしかに。説得力が違うね」


 と言うのも、お父さんは魔王なのに、力はそこまで強くない。

 おそらくだが、今の私でも簡単に倒せるレベルだと思う。

 ではなぜ、それでも魔王の地位につけているのか。

 それは、お父さん自身の政治や経済の手腕(しゅわん)にある。


 お父さんは、頭脳が誰よりもずば抜けていて、この魔界を大きく発展させた。

 以前までは、地球という世界から来た異世界の住人による開発支援の影響で、人間界の国々に国力で大きく遅れを取っていた。

 しかし、お父さんの活躍によって、魔界は多少の規模は劣れど、人間界に対抗できるほどまで、経済発展を遂げることができたのだ。

 この一件を通して、お父さんは国民から絶大なる支持を受けて、力を持たずとも魔王としてこの魔界に君臨することができている。


 そんな私達のやりとりを見て、


「……」「……え?」「なに、どういうこと……?」


 みんなは事態が分かっておらず、騒然としていた。


「あ、ごめん。そういえば言ってなかったね」


 なので私は、ある一つの事実について話した。


「私のお父さん。魔王なんだ」


 それまでざわついていた場が、私の一言によって突然静かになった。

 それから一瞬遅れて、私の言っていることを理解した一同は、目をかっぴらいて、大きく口を開けて、


「「「えーーー!」」」


 部屋全体に響き渡る大声を出して、大変驚いていた。


「何だニオ、言ってなかったのか?」


「うん。とくに言う必要が無かったし、タイミングも無くて」


「そうか。でもさっきできただろう。事前に説明しておくべきだったな」


「んな無茶な……」


 みんなが驚きつづけるなか、先生が慌てて駆けつけて来た。


「る、ルモノさま。本日はどうされましたか……?」


 さすがに先生でも、相手が魔王となればいつもの調子ではいられないみたいで、立場上強く出られず、及び腰で丁寧に対応していた。

 お父さんはそれに答える。


「視察という名目で、愛娘(まなむすめ)の活躍を見に来ました。いやはや、ニオもなかなかすごいですな」


「そうですね……! 学年には二人しかいない学校内でも有数の固有能力者で、その名を日々学校に(とどろ)かせています」


「ほう。それは素晴らしい。さすがは我が娘だ」


 お父さんが、そう言いながら私の頭を撫でる。


「じゃあ、授業の邪魔だから、放課後まで大人しくしておいてね」


「ああ。──それでは先生、視察を続けたいので、授業の続きをお願いできますかな?」


「は、はい! 次のペア、準備をしてください。……それでは、戦闘開始!」


 その後も授業は続いた。


     *     *     *


「なあ……。父さん、女子寮にいて通報とかされないかな?」


 授業がすべて終わり、私とお父さんは自室に向かって歩いていた。

 道中、お父さんがそんなことを呟く。


「いいんじゃない? 魔王だし。すれ違う女の子達も、お父さんを見て恐縮(きょうしゅく)しているよ」


「それはそれで申し訳ないし嫌だな……。して、ニオよ。わざわざ部屋で話したいことがあると言うからついて来たが、要件は何だ?」


 そう。こうして女子寮までお父さんがついて来ているのは、視察のためではなく、私がそう提案したからだ。

 理由を問われたので、私は答える。


「それも部屋じゃないと話せない。強いて言えば、今部屋の中で待っている友達が深く関係してくることかな」


「そうか。心の準備をしておくよ」


 そして、しばらく歩いて扉の前までやって来た。

 私達は、ドアノブを引いて部屋へと入る。


「こ、こんにちは……」


 中には、メイド服姿のレインちゃんがいて、文字通り出迎えてくれた。


「う、うむ?」


 私はもちろんのこと、お父さんも困惑しているので、私が代わりに聞くことにした。


「どうしたの? その格好……」


 レインちゃんは、スカートを両手で強く握って、俯きながら恥ずかしそうに答える。


「大事な客人をもてなす際には、メイド服を来て優しく出迎えるのがマナーなんだよと、クラスメイトのシダンくんが言っていました。なので、おもてなしです……」


 ものの見事にレインちゃんは騙されていた。


「それ、確実に騙されてるね……」


「えっ……?」


 指摘されたレインちゃんは、騙されたことに、場違いな服装をしているその事実に気が付いて、


「えっ……? あっ……」


 あまりの恥ずかしさに顔を抑えながら、その場に座り込んでしまった。


(純粋って罪だなあ……)


 私はそう思った。

 そして、


「で、では恥ずかしいとは思うが、話を進めようか」


 お父さんがそう言ったので、私も切り替えることにした。


「うん。それじゃあ話を始めようか。消えた六代目魔王の行方と、レインちゃんの関係性について」

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