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28話「始まり 1ー3」

 それから、教室に戻ってきた。

 今日は始業式がメインだったみたいで、学校案内だったりは、わりとあっさり済まされた。

 諸々(もろもろ)の行事が終わると、あっという間に放課後の時間になった。

 それで……、


「レインさんすごすぎない?! 何でそんな強いの?」


「レインちゃんの抑制って何? もしかしてまた力を隠しているとか……」


「レインさん。いや、もはやレイン様だ! みんな崇めろ!」


 先ほどの私達のやり取りなど忘れたかのように、レインちゃんをクラスメイトが取り囲んで、質問攻めをしていた。

 レインちゃんは、


「えっと……」


 さすがに困っているみたいだ。

 表情にあまり変化は見られなかったが、顔をしかめて冷や汗を流していた。

 冷徹な子なのに、ちょっとだけしどろもどろになっている。


(はあ……。私はもはや蚊帳(かや)(そと)か……。一応二位なんだけどなあ……)


 やっぱり、みんなは一位にこだわっちゃうんだ……。

 そんなことを考えながら、嫉妬心を内に秘めて助けようとレインちゃんに近付いた。


「ねえ、レインちゃん。一緒に帰ろ!」


「あ……。はい」


 私が手を差し出すと、レインちゃんはその手を握って立ち上がった。

 鞄を持って、二人でとっとと教室から立ち去る。


「それじゃあみんな、またねー」


 それだけ言って、教室を後にした。



「……ありがとうございます。助かりました」


 廊下を歩きながら、レインちゃんはそう言った。

 感謝の気持ちは言葉に(こも)っていないが、そう思っていることがよく伝わってくる。


「いいよ、困ったときはお互い様だし。それじゃあこのまま帰ろっか。レインちゃんって寮生活?」


「はい」


「おっけー。途中まで一緒に行こ? ついでに友達になろ?」


「前者に同意します。後者はお断りします」


「お堅いなあ……」


 途中まで、一緒に行くことになった。

 ちなみに、今さらだがこの学校には寮があり、私は今日からそこに入る。

 男子寮と女子寮で分かれていて、一部屋につき二人で生活することになっている。

 食堂などの男女共同スペースもあるが、そもそも食堂に男女共同スペースとか言う概念は当てはまらないので、ここら辺は無視する。


(それにしても、今のやり取りで分かったけど、レインちゃんって本当にただ他人の心を理解していないだけなんだよね……。感情が(こも)っていないけど、感謝の気持ちはしっかりあるし、最低限の礼儀も持ち合わせてる。ただ、友達拒否宣言のときみたいに、相手に誤解を与えてしまうことがあるから、何とかしてあげたいな……。なら、なおさら友達になって仲良くならないと)


 レインちゃんに嫉妬心があることには変わらないが、かと言って本人に思い上がる節は見当たらない。

 なので、この心は内に秘めたまま殺して、レインちゃんをサポートできるように側にいてあげたいと、心から思った。


 さて、そうこう考えているうちに、自分の部屋まで来た。


「じゃあ、私この部屋だから、またね」


 レインちゃんにそう言って別れを告げて、部屋に入ろうとした。

 すると、


「あ……私もここです」


「……え?」


 レインちゃんが私の制服の(すそ)を引っ張って、そう言った。

 まさか、そんな偶然があるなんて……。

 私達は、そのまま部屋へと入った。


     *     *     *


「あ〜、疲れた……」


 部屋に入って、家から送った諸々(もろもろ)の荷物を整理して、ようやく準備を終えた私は、二段ベッドの下の布団に、体を沈めた。


「あれ……、ニオさんは下のほうを使われるんですね」


「あ、ごめん。下の方が良かった? 上代わろうか?」


「あ、いえ。そうではなくて。ニオさんは明るくて陽気な人なので、てっきり上で寝るものかと」


 ん? どういう理屈だろう。

 よく分からないが、あのレインちゃんがせっかく話しかけてくれたので、冗談を言ってみるとしようか。


「馬鹿は煙は高い所が好きってことかな……? 失礼しちゃうな〜」


 しかし……、


「違います。ただ、過去の傾向として陽気な人は皆上を取りたがっていたのでそう思っただけです」


 何の動揺も見せずにそう言い切る。

 そうだった。レインちゃんに冗談は通じないんだった。

 私は、すぐに切り替えて話題を転換させることにした。


「ま、まあいいや。とくに理由は無いけど、私は下で寝るね。それより、今日の話をしようか」


「今日……? 何かございましたか?」


「能力診断だよ! レインちゃん断然トップだったけど、何でそんなに強いの?」


「ああ……。それですか……」


 どこか歯切れが悪そうに呟いた。

 ただでさえ暗い表情が、さらに曇ったような気がした。

 それから少しして、口を開く。


「これは借り物の力なんです。──私は元々辺境の村に住む人間だったのですが、あるとき巨大なドラゴンの襲撃に遭いました。建物は木っ端微塵に破壊され、家族や友人も殺され。私も血反吐をぶち撒けて野垂(のた)れ死にました。そのあと、偶然立ち寄っていた人が、ドラゴンと互角に渡り合って、村から追い返してくれたみたいです。ただし、命と引き換えに……。そんな名も知らない英雄の魂が、偶然にも私の体と結びついて、私は半霊として生き返りました。魔界へ来た詳細は伏せますが、私が周りより少し強いのは、その英雄の力をもらったからなんです。だから、私はべつに強くありません」


 レインちゃんは話した。

 自分の過去を、そして強さの理由を。


(あ、これ聞いたらダメなやつだったな……。どうしよう……)


 いきなりどっと重い話がきたな……。

 私は、そう動揺しながらも返した。


「そっか。……話してくれてありがとうね。でも、レインちゃんは力を受け継いだ。だから、その力は間違いなくレインちゃんのものだよ。借り物だなんて言わないで」


 うまく返せただろうか。

 不安で仕方がなかったが、レインちゃんの心には響いたようで、


「そうですか。……たしかに、捉え方次第で変わりますね」


 レインちゃんはその答えに納得してくれたようだ。

 心無しかどこか安心感を抱いているように……。多分見えなくもないと思う。

 私は、今がチャンスと言わんばかりに聞きたいことを聞くことにした。


「……それとさ、固有能力の抑制についてなんだけど、あれってどういう能力なの? この学校、私達しか固有能力持ちがいないみたいだし、気になってさ」


「べつに、大したものではありませんよ。この能力は、唯一借り物ではなく私が元から有していたものなので」


「え〜、どんな能力か気になるなー。教えてよー」


「むう……」


 私が一押しすると、レインちゃんは腕を組みながら熟考し始めた。

 今した過去話よりもよほど話しやすいと思うが、そんなに躊躇(ちゅうちょ)することなのだろうか。

 私は、レインちゃんが話すのを待ち続けた。

 そして、


「……構いませんよ。あまり使いたくはありませんが、お見せします」


 レインちゃんは、荷物の準備を一旦やめて、立ち上がった。

 そのまま、能力の説明を始める。


「私の能力は『抑制』。自身の力や感情を制御する能力です。ただし、調整がうまくできないので、発動すると力も今の私の人格も、最大まで抑制されてしまうので、まるっきり別人になってしまいます。……それでも見ますか?」


 レインちゃんが、覚悟の決まった顔つきで聞いてきた。

 私も、覚悟を決めて、答えた。


「うん。お願い……!」


「……分かりました」


 レインちゃんは、呼吸を整えて、言った。


「固有能力、『抑制』発動……」


 その瞬間、レインちゃんを取り巻くどす黒い雰囲気が、レインちゃんを象徴するあらゆるものが、レインちゃんの体の中へと吸い込まれていく。


(さあ、どうなる……? 横暴になるのか、はたまた陽気になるのか……)


 私は見守り続けた。

 それから、オーラが取り込まれて完全に能力が発動されたことを確認した。

 果たして、抑制されたレインちゃんはどうなったのか。

 レインちゃんは口を開いた。


「こ、これが私の能力です……。このように、力や感情が極限まで抑えられます……」


 私と目を合わさずに、そして恥ずかしそうに、体の前で両手をわちゃわちゃさせながら、レインちゃんはそう言った。

 その姿は、もはや別人だった。さっきまでは近寄り難くて、冷徹な雰囲気を(かも)()している無情な女だったのに、今は気弱そうで、つい守りたくなってしまうような、お姫様みたいな女の子になっている。


「か……かわいい」


「へ……?」


 私の今抱いた想いが、爆発して口からあふれだした。


「何これかわいすぎるよ! 私より注目されてすっごく嫉妬してたけど、そんな感情も消え失せちゃうくらいかわいい!」


「そ、そんなこと考えていたんですか……。っ!」


 私はかわいいの感情にあふれすぎて、思わずレインちゃんを後ろにある机まで追いやってしまった。


「な、何ですか……?」


 レインちゃんは、そんな私の行動によって、明らかに困惑していた。

 さっきまでは私がレインちゃんに振り回されていたのに、今は私がレインちゃんを振り回している。

 一つ一つの挙動が、臆病な子のそれで、とってもかわいかった。

 私はさらに詰め寄る。


「今のレインちゃんは誰よりもかわいい! 絶対にそっちのほうがいいよ! ねえ、友達になる? なろうよ!」


「お、お断りします……」


「なろう!」


「お断r……」


「なろう!!!!」


 私は、興奮気味にレインちゃんの発言に覆い被さって言った。

 今のレインちゃんには断る勇気が無いと踏んだからだ。

 それで友達になって守りたい! 愛でたい! 独占したい!

 案の定レインちゃんは、


「あ……。えっと、はい……。友達に……なります……」


 断りきれずに萎縮しながら答えた。

 こうして、波瀾万丈な一日は、終わりを告げるのであった。

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