第10章 7
犬が撤退していき、オグマの姿が露わになった。
衣服も肌もずたずたに裂かれ、全身が真っ赤だった。とりわけ酷い傷から、歯形の残る白い骨が見えていた。顔も同じくらいにひどい。犬が咥えて振り回したのか、手足はばらばらな方向にねじれていた。
滲む視界の中で、オグマの口がかすかに震えた__まだ生きてる。
「そこをどけ、レイラ」
ハリルの焦った声がした。わたしはそっちを見ない。振り向く価値もない。
「嫌」
「君も同じ目に遭いたいのか?」
「それでもいい」
わたしはオグマの上に被さった。いつまた犬が来ても守れるように。
ハリルが溜息をつく。
「大した度胸だね。では、気が済むまでそこにいるがいい。お別れを済ませた頃にまた見に来るよ」
足音と吠え声が遠ざかっていく。二人になった。
腕の中で、オグマがうめいた。
「レ……」
「しゃべっちゃ駄目!」
喉の傷が開くのをみてわたしは叫んだ。だけどオグマは、懲りずに言葉を絞りだそうとする。
「レ……イ……ラ。こ……こ……を……、出……ろ」
「出るなら一緒に出よう」
喉の穴を手でふさいだ。それでも血が溢れた。知らないうちにわたしの顔もぐちゃぐちゃに濡れていた。
「大丈夫、もう犬はいないわ。ね?」
「リ……ト……を」
「リート君ね? きっと今頃ハルアと一緒に待ってるわ。会いに行きましょう」
オグマは首を振る。左右に血が落ちる。そしてついにぴくりとも動かなくなった。
「オグマさん! もう一回何か言って」
唇はもう動かない。
「ねえ、動いて。生きてるって教えて。死んでないって言って!」
動かない。教えてくれない。何一つ語らない!
「お願い、一人にしないで! わたしはどうしたらいいの? どうやったら帰れるの?」
__オグマさんは、もう、
「死んだ、なんて……言わないで」
さっきまで溢れて止まらなかった涙は、もう枯れてしまった。
地鳴りが聞こえる。
だんだん大きくなるようだ。この夢が崩れるのかもしれない。そうなったらわたしたちは生き埋めだ。誰にも知られずに、この寂しい世界で。魔物たちと待っているリートにもせっかく友達になったノールにももう会えない。それを知らせるすべもない。
懐から何かが落ちた。宵空だ。明かりのないこの世界で、鈍い赤色に輝いている。
リートと一緒にこの石を見つけようと張り切っていた時があった。あの時のわたしは幸せだった。大事なことは何も知らず、自分たちのちっぽけな好奇心を満たすのに精一杯だった。




