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可愛い隠れオタ友とアニメ作りしませんか?  作者: 秋雪
第四章 伝わらぬ想い
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「おばかああああああああああああああ!」


 バカと書かれた紙を顔に貼りつけられながら、俺は正座をさせられていた。

 場所は動画制作部の部室……、という名の物置。

 時刻は午前九時半。つまり一時間目の真っ最中。

 にも関わらず夏音は腰に手を当て、仁王立ちできつく俺を睨み付けていた。


「お前、何でここにいるの? 授業サボんなよな」


「おばかな大馬鹿に、おばかって言うためですよ! この、おばか!」


 はい、夏音はこの部室で何回おばかって言ったでしょうか。答えは五回でしたー。

 夏音が悲痛な表情なのは、俺が先程の暴露をした結果、その場で停学になったからだった。

 停学七日間。

 女子生徒に付きまとい、強引にいかがわしい店に連れ込んだため、との事である。

 この七日間の停学というのはかなり重いらしく、処分としては退学の一歩手前だとか。

 佐藤君曰く「事の重大さをアピールしたい校長の意向」らしい。

 その後すぐに授業の時間になったため、部活への処分は検討中のままで保留。

 というわけで堂々と引きこもる名分を得た俺が家に帰ろうとしていた矢先、昇降口で待ち構えていた夏音に掴まり、この部室に引きずり込まれたのであった。


「どうするんですか停学なんて!」


「どうすると言われても、アニメを見てゲームして、毎日ネットするとしか……」


「何を満喫する気ですか! このダメニート!」


 正直、俺からしてみれば、ちょっと多めの休みが貰えた程度の気持ちしかない。

 むしろ夏音の方が深刻な顔で。


「何で勝手に一人で全部背負い込むんですか!」


 さも怒ってますというように、頬を膨らませていた。


「誰がこんな事を頼みましたか! このおばか!」


「口が動いちゃったんだから仕方ないだろ。部活やりたくないなーって思ってたから、そのせいかな?」


「おばか! 嘘をつくならもっと上手について下さい! どうせ冬雪さんの秘密を守るついでに、部活の方も何とかする気だったのでしょう!」


 夏音にジロリと睨まれ、俺は肩をすくめてみせた。


「何言ってんだ。そんなわけないだろ。俺は元々部活をやりたくなかったし、あそこで俺が悪いって事にすれば、この部活が潰れてくれると思ったんだよ」


「ふんっ、白々しい。ならあのまま黙ってれば勝手に動画制作部は無くなってましたよ。思い通りに部活をやらずに済んでましたよ!」


 言ってて更に怒りが芽生えたのか、夏音の顔がみるみるうちに赤くなっていった。


「あくまでプライベートとして冬雪さんを連れ込んだと宣言したのです。部活とは関係ないという事にすれば、後は綾瀬さんが退部した上で冬雪さんが部活を掛け持ちするとでも言えば、動画制作部の存続自体は可能になるかもしれない。こんな所ですか」


 夏音は俺の顔に貼られたバカの紙をグリグリと拳で押しながら言う。痛い。


「分かってるんですか? あれだけ大々的に自分が悪いと言ったのですから、綾瀬さんの噂は皆が信じる事になります。これから校内で綾瀬さんへの風当たりが強くなるのは間違いないですよ。ただでさえ友達が少ない綾瀬さんが、これからどうやって学園生活を送る気ですか」


「友達が少ないのはお互い様だろ」


「違うクラスの夏音では助けるにも限界があるんですよ? 本当に大丈夫ですか?」


「いや、お前知らない人と話せないんだから助けもクソもないですし(笑)」


「ぐぬー! 人が心配してるというのに!」


「へいへい、あんがとな」


 憤る夏音を置いて、俺はバカの張り紙を取ると、立ち上がり扉の方へと歩いて行く。


「んじゃー俺、真面目に停学しなきゃならんから帰るな」


「あっ、ちょっと、まだ話は終わってませんよ!」


 慌てて止めようとする夏音を無視して扉を開け、部屋の外へ出る。その途中で。


「綾瀬さん! 綾瀬さんが退部したとしても、夏音は友達ですからね!」


 肩越しに夏音の声が聞こえたが、俺はそのまま扉を閉めた。

 夏音が作りたかった部活はこれで継続出来る。俺もやりたくなかった音楽をやらずに済む。もうこれ以上ないって程、完璧な展開でしかない。

 そう思いつつも少しだけ足が重かったが、それを誤魔化しながら歩き続けた。

 昇降口に向かって廊下を歩いて行く。その途中でチャイムが鳴り、体育を終えたであろう生徒達が校庭から戻ってきた。


『おい、あれ……』


『ああ、あいつだろ? 女郎花さんに付きまとってたっていう』


 俺を遠巻きに見た生徒達が、何やらヒソヒソと話している。

 それを無視して歩いて行くが――。

 直後、背中にドンと衝撃が伝わって、思わずつんのめった。

 俺の背中に当たったボールが、テンテンと音を立てて跳ねる。それを見て、ワっと盛り上がる生徒達。

 振り返るとニヤニヤしている生徒達と目が合った。


「お前、オタクなんだろ? マジできっしょいな」


 その中の一人が挑発的に声をかけてくる。

 えぇ……、人って相手がオタクってだけでこんなに横暴になれるの? こわすぎる。

 いかにも気の強そうな男子生徒は、何度か冬雪に会いに教室に来た事がある奴だ。

 男子生徒は得意気にニヤリと笑うと。


「何だよ、何か言いたい事でもあんのか?」


「いや、別に?」


 誰もボールを拾おうとしないから、拾ってやる。

 それを生徒達の方に放ってやると、生徒達は虚を突かれた顔でボールを目で追った。

 そのまま彼らを無視して昇降口まで行くと、後ろから罵声とも悪態ともつかない声が聞こえてきた。

 何とも暇な奴らがいたものだなぁ、なんて思いながら自分の下駄箱を開け。

 中に入っているそれを見た。


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