20話「休日、魔界へ遊びに行きます その2」
20分ほど下り続けて、ようやく山の麓まで来ました。
魔王城から道なりに真っ直ぐ下ったので、ここから山を迂回して街へと向かいます。
見積もり時間は10分ほど、合計所要時間は30分です。
つまり、魔王城と街を一往復するだけで一時間はかかります。
帰りも歩くとなると、体力的には問題ありませんが、何より精神的にきついです…。
「それにしても、ダコさんが言っていた通りでした……」
「ん、何が?」
「警備のことです。前に魔王城に住む人のほとんどは城や街の警備をしてると聞いたことがあったので、本当なんだなーと」
道中、警備服を着ている方をたくさん見ました。
大抵は人型で、エルフのような耳長の方や、ゴブリンと思われる緑色の肌をした方がいて、魔王城周辺の見回りをしておられました。
「ああ、そうだね。魔界に住む生物は、もれなく他の国や種族から嫌悪されているから、何が起こるか分からない以上、警備が必須なんだよね。警備の人員不足で、街の面積や人口に対して明らかに足りてないんだけどね……」
「街の眺めからは、活気があるように見えましたが、意外とそこら辺はカツカツなんですね……」
思ったより、魔王軍も無敵ではないみたいです。
オウマ様達が、スパイを送り込むほど慎重に動くのは、おそらく大胆に襲撃できるほどの余裕が無いからなのでしょう。
自国の課題が山積みなのに、他国に攻め入っても、その間に懐を狙われたりと、返り討ちに遭うだけですしね。
RPGゲームだと、魔王軍はすべてが最強のイメージがありましたが、現実にはこの魔界もただの一つの国なので、他の国と同じように欠点があるのです。
(そう考えると……本当に私って、国家反逆の道を進んでるんだなー……と改めて思います)
きっかけも動機も自分の意思が絡んでないとはいえ、私は魔王軍に全面的に協力しています。
なので、武力を行使してもしなくても、私は死罪になるかもしれません。
バレたら終わりです。この魔界が万全でないと知った今はなおさらです。
いくら、オウマ様達が強くても、武力だけでは人間には敵わないでしょう。
これからは……いえ、これからも気を引き締めて行動しなければいけません……!
そう一人で勝手に気合いを入れ直していると、
「あ、入り口だよ」
魔界へ、街へ入る門が見えてきました。
この山一体が魔王城の領域で、ここからは魔界に住む住人のエリアになります。
その門にも門番の方がいて、同じようにニオ様の一言で開けてもらいます。
「すごいです……!」
ニホドリム国に劣らない経済規模があることが、雰囲気から窺えました。
2060年代の西洋の街並みをしていて、住宅街がびっしりと並んでいます。
人が多くて、ニホドリム国と比較しても、優に二〜三倍くらいはいると思います。
「これが魔界だよ。ダコの調査で聞いた話では、魔界はニホドリム国よりも規模が少し小さいらしいから、見劣りするかもだけど」
「そんなことありません! ニホドリム国は少し落ち着いている感じがしましたが、ここはとにかく人の数が多くて、活気があります。将来性も見据えると、劣るなんてことはないです!」
本当にお祭りのように、多くの人が道を行き交っています。
面積がどの程度か分からないとは言え、こんなにも人がいれば、将来的には人間界をも超える成長ができるのではないでしょうか。
ニホドリム国は、地球からの開発支援を受けているので、技術を取り入れられるという利点がありますが、私やダコさんがスパイをすることで情報を盗めるようになるので、ゆくゆくは魔界の技術力も向上します。
決して、未来は暗いばかりではありません。
「ははっ、ありがとう。それじゃあ色々案内していくね」
「はい!」
それから、色々な場所を案内していただきました。
まずは屋台です。
年中屋台が設置されていて、食べ物を売っているのはもちろんのこと、射的や輪投げなど、実際に遊べるものもありました。
2103年の首都では、娯楽が発達しすぎて、そういった祭りを行うことがほとんど無くなっていたので、新鮮味があります。
……すごく、興味があります。
そんな、屋台を見て興奮している私を見て、
「……もしかして、遊びたい?」
ニオ様が、声をかけてくれました。
「は、はい……」
「いいよ。お金なら使い切れないほどあるからね」
そうして、私はニオ様にお金をもらって、射的をすることにしました。
「射的をさせてください……!」
お金を店主に渡します。
「あいよ、嬢ちゃん。弾は六発だぜ!」
渡されたのは、魔銃弾という、魔法が込められた専用弾の入った拳銃でした。
この魔銃弾は、普段は魔物の討伐などに用いられているそうです。
しかし、今回は込める魔力を調節して、その殺傷性を限りなくゼロに近付けています。
そして、この魔銃弾を壁に飾られてある的に命中させることで、的が魔法に反応を示して、初めて命中が確認されます。
誰が的に当てたかが、しっかり分かるようになっていていいですね。
景品は、的に当てた数に応じて、位が高くなります。
的の大小は様々で、一度当てた的は反応を示さなくなるので、難易度はどんどん高くなります。
では、周りが小さな子供達ばかりで少し恥ずかしいですが、いきましょう。
ポンッ!
一発放ちました。かわいい音が響きます。
結果は外れです。大きな的を狙いましたが、撃つ直線に腕がぶれてしまいました。
でも、そのおかげで感覚をつかむことができたので、修正していきます。
ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ! ポンッ!
すべて放ちました。
「じょっ、嬢ちゃん……」
結果は……、
「二発だな。ここの棚から、自由に一つ持っていってくれ」
微妙でした。せめて、すべて外れたほうがまだネタにできて、コメントしやすいです。
それでも、
「難しかったねー。また頑張ろう!」
ニオ様は優しく声をかけてくれました。
本当に優しいです。もう福は外、鬼は内でいいくらいです。
さて、景品についてですが、内容としては竹とんぼやピロピロ笛などがありました。
何せ、ゼロから六発までの景品の位がありますから、二発の命中では、自然とその景品は微々たるものとなります。
ちなみにゼロ発は飴で、六発だと数千円はかかる本格的なおもちゃなどが手に入ります。
的当て方式にしては、かなり太っ腹のようにも思えますが、的には様々な大きさがあり、一番小さな的に至っては、弾の大きさとそう変わらないほど小さいので、そうでもありません。
私は、景品の中から竹とんぼを取って、その場を後にしました。




