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9話「入学初日にやらかしました その2」

「そしてここはこうなって……」


 授業を受け初めて気が付いたことがあります。

 それは、この学校の授業は多少話を聞き逃しても全然ついていけるということです。私は、都内のどこにでもある偏差値も何もかも普通の高校に通っていましたが、この学校はそれよりもレベルが低いです。だからと言って、簡単だということでもないのですが……。


 可もなく不可もなくでいいですが、それは同時に、これからも変わらず勉強を頑張る必要があるということなので、当然頑張らなければなりません。

 そういえば、ここは魔法学園ですが、テストの点や授業態度が悪くて留年になることはあるのでしょうか。

 ちょっと気になります。


 キーンコーンカーンコーン……。


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴りました。


「それでは以上。復習を欠かすなよ」


 やがて先生が去っていって……、


「潤咲さん! ニホンのどこから来たの?」


「ニホンってここよりもすごく発展してるって聞くけど、どんな感じ?」


「和食! アニメ! テクノロジー!」


 転校生特有の(この場合は留学生ですが)質問攻めに遭いました。


「えっと……、私は首都から来ました。ここもかなり発展していると思いますが、三倍くらいは違うと思います……」


「へえ〜!」「やっぱりすごいんだ!」「味噌汁!」


 その後も、興味を持ったクラスメイトが、気になることを質問してきました。

 しかし……、


「それで、ニホンってさ〜」


「はい」


「ニホンのあれって〜」


「は、はい」


「私がニホンです」


「そ、そうですか……」


 興味を持っているのは私にではなく、日本についてでした。

 日本のあれこれについて、ひたすら質問が飛び交ってきます。


(うーん……)


 たしかに、私が彼等の立場なら同じことをしていたのかもしれません。

 なので、気持ちは理解できますし、それを非難する気は無いのですが、やはり私自身に興味を持たれていないのは少し悲しいです。


 このままだと、聞きたいことが無くなった瞬間、興味が尽きて話しかけられなくなるのでは……。


 と、そんなことを考えていたときでした。


「ねえ、みんな。一気に詰め寄られて潤咲さん困ってるでしょ?」


 フレンさんが隣から声をかけてきて、私を助けてくれました。

 


「そ、そうだよね」「ごめんね……」「寿司……」


 クラスメイトも反省して、萎縮し始めます。


「それで潤咲さん。私も聞きたいことがあるんだけど好きなことってある?」


 微笑みながら彼女はそう言いました。もはや女神です。

 日本ではなく、私のことについて聞く流れに持っていってくれるなんて、あまりに人間として完璧すぎる気がします。

 私も、その笑顔に応えて、満面の笑みを浮かべました。


「わ、わお……」


 フレンさんを含めて、クラスメイト一同が私の笑顔を見て一瞬肩を震わせました。

 そういえば、今の私の見た目、魔族寄りなんでしたっけ……。


   *     *     *


 それから数時間の授業を受けた後、昼休みの時間になりました。


「魔法の授業も、意外と普通の教科と変わらないんですね」


「うん。意外だったかな?」


「はい、思っていたものとは違いました」


 受けた数時間の授業のうち、魔法の座学の授業も含まれていました。

 魔法というくらいなので、たくさん魔法を見たり、実演するものとばかり思っていましたが……、


「潤咲のために説明しておくが、まずこの座学では、生徒は魔法を使用してはいけない。実際に魔法を使うのは実習のときだけだ。ここでは、実習で扱う魔法の知識を頭に入れておけ」


 そう言って、後々実習で扱う火や水などの初級魔法の構造や、それを使用した際にどうなるのか。

 また、魔法はイメージが重要らしく、どのようなイメージを持って放てばいいのかを事細かに説明してくれました。

 構造を理解したほうが、イメージを持ちやすいので、こうして事前に授業を行うようです。


 そうして私は、火の魔法と水の魔法、それと風の魔法について知識を蓄えました。

 使用する際は、火の魔法を放つのに必要な呪文がスキルに閉じ込められているので、スキルを使用する形で魔法を放ちます。


 さて、話を戻しましょう。

 私は、昼休みの時間で食堂を訪れていました。

 食券機で食べたい物を選択します。


 本来であれば代金が必要なのですが、この世界と地球の通貨が違うので、留学生待遇ということもあって、顔認証で本人確認ができれば、あとは無料で食べられます。

 留学生活万歳です。


 今回私が昼食に選んだのは、うどんでした。

 なぜなら、私はうどんが大の好物だからです。

 温かいうどんも、冷たいうどんも大好きなのです。

 まあ、メニューには温かいうどんしか無いので、それを選ぶしかありませんでしたが。


 うどんには、ねぎとかまぼこが乗せられていました。

 出汁は関西風です。


 私は関東在住なので、普段は関東風の黒い出汁のうどんを食べていますが、うどんスペシャリストを目指しているので、関西の白い出汁のうどんにも挑戦します。


 関東風と関西風の出汁を自由に選べるなんて、最高ですね。

 私は、机にうどんを置いて、椅子に座りました。

 ちなみに、うどんしか食べないのは、魔蝕計画で太ってしまったからです。

 小太りのほうが長生きをすると言われていますが、そんなことは知りません。痩せます。


 それはさておき……、


「美味しそうですね〜」


 そんな独り言を呟いて、割り箸を割りました。

 すると、


「あれ、関西風のほうが好きなの? たしか、関東出身だったよね?」


 奥からフレンさんがやって来て、私の隣の席に座りました。

 彼女の昼食もうどんでした。出汁は関東風です。

 わざわざ合わせてくれたのでしょうか。

 私は答えます。


「どちらも等しく好きです! ただ、関西風のうどんは食べる機会が少ないので、こういうときは積極的に食べますね〜」


「あ、それ分かるかも。潤咲さんは、うどんが大好きなんだねー」


 私達は食事を始めます。


「いただきます」「いただきます」


 どうやら、いただきますの文化も伝わっているようです。

 私はお箸でうどんを掴んで、食べます。


(腰があっていいですね〜……。もちもちしていて、噛む度に味が口の中に広がります)


 うどんを食べている瞬間が一番幸せなのかもしれません。

 そういえば、うどんも日本発祥でしたね。

 やたらと、この国には日本の文化が取り入れられているみたいですが、ここまで日本化していって、嫌ではないのでしょうか。

 私は、フレンさんにそれとなく聞いてみることにしました。


「うどん……。じゃなくて、ニホドリム国は日本によって大規模な支援がされていますが、これだけ日本の文化が浸透していて嫌ではないのですか? この国にだって独自の文化が築かれていたと思いますし……」


 関東風のうどんを食べながら、フレンさんは答えてくれます。


「どうだろうね。たしかに、中には嫌な人もいるかもしれないけど、国民の過半数はこの開発や文化の浸透を受け入れてると思うよ? だって、そもそも独自の文化も何も無かったもん。むしろ、ここまで発展させてくれてありがとうだよ」


「そうなんですね……。受け入れてくれているのであれば、こちらも萎縮する必要は無さそうですね」


「え、萎縮してたの? そんなの気にすることないよ! もし受け入れられなくても、潤咲さんは関係無いんだし」


「……それもそうですね。私は気にしすぎていたのかもしれません」


 世界には、文化侵略という言葉があります。

 これは、ある国が別の国に対して、文化を通じて影響力を強めることを良く思わない人が使う言葉です。

 もし、日本による開発支援。また、それに伴う日本文化の普及によって、日本や日本人を嫌っている人がいたらどうしようとばかり思っていたのですが、どうやらその心配は要らなかったみたいです。


「それよりさ、午後からいよいよ魔法の実習だけど、自信はどう?」


「不安でしかないです……」


 うどんを食べながら、そんなやり取りを交わしました。

 もっと仲良くなりたいと、心からそう思いました。

うどんが日本発祥と作中内でアヤミは喋っていますが、起源を辿ると中国発祥の説もあるそうです。色々説があるので何とも言えませんが、少なくとも日本がすべての始まりというのは誤りです。誠に申し訳ございませんでした。


うどんが美味しそうだと感じた方は、下にスクロールして星マークを押して評価していただけると嬉しいです。

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