27話「能力診断 1ー2」
少しして、朝のホームルームの時間になった。
今日から担任となる先生がやって来て、自己紹介を始める。
「はい、私の名前はウラギと申します。これから三年間、君達の担任を受け持つので、みんなよろしくね!」
女の先生だった。黄髪のローポニーテールで、頭には一本のツノが生えている。
きっちりとスーツを着こなしているのに対して、明るく気さくな性格で、その一言でクラスのみんなを安心させた。
(少なくとも、レインちゃんをまとめきれそうな人だ……)
下手に厳しい先生だと、レインちゃんとぶつかり合って関係が拗れていたと思うので、明るい先生で本当に良かった。
もしかしたらこの先生でも制御できなさそうな気もするけど……。
しかしまあ、レインちゃんって本当に変わっている子だなと思う。
コミュニケーションを取らなさすぎて、つい出しゃばってしまうちょっとイタい子とはまた違っていて、単に空気の読めない子のような気がする。
自分を貫きすぎて、他人を蔑ろにしている……。みたいな。
何にせよ、周りと溶け込めないその性格は非常に難儀だ。
徐々に変わっていけるように頑張ってみようかな?
そんなことを考えると、
「じゃあ、今日の流れを説明しようか。まずは始業式に出てもらう。校長先生の話を聞いたり、入学時の能力診断を行ったりね。そのあとは、また教室に戻ってきて、学校の説明などを行う。ざっとこんな感じだから、授業は無いよ」
先生が説明を始め、終えた。
「よし、出席番号順に並んで移動!」
私達は廊下に出て出席番号順に二列に並び、体育館へと赴いた。
体育館に着いた。
中にはすでに一年生が集まっていて、クラスごとに席が用意されており、みんなそこに座っていた。
私達のクラスも並び順に席に座った。
それから間を少し置いて、校長先生が階段を上がった舞台の上で、マイクに向かって声を出す。
「はい、えー校長のコウチョです。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。それでは……」
校長先生の長話が始まった。
希望がどうのこうの、未来がどうのこうのと、典型的なこれからも頑張れ! 的なメッセージを、たわいも無い話を交えながら喋る。
それから、10分。
「この学校の歴史について……」
さらに20分。
「そこで、当校の卒業生であるイソセさんは言いました! 夢の無い世界に夢をもたらすかどうかは、自分自身の認識によって変わると。結果的に……」
(な、長い……)
校長先生は何分経っても喋り続けていた。
校長先生の話はどの世界でも必然的に長いと決まっているが、さすがにもう終わってほしい。
中身の無い話をされても退屈なだけだが、べつにそれは、中身があればどれだけ話してもいいってわけじゃない。
もし、この話を立って聞くことになっていたら、何人が貧血で倒れていたのだろうか……。
周りの生徒も、明らかに最初よりだらけ始めていた。
手がふにゃふにゃになっていればまだマシなほうで、ひどい生徒は頭を下げて寝始めている。
先生は寝ている生徒を起こしにくる様子はないし、毎年恒例なのだろうか。
だとすれば、校長は魔界において最も魔な存在だ。
(早く終わって……眠い……)
私も私で、眠気に苛まれて目を閉じ始めた頃、一人の少女が脇から出てきて、校長の横についた。
そして、
「であるからし……」
「新入生代表のレインです。宣誓を行います」
校長先生の話を強制的に遮って、自分の話を始めた。
少女はレインちゃんだった。
(れ、レインちゃん……?! ……そうか。空気が読めないから、逆にこういった行動を躊躇無く行えるんだ)
普通ならここは耐えるところだが、レインちゃんは違う。
自分に正直だからこそ、他人の目など意に介さずに、前に進むことができる。
彼女には、そんな不思議ちゃん特有のパワーがあった。
助かるけど、絶対あとで怒られると思う。
「──以上です」
校長先生とは違って、レインちゃんの話はあっさりと終わった。
話が終わると拍手が起こるのが普通だが、レインちゃんへの拍手は、通常のそれとはまったく異なっていた。
歓声が上がるとまではいかないが、救世主を見るような目で、暖かく大きい盛大な拍手がされた。
校長が、ちょっと悲しそうな目をしている。
(何とかなって良かった……)
それらが終わると、最後に能力診断の時間になった。
脇から、大きな水晶玉が台の上に置きながら運ばれてくる。
「はい、それでは一組の皆さん。ご起立ください」
クラス毎に一列で並んで、舞台の上にある水晶玉へと上がっていった。
ちなみに、能力診断とはその名の通り、自身の能力値を測るものである。
入学時や新学期の初めなどに定期的に行われ、筋力値や魔力などのステータスを詳細に測ることができ、それらが総合力として数値に表れる。
総合力上位十名はモニターに映し出されたりと、エンターテインメントとして優れているお楽しみの行事だ。
ちなみに、固有能力持ちの人はプラスで得点になるので、必然的に上位に昇り詰めやすい。
私のような物珍しい部類に入る者は、固有能力を持つだけで有利になるのだ。
固有能力持ちの優越である。
そうして、淡々と診断が行われていき、私のクラスになり、次第に私の番がやってきた。
「はい、それでは水晶玉に手を触れてください」
私は、片手を差し出して水晶玉へ触れた。
すると、謎の呪文が水晶玉の周りをぐるぐると回り出した。
「なっ!」「何だあれ……?」「もしかして……!」
通常時、水晶玉はほのかに光るだけなのだが、どうやら私のような固有能力持ちが触れた場合は、特殊な反応を起こすようだ。
(何か、ガチャの確定演出みたい……。それで言うと、私SSRとかの部類に入るのかな……?)
しばらく呪文がぐるぐると周ると、呪文が水晶玉の中へと取り込まれていった。
そして、数値が出る。
「ふむ……」
【ニオ】
筋力1632(平均 842)
防御力 647(平均 598)
速度 794(平均 700)
魔力 2987(平均986)
固有能力【紅蓮】 5051(平均 --)
総合力 11111(平均 3126)
「やば!」「化け物すぎる……!」「かっこよ……」
歓声が上がった。体育館中がざわつき始め、みんなが私の話をしている。とっても気持ちがいい。
総合力は、現時点で断然トップ。一位だった。
二位の総合力は5932だったので、大差をつけている。
(まあ、固有能力が無かったら6060だから、ちょっと危なかったんだけど……)
本当は優越に浸れるほどの余裕は無い。
でもまあ、それは固有能力が無かったらの話だ。
つまり、今の私は優越に浸れる。もっと私を崇めなさい。
私は心の中でそう思い続けた。
顔は優等生らしくお淑やかに、だが心の奥底ではえっへんな表情である。
そうして鼻を高くしながら席に戻っていると、
「次が最後だね。では、水晶玉に触れてください」
レインちゃんが水晶玉の前に立っていた。
そういえば、レインちゃんはどれくらい強いんだろう? 独特な雰囲気を纏っているし、並の実力では無さそうだけど……。
(まあ、私よりは下なはず……)
レインちゃんが水晶玉に触れた。
すると、
「うわ!」「まただ!」「確定演出だ……!」
呪文が水晶玉の周りをぐるぐると回り出した。
(レインちゃんも固有能力持ちだったのか……)
しばらく眺めていると、表れた。
……異常な数値が。
【レイン】
筋力1922(平均 842)
防御力 2356(平均 598)
速度 8061(平均 700)
魔力 2679(平均986)
固有能力【抑制】 3031(平均 --)
総合力 18049(平均 3126)
「うおおお!」「すごい!」「やばすぎる……!」
(な、何これ……。私よりも、強い人がいるなんて……)
私は開いた口が塞がらなかった。
冷や汗を流した水晶玉の数値を眺め続ける。
私の数値よりも基本的に一回りは上で、防御力や速度に関しては、私が一生をかけてもたどり着けないほど数値が高かった。
「さっきの人よりすごい!」
「がはっ……!」
トゲのある言葉が私の体を突き刺した。
胸が痛い……。さっきまで優越に浸っていたのが恥ずかしい……。
調子に乗ったらこうなるんだな……。
そうわからせられた……。
それでもって当の本人は、
「……」
とくに何の反応も示さずに、階段を降りてゆく。
ここまでくれば恐ろしいの領域だ。
(くそっ……。卒業までに絶対に見返してやるんだから……!)
私は、歯軋りをしてレインちゃんを睨んだ。




