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24話「魔王軍幹部の能力披露」

 やがて夕飯の時間になり、食堂に一同が(かい)し、食事が始まりました。


「………………」


 誰も、何も喋ることはありません。


 オウマ様は、風格のある顔で黙々と野菜を食べています。

 ツキナ様も、同じくクールな顔で野菜を食べます。

 ニオ様は、恋する乙女のようなどこか安心したような顔で野菜を食べています。

 レイン様は、静かな状況に耐えながら、気まずそうに野菜を食べています。

 私は、そんな皆さんを眺めながら野菜を食べます。


 全員で野菜を食べているので、シャキシャキやバリボリといった野菜を噛み砕く音が、空間に響き渡り続けます。正直に言うとうるさいです。

 まさか、野菜に対して騒がしいという印象を抱くことになるとは思いませんでした。


(それにしても、ここまで誰も喋らないこともあるのですね……。いつもは、何かしら学校のことについて話したり、ニオ様が積極的に場を盛り上げようとしてくれるのですが……。まあ、あの一件があったのですから、仕方ありませんね……)


 今日起こった事件は、それだけこれからに影響することだったと言えます。

 魔王城は、これから魔界での対応に追われるでしょうし、呑気にお喋りする暇など無いのでしょう。

 私は、野菜を食べ終えて、魚を食べ始めました。


「あ、そうそう。今日の訓練についてなんだけど、今日は休みにしようと思う。その代わりに、話しておきたいことがあるから、訓練室には来てくれる?」


 ツキナ様が、私に話しかけます。


「はい」


 話しておきたいこととは何でしょうか。

 気になりますが、今ここでそれを聞き返すと意味が無いので、深くは聞かず黙りました。

 気まずい沈黙の食事は、終わりのそのときまで続きました。


     *     *     *


 食事が終わってから一時間後、私は前を歩くダコ様と共に、訓練室へと向かいます。


「……」


 ダコさんは、ずっと静かでした。いつもとずいぶん調子が違うので、少し緊張します。


「なあ、ご主人様」


「え? あ、はい……!」


 突然後ろを振り返って、私に声をかけてきます。私は驚きながらも返事をしました。

 ダコさんは、メイドらしいしっかりとした立ち振る舞いで、呟くように言います。


「オウマ様は、自室に籠ることを良しとしなかったですけど、私はべつにいいと思うんです。辛くなったら逃げたくなる、それが当たり前ですから。だから、どうしても困ったときはお申し付けください。そのときは、協力しますんで」


 目だけはいつも通りのジト目のまま、口は微笑んでいます。

 その立ち振る舞いは、まさに頼れる者のお姿で、


「ダコさん……」


 私は、つい魅入られてしまいました。

 ダコさんは、再び前を向いて、歩き出します。

 どうやら、ずっと私のことを心配してくれていたそうです。

 仕事のしなさすぎで堕天使となったそうですが、今のダコさんは、誰よりも人を想える立派な天使のように見えます。


「……ありがとうございます」


「ん、何か言ったか?」


「いえ、何も」


 そんなやり取りを交わしながら、訓練室へと入っていきます。




「……」


 訓練室。そこはまるで、闘技場でした。

 目の前には階段があって、それを登ると真四角の大きな舞台。フィールドがあります。

 舞台の上には、オウマ様を含めて、魔王軍幹部の皆様がそこに集結していました。


「来たわね。話を始めるわよ」


 ツキナ様が、こちらに気が付き、そう言いました。

 私達が舞台の上へと登ると、話が始まります。


「早速なのだけど、今日起きた事件は、アヤミの力の暴走によるものだと結論が出たわよね」


「……はい」


「つまり、今後も特殊な状況下では力が暴走して、周囲に甚大(じんだい)な被害を及ぼす可能性がある。今回は、その対策について、説明を行おうと思う。ダコ、準備を」


「はーい……」


 ダコさんが、部屋の隅から何かを漁って、持ってきました。


「……?」


 それは、人形でした。人の形を模した、硬い素材でできた的です。

 見た感じ、訓練用のものでしょう。剣術を磨いたり、魔法を当てたりと様々な用途で使われるのだと思います。


 ダコさんは、それをひょいと持ち上げると、一つ二つとぶん投げて、舞台のど真ん中に着地させていきます。


 ドンッ……! ドンッ……! ドンッ……!


 人数分である五つの人形が設置されました。


「あの、これはどういうことですか?」


 私が聞くと、


「対策の説明をする前に、話しておこうと思ってね。魔王軍幹部と、オウマ様の固有能力について」


 そう答えが返ってきました。


「そういえば、ツキナ様以外の方の固有能力をまだ聞いていませんね……」


 強い能力には違いないのでしょうが、一体どんな能力なのでしょう……。

 私がごくりと(つば)を飲むと、ツキナ様が話し始めます。


「まずはダコ。能力名は『怪力(かいりき)』で、シンプルに並外れた力を有することができる。ダコ! 怪力、よろしく」


「任せなー……」


 ダコさんが人形の目の前までやって来て、


「固有能力発動、『怪力』」


 そう口にします。

 その瞬間、黄髪のロングが揺れて、発生した黄金色のオーラが、ダコさんの全身を包みました。

 天使の輪っかのようなリングが、手首と足首の周りに、土星の輪のように現れます。

 それから、


絶対の一撃(アブソリュートパンチ)


 ダゴさんが言い放ちながら、人形へと全力でパンチを繰り出します。

 人形に触れた瞬間、点と点でワープしたかのように、人形があっという間に壁まで吹っ飛び、


ドン!


 壁に大きな穴を開けました。穴には大きな亀裂(きれつ)が入ります。

 技を放ったダコさんは能力を解除して、オーラや輪っかを解きました。


「……!」


「ん? 何驚いてんですかご主人様。ご主人様にもこの力が使えるんですぜー」


 私は、その力に圧倒されていました。何せ、力に圧倒されたのは、この城へ来たとき以来まだ二度目なのですから。

 私が呆気(あっけ)に取られていると、


「はい次、どんどん行くわよ。次はニオ」


「うん。了解」


 今度はニオ様が人形の目の前に立ちます。


「固有能力発動、『紅蓮(ぐれん)』」


 そう言い放つと、赤色の炎がニオ様の全身を(まと)います。

 炎の熱さが伝わってきて、私の(ほお)を汗が流れてきました。

 ニオ様は、その状態で片手を人形へと(かざ)して、もう片方の手で(かざ)した手の手首を、添えるように掴みます。

 そして、


紅蓮砲(ロータスカノン)


 周囲を(ただよ)う炎がその手に集約され、放ちました。

 ニオ様の(かざ)した手が、反動で真上に跳ね上がります。


 ドォン!


 音が聞こえてくる頃には、紅蓮色の大きな火の玉が人形を貫通していました。

 体の真ん中を貫かれた人形は、そのまま炎が伝播(でんぱん)して、その体を失くしていきます。

 少しして、跡形(あとかた)もなくなりました。


「り、料理とかに使えそうですね……」


「いや、食材どころか調理器具すら無くなるわよ……」


 驚きすぎて、見当違いなコメントを残して、案の定ツキナ様に突っ込まれました。

 次は、レイン様の番です。


「えっ……私……? うええ、失敗したらどうしよう……」


 レイン様は、両腕を胸の前であたふたさせて萎縮しながら、人形の前に立ちます。


(前から思っていましたが、レイン様って私よりよほど臆病な人ですね……)


 まだあまり関わりはありませんが、それだけは分かりました。

 七代目魔王様が暗殺された際には、共謀(きょうぼう)(くわだ)てた勇者と幹部の方へと立ち向かって暴れたらしいですが、とてもそんな風には見えません。

 どんな固有能力を持っているのでしょうか。

 レイン様は、深呼吸をして言いました。


「固有能力、『抑制(よくせい)()()


「……!」


 レイン様がそう呟いた瞬間、私の脳裏にある景色が浮かんできました。

 それは、水面に水滴が落ちて、波紋が広がる景色。波紋はどこまでも広がっていきます。一滴、ニ滴と、ぽたぽた水面に溶けていきます。


(あれ……、何で急に水紋が脳裏に)


 はっと我に帰ってレイン様のほうを見ようとすると、今度は辺りが暗くなりました。


(な、何が起こってるんですか……。って)


「何ですか、これ……」


 上を見ると、目の前に、高波がありました。

 飲まれれば、一発であの世行きの、巨大な高波です。


(何で、高波が……!)


 怖気付いて尻餅をつくと、その高波が私達を襲いかかってきます。脳裏には、死という言葉が浮かびました。


(……!)


 思わず目を瞑って意味も無く両手を顔の前に持ってガードしました。


 …………。


 しかし、いつまで経っても高波が自分を(おお)うことはありませんでした。

 ゆっくりと目を開けると、周りにはいつものようにツキナ様達がいます。


「大丈夫?」


「な、何だったんですか……? まさか、幻覚魔法……」


 私が思ったことを呟くと、


「違う。レインの固有能力は幻覚ではないわ」


 ツキナ様にそれを否定されました。


「で、では今のは……? たしか、抑制と言っていましたが……」


「まあ、そんな反応になるのも無理はないわね。レインのほうを見なさい」


 ツキナ様に(たず)ねると、答えが返ってきました。

 その答え通りに、レイン様のほうを見ます。


「……」


 その姿は、先ほどのレイン様とは打って変わってクールな立ち振る舞いをしていました。

 私と同じように、目にはハイライトが無く、(おごそ)かな雰囲気で、人形を(にら)むかのように見ています。

 私が言葉を失っていると、


「あれがレインの本来の姿よ。今までのあの気後れな性格は、嘘ではないけど本当でもない」


 ツキナ様がレイン様について話し始めます。


「本当ではない……。どういうことですか?」


「レインの能力は『抑制』と言ってね、力や感情といった自分にまつわるものを制限することができるの。それで、レインは今まで抑制を使って、意図的に自分を抑えていた。だから、あれが元々のレインの姿なの」


「何で力を抑えていたのでしょうか……?」


「あら、それは今ので分かったはずよ。その力が恐ろしすぎるから。幻覚が見えるほどにね」


 レイン様をもう一度見ました。

 その姿はやはり恐ろしく、何より冷酷(れいこく)でした。

 他の幹部の方とは違って、オーラが(ただよ)っているわけではないのに、近付くことすら許されていないかのような雰囲気を(まと)っていました。

 そんなレイン様が、こちらのほうを振り向いて言います。


「固有能力は解放しましたが、まだ続けますか?」


 機械のような、感情のこもっていない無機質な声で、言いました。

 そして思いました。これはあのレイン様ではないと。仮にいつもの調子で話しかければ、ただでは済まないと。


「ええ、そこにある人形を倒しなさい。倒し方は何でもいいわ」


 ツキナ様は、普段通りの態度で返しました。

 さすがは魔王軍幹部、慣れています。

 それを聞いたレイン様は、


「了解」


 そう言って人形のほうを向きました。

 そのまま猫背になりながら、腕をぷらぷらさせます。

 片足を引いて、足にぐっと力を入れて、


 ダッ……!


 地面を蹴って、一瞬で人形の目の前までやって来て、勢いを急激に殺します。

 それから、人形を飛び越えながら体を回転させて、足をこめかみに命中させます。


 ドゴッ……。


 鈍い音が響いて、人形はがたごと音を響かせながら、ごろごろ転がって、場外まで吹っ飛んでいきます。

 技も何も使っていないのに、人一人の命を容易(たやす)く終わらせられるような力を見せました。


「っ……!」


 私が本気で怯えていると、


「固有能力、『抑制』発動」


 背を向けたまま、ぼそっと呟きました。

 すると、南京錠(なんきんじょう)のついたチェーンがレイン様の周りをぐるぐる回って、


 カチッ……。


 そんな、南京錠が閉まる音が響きました。

 いつのまにか南京錠のついたチェーンは見えなくなっていて、


「良かった……。成功した……」


 安心した顔で、こちらを振り向きました。

 レイン様には、先ほどのような面影は一切見られません。

 これまで通りの、いつものレイン様です。


(でも、これが偽りの姿……)


 私は、背筋が震えました。

 今この場にいる中で、もっとも怒らせてはならない人だと、思いました。

 そんな私の様子に気が付いたのか、


「そんな心配しなくてもいいわ。今はもう、丸くなってるから」


「うん。高校からの付き合いである私が保証するから、間違いないよ!」


 大丈夫であると、ツキナ様とニオ様が声をかけてくれます。今はもう、ですか……。

 逆によく、尖っていた時代のレイン様を相手にできてましたよね。尊敬します……。

 何にせよ、これからはレイン様を怒らせるのはやめましょう。全力でそう思いました。


「次は私の番ね。今回は陰陽のうち、陰を使うわ」


 次はツキナ様の番です。

 人形から少し離れた真正面で立って、早速始めました。


「固有能力発動、『陰陽(おんみょう)』」


 体から禍々(まがまが)しいオーラを発生させて、人形を鋭く(にら)みます。

 吸血鬼特有の翼と八重歯を生やして、真上に飛びました。

 空中から、


陰魔銃(いんまじゅう)(みだ)()ち」


 そういって、手のひらから禍々(まがまが)しいオーラと同じものを、エネルギー弾として放出していきます。

 銃弾のように、広範囲にそのエネルギーがばら撒かれ、地面を軽く(えぐ)ります。

 そして、時々人形に命中して、穴を開けました。

 形状を保てなくなった人形が崩れていくのを見て、ツキナ様は降りてきます。


「こんな感じね」


「精度ひっくー……」


「お黙り」


 ペチッ……。


「うぇっ……」


 数のわりにはあまり攻撃が当たってなかったことをダコさんに指摘され、ツキナ様がダコさんのおでこにデコピンをします。

 吸血鬼パワーなのか、ダコさんのおでこから煙が上がっていました。

 常人であれば、おでこが(へこ)んでいると思います。


「さて、最後は俺だな。だが、俺の能力は戦闘向きではないのでな。手短に済ませる」


 最後はオウマ様の固有能力です。

 オウマ様は、詠唱を開始しました。


「刹那の契約をここに交わす。今しばらくの間、力を等価とし、魔具を生成す……」


 呪文を唱えたあと、オウマ様の体にデバフが付与されます。呪文の内容からすると、力が弱体化したのでしょう。

 その代わりに、ブラックホールのような邪悪な異空間が、オウマ様の真横に発生しました。

 オウマ様は、片手を横に広げて、異空間の中に手を突っ込んで、中からあるものを取り出しました。


「これは……」


 魔剣でした。独特な形をした長剣を異空間から取り出して、それを構えます。


「これが、俺の能力『契約』だ。本来は口約束などをするときに使う能力だが、こうして戦闘にも使うことができる。あまり強くはないがな……!」


 そう言って、魔剣を高速で()ぎました。


次元斬(じげんざん)


 その瞬間、剣で()いだ空間が引き裂かれました。唇のような細い楕円形(だえんけい)の異空間が形成されます。

 そこから、その形状に合わせて斬撃が飛んでいき、


 m8€〒<」……。


 聞いたことのない(いびつ)な音が聞こえて、人形が真っ二つに裂かれました。

 オウマ様は、それを確認して再び邪悪な異空間を出して、そこに魔剣をしまいました。


「まあ、こんなものだ」


「これで強くないは嘘ですよね……」


 仮にも魔王様、やはり化け物級の力を有していました。

 テスト当日にクラスメイトが言う


「私、今日ノー勉なんだよね〜」


 並に信用ができません。圧倒的過小評価です。


「──というわけで、以上が私達の固有能力よ。最終的にはこれらをすべて扱えるようになってもらうわ」


「そんな無茶な……」


 魔蝕計画フェーズ2では死の危険性が無いので平気。だなんて思っていましたが、無理難題を押し付けられるという点ではフェーズ1とそう変わりありません。

 もうお終いかもしれません……。


 その後は、今見た固有能力について細かい説明が入って、それから各々解散して、寝ました。

能力の説明です。読むのが面倒な方は、能力名の横にざっくりと一文だけ書いているので、よろしければお読みになってください。


『怪力』(すごく強いパワーをゲット)

発動時、強力な力を得ることができる。また、どの種族に対しても、どの対象物に対しても有効なダメージを確実に与えることができる。


『紅蓮』(最強の炎魔法を使える)

紅蓮色の聖なる炎を操れるようになる。その効果は二つに切り替えることが可能で、よりダメージを与えることに特化する代わりに、炎が伝播しない【紅炎】と、炎がより燃え広がる代わりに、与えるダメージが少なくなる【蓮炎】がある。


『抑制』(力や喜怒哀楽の感情を制限する)

力、能力、感情といった自分にまつわるありとあらゆるものを制限することができる。


『陰陽』(闇の陰と、光の陽が使える。闇魔法&光魔法のイメージ)

【陰】身体能力が著しく向上し、一時的に陰の力を得る。陰は光を喰らい、光からの危害を軽減する。また、負の感情が増大するほど効果が増す。

【陽】身体能力が著しく向上し、一時的に陽の力を得る。陽は闇を喰らい、闇からの危害を軽減する。また、正の感情が増大するほど効果が増す。


『契約』(契約できる。ただし、破ったらやばいことになる)

条件を満たすことで、絶対に遵守される契約を結ぶことができる。この能力には強制力があるので、契約を一方的に破棄した場合には、相応のペナルティが課されることになる。これは、能力の保持者にも適用される。

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