第10章 3
瞬きすると、少女は消えていた。わたしの目の前にはオグマだけがいた。
オグマの手を握り返す。冷たかった指に、少しずつ温もりが戻ってきつつある。それがなぜだか嬉しくて、でもどう表現していいか分からない。
涙が一滴、わたしの目からこぼれ落ちた。
「わたし、夢であなたに会ったことある」
オグマに向かってそう言った。オグマは小さくうなずいた。
「夢じゃなかったのね?」
「そうだよ」
オグマが答えた。
「全て、あの子が__君が体験したことだ」
「父さんが死んだのも、アマンドラで怪物に襲われたのも、魔物の洞窟に行ったのも?」
「全て現実だ。君のものだ」
「嬉しい」
次から次へと、涙が溢れて止まらない。
「こんな冒険が本当に出来たらいいなって、ずっと夢を見ながら願ってた」
オグマに助け起こされ、わたしは陰鬱な寝床から立ち上がる。ふらついた拍子に、拳大の赤い宝石が転がり落ちた。
「宵空……」
オグマがそれを拾い、返してくれた。宝石は、まだ温かい。人の肌のような温もりを抱きしめると、また涙が頬を伝った。
「わたしの代わりに、宵空が助けを呼んでくれたのね」
オグマはわたしが涙を拭くまで待っていた。それから、帰ろうと促した。ノールもロザも待っている、オルバの家へ。
「ここを出ていいの?」
「ああ。ガイールが来る前に逃げよう」
「ガイール……伯父さんね」
「ノールのな」
ああ、そうだった。
「わたし、帰る前にあの人に会っておきたい。どうしてわたしを助けてくれたのか……」
オグマは開きっぱなしの扉をさっと見て、肩をすくめた。
「好きにすればいい。よっぽど危なかったら止めにくるから」
わたしがうなずくより先に、オグマは消えた。誰もいなくなった部屋の中でわたしは待った。ひたすら待った。
目を閉じると、感情が溢れ出しそうになる。悲しかったこと、モリや「鳥の王国」と対峙した時の悔しさと恐怖、ノールとしゃべった時の喜び、楽しかったこと。
だけど何よりも嬉しいのは、体が動くこと。まだ生きているって信じられる。
一年間という時間は、悔やむにも悲しむにも長過ぎた。もう思い出したくもないくらい、この部屋の中でわたしはいろんなことを考えた。ぞっとするような悪い考えも、どこまで沈んでも止まらない後悔も。それら全てを夢の向こうに追いやることができて、心が嘘のように軽かった。




