第2章 4
といっても馬と駆け競べをして勝てるわけがない。わちゃわちゃと店や家がひしめき合う市街の路地に逃げ込む前に、あっという間に取り囲まれてしまった。馬から降りてくるならず者は全部で六人。ひげ面がいれば、あごの細い奴もいる。皆いかにも悪党顔。狙われる覚えなんてないんだけどな。エナが仕掛けた壮大な嫌がらせ? まさかね。そこまでお金持ちじゃなかったはず。
「きゃっ!」
後ろから腕をきつくつかまれた。男たちは何も喋らず、すごく不気味だ。わたしに何をする気なんだろう。
「あなたたち、誰?」
返事はない。顎に傷のある一人が嫌な感じで笑っただけだった。どうしよう、周りの知らない人たちがじろじ見てる。恥ずかしい。
大声で叫びたかった。わたし、何も悪いことしてないんです。ならず者に絡まれているんです。
けど、言えやしない。村でも誰もわたしを見ないのに、知らない街なんて、絶対に。
男たちはわたしを囲む壁になった。手をとられたわたしはそいつらに合わせて歩くしかない。せっかく窮屈な迷宮から抜け出せたのに、また逆戻りだったら? もっとひどい所に連れて行かれるんだったら?
「どこに連れてくの?」
すぐそばを歩く男を見上げてもう一度問いかける。ランプで夜道を照らす大男は、わたしを見下ろし、かすかに首を振る。話す気はないってこと?
なんだかすごく疲れた。がっくりとうなだれた、その時だった。
どよめきが湧いて、鉄壁の守りが一気に崩れた。わたしを取り巻くならず者どもが皆ある一点に注目している。いつの間にかわたしは自由になっていた。
澄んだ少年の声が高らかに響き渡った。
「その手を放せ! 多数で囲むのは卑怯だぞ!」
一体何?
大男氏の後ろからのぞいてみた。ランプを持った小さな男の子が身を低くしてこっちを睨んでいた。手つきや足元がどうも芝居がかってる。
「かかってこい! 成敗してくれる!」
男の子は、厳しい言葉とは裏腹に楽しそうな顔で手を複雑に動かした。すると! 男たちが次々に頭や腹を押さえ、散り散りに逃げていくじゃない。中には、転んで地面を這う人もいる。それを見て男の子が声を上げて笑った。
わたしは、また暗闇の中に取り残された。だけど、胸の内は温かい。助けてくれる人がいた。それだけで、たまらなく嬉しくなる。