16話「クラスの男子に宣戦布告されました 前編」
昼の授業の時間、すなわち剣技の授業の時間になりました。
魔法の実習と同じく、剣を使う際の注意点や、素振りのやり方などの説明がされ、そのあとに、木刀が配られます。
「はい、それではフォームをしっかりと意識して、各自ペアを組んで始めます。潤咲さんにはフレンさんがついてください」
「はーい」
一斉にクラスメイトがペアを組み始めて、安全のために他ペアとの少し距離を空けます。
ペアのうち一人が立ち上がって、先生の合図に合わせて剣を振ります。
もう一人は、その子のフォームの確認を行い、改善が見られない場合は先生が補佐につく。
流れはこんな感じです。
それが終わったら、次は対人練習です。
安全を考慮して、トココ先生による攻撃力低下のバフ魔法と、防御力上昇のデバフ魔法が付与されて、ペア同士で実際に戦います。
時間が余れば、自由に対人戦闘を行う場合があるそうです。
「じゃあまずは、私の真似をしてみようか」
「はい。お願いします」
それから……、
「……では、始めます。1! 2! 3! 4!」
素振りが始まりました。
先生の合図に合わせて、フレンさんは剣を振り始めます。
カウントは4までで、それが終わればまた1、2と同じ動きを繰り返していきます。
「ほっ……!」
(それにしても、綺麗です)
素振りの動きを見るのは初めてですが、フレンさんの動きは、他の方と比べてもキレのある動きをしていることが、素人目から見ても分かります。
才能なのか、はたまた努力なのかを窺うことはできません。
しかし、フレンさんが何事にも熱心な性格をしていることが、その動きから伝わりました。
「……はい。今座っていた方と交代です。準備してくださいね」
やがて、私の番になりました。
私は、横に置いてある木刀を取って立ち上がります。
(見様見真似で何とかなるとは思いませんが、できる限り形にできるように努力しましょう)
初めてのことなので、失敗はつきものです。
昨日は昨日で、ある意味失敗してしまいましたし、あれに比べれば私のぐちゃぐちゃなフォームなんて誰も気にすることはないでしょう。
なので、精一杯頑張りを見せることを意識して構えました。
「では始めます。1!」
素振りのフォームはそれぞれ、
1で右足を前に出して、右から左下にかけて斜めに剣を振り下ろし、
2で左足を前に出して、左から右にかけて一直線に剣で薙ぎ、
3で左足を後ろに引きながら、真っ直ぐ剣を下に振り下ろし、
4で後ろに下がった左足を元に戻して、両足を揃えます。
私は、まず右足を出して剣を振りました。
しかし、思うように剣を一直線に振ることができません。
「2!」
今度は左足を前に出して、一直線に剣を薙ぎます。
しかし、剣を横に振りすぎて体のバランスが取れなくなって、危うく転けてしまうところでした。
「3!」
そして左足を後ろに引いて、真っ直ぐ剣を下に振り下ろすのですが……、
「うわっ……!」
そこで足が引っかかって、私は尻餅をついてしまいました。
盛大な失敗です。
「いたたっ……」
「大丈夫……?!」
「大丈夫です。ちょっと恥ずかしいですが……」
フレンさんが心配してくれたので、すぐにそう返します。
トココ先生は、4カウントの掛け声をやめずに、そのまま私の下まで歩いて来ます。
最後のカウントを終えて、
「怪我はしていませんか?」
すぐに声をかけてくれました。
私もすぐに答えます。
「はい。ただ、対人練習もこんな感じで怪我をしてはいけないので、今回は見学させていただけませんか?」
それを聞いたトココ先生は、しばらく熟考した末に、
「……そうですね。では、次の剣技の授業が始まるまでに補修を設けます。そこで、マンツーマンで教えるので、今回はあそこにある木の下で見学しましょうか」
後日、補修を設けるという形で、今回は見学をさせてくれることになりました。
「ありがとうございます」
私は、木の下に座りました。
本当は、身体能力が向上しているので怪我なんて絶対にしません。
ですが、私一人だけ盛大に転んでしまったのが恥ずかしいのと、失敗続きで余計な心配をかけたくないという二つの理由があって、やむを得ず見学を選びました。
(次回作にご期待ください、なのです……)
素振りが終わって、今度は対人練習になりました。
一人余ってしまったフレンさんは、別のペアに混ぜてもらっています。
申し訳ありません。私のせいで……。
(ん? というかよく見たら……)
目を凝らして見ると、フレンさんが混ぜてもらっているペアの片割れはニパンさんでした。
運動をするためか、赤のベレー帽は外していて、ホーステール(ラビットスタイル)も、今は髪を後ろで一つにまとめて、ポニーテールにしていました。
さっきまではThe・日本という見た目をしていたので、すぐに気付くことができませんでした。
「では、魔法をかけますので、周りに注意して、各自対人戦闘を開始してください」
そう言って、トココ先生は何やら呪文を唱えました。
私を含めて、クラス全員に防御力上昇のバフ魔法と、攻撃力低下のデバフ魔法がかけられます。
「はい、では始めてください」
そんなトココ先生の合図を聞いて、戦いが始まりました。
私が戦ったら、秒でボコボコにされそうな勢いで、皆さん戦い始めています。
これが本場の技術力ですね。
フレンさんのところでは、フレンさんとニパンさんが剣を交えていました。
「ほっ!」
「くっ……!」
見たところ、フレンさんのほうが押していて、ニパンさんは苦戦を強いられています。
防戦一方で、形成逆転する気配がありません。
ニパンさんもニパンさんで、必死に抵抗するのですが、
「面!」
それは違います。
「はいっ!」
ニパンさんの真上からの攻撃を華麗に受け止めて、最後には、
「胴!」
木刀を薙いで、ニパンさんの横腹に一撃を入れました。
フレンさんもフレンさんでノリがいいです。
「ぐわあ……!」
結果はフレンさんの勝利に終わりました。
そうして、他のペアの戦いも観察していたのですが……、
(あれ……)
そこで初めて、男子と女子で目に見えて熱量が違うことに気が付きます。
基本的に、魔法の実習も剣技の授業も男女合同で行うのですが、ペアやグループを組む際には必然的に男女で分かれることが多いです。
なので、男子同士と女子同士で剣戟が行われているのですが……、
「うおりゃあああ!」
「はあっ!」
男子は血気盛んでばちばちに戦っているのに対し、
「……っ」
「はっ……」
女子は形だけと言うと語弊がありますが、あまり熱気のあるようには見えません。
「何で、男女でここまで熱量に差が出るのでしょう……」
思ったことをそのまま呟くと……、
「それはですね……」
「うわあっ!」
背後からニパンさんが入り込んできました。
いつの間にここまでやって来ていたのでしょうか。まったく気が付きませんでした……。
フレンさんのほうを見ると、フレンさんはもう一人のペアの方と戦っていました。
「あ、驚かせてごめんなさい。それで、熱量の差についてですが、単に性差によるものだと考えられています」
「と、言いますと?」
「価値観や考え方の違いと呼ぶべきでしょうか。これはもう、そういうものとしか言えないのですが、男子は激しい運動をして誰かと切磋琢磨するのが好きで、女子は誰かと協力して研鑽を積む傾向にあるんです。実際に、冒険者パーティーでも、前衛職は男性が、後衛職は女性が担当することが多いですし」
「たしかに、言われてみればそうですね……」
私がパッと思い浮かべた冒険者パーティーの構成も、大体男性が前衛職で、女性が後衛職のイメージがあります。
これは、もしかしたら男女による考え方の違いから生まれていったものなのかもしれません。
実際に昨日の魔法の実習と比較しても、男子は明らかに元気ですし、逆に女子は明らかに元気がありません。
とは言え、あくまで傾向なので、フレンさんやニパンさんのように全力で戦っている女子もいれば、戦いに消極的な男子だって当然いるのですが、やはり顕著に表れてしまうものなのですね……。
「また異世界の謎が一つ解けてしまいました……」
「謎なんですか? これ」
まさか、私がこれまで抱いていたイメージは偏見ではなく事実だったとは……。
そんなことを考えていたとき、
「はい。では今から、自由に対人戦闘を行なってくれても構いません。周りと距離をとって始めてくださいね」
自由対人戦闘の時間になりました。
ここからは、ペアという概念は無くなります。
さあ、どんな戦いが見れるのでしょうか。自由に戦えるのですから、これまで以上に白熱した戦いが見れるかもしれません。
そう思っていたのですが……、
「おい、潤咲。俺と戦え」
「……え?」
目の前に、突然目つきの悪い茜色の髪をした男の子が、やって来て、そう言いました。




