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どうやって帰ったか記憶にないが、気が付くと俺は自室で呆然としていた。
思い出すのは、冬雪の事。
綾瀬悠一の創作は、いつも誰かのためになっていた。
突然そんな事を言われて、今まであった当たり前に、小さなヒビを入れられた。
ずっと自分を苛んでいた音楽を肯定されるなんて、思ってもみなかったんだ。
あんな方法で気持ちを伝えてくるなんて、ズルいと思う。
元々は小春子のためにしていた音楽。
それが叶わなかった今となっては続ける意味がなく、一度は音楽を辞めてしまった。
きっともう、創作になんて関わらないのだと思っていたんだ。
けれど冬雪は、俺に創作を続けてくれと言ってきた。
胸の内にある黒いしこりは、まだ消えないまま残っている。
正直、どうすれば良いかは未だに分からない。
それでも、何かをしなければいけないのだと思った。
何より、あいつらが作ったものを見て、素直に凄いと思ってしまった。
何かを作る者にとって、こんなに悔しい事はない。
俺達は、人の作品を見る事が何より嬉しく、そして何よりも悔しく思う。
それが素晴らしければ素晴らしいほど、悔しい。
歯をくいしばって頭を抱え、布団の中でジタバタしちゃう程、嫉妬に塗れる。
それでも次の日には、自分がそれを超えると信じて、創作を続けるのだ。
俺は部屋の灯りを消すと、窓を開けて椅子に座り、じっと暗闇を見つめながら考える。
ただ、ひたすら考えた。これからどうするかを。これから、どうしたいかを。
考えて考えて、考え疲れても……、それでも、まだ考え続けた。




