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輝ける明けの明星  作者: 六福亭
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第10章 明け空

 全部読み終えた。覚えず溜息が出る。わたしのお姉さんが書いた手紙なのに、何も記憶に引っかからない。

 だけど、虫の大群が成した煙のように嫌らしい何かがぼんやりと形になりつつあった。ハリルのこと。あの青年のことだとすぐに分かる。そして許せないと思った。ロザの恋心につけこんで、罠にはめるなんて。

 それから、ロザのいう伯父さんのこと。わたしやノールが知っていて、信頼しきっている伯父さんのこと。前者も後者もオルバとアマンドラに関係があって、魔術師だ。そしてわたしはノールの記憶を移されていた。もしも__二つの「伯父さん」が同じ人間だったら?

 それに、お父さんの死。手紙を読んで分かった。わたしのせいでお父さんは運河に落ちたんだ。

「それも疑わしい」

 オグマがぼそりと呟いた。

「え?」

「いや。何でもない」

 さて。オグマが立ち上がる。

「そろそろ行こうじゃないか」

「何か作戦はある?」

「ない」

 わたしは眠そうなノールと目を合わせ、同時に肩をすくめた。

「作戦も何も、なるようになると思うしかないさ。覚悟はいいか?」

「ええ。またここで寝ればいいの?」

「それには及ばない。ハリルはもうすぐそこで、俺たちを待っている」

 舟を漕いでたノールがはっと顔を上げる。

「どこに行くの?」

「すぐ近くだが、簡単には行けない所にいる」

 ノールは首を傾げた。そんな彼女にオグマが一本のろうそくを渡した。一瞬で小さな火を灯し、燭台にはめさせた。

「これを持っていてくれ」

「このろうそくを?」

「ただのろうそくじゃない。火が消えないうちは君の家を悪しき者から守る。それに旅人にとっての灯台となる」

 ノールはうなずいた。それから、わたしとオグマの手にそっと触れた。ロザは任せて。そう柔らかく微笑みながら言った。


 さあ準備は整った。あとは扉を開けて夢の中に入っていくだけ。これが最後の冒険だと分かっていた。それなのにまだわたしはレイラでもノールでもない娘のまま。さっきまでそれがすごく悲しかったのに、今は平静に受け止めている。多分、自分が誰であろうと時間はただ流れていく__そのことに気づいたからだと思う。わたしが貰った時間が沢山あるのなら、記憶を完全に取り戻すこともできるだろう。もう時間がないのなら、今のままでいる他はない。この何日かのわくわくした、腹が立った、驚いた……両腕に持て余すほどの思い出を抱えて死に向かう。それはそれできっと悪いことじゃない。


 十三になった夜、自分の運命を聞かされたわたしは、何を思ったのだろう。恨んだ? 諦めた? それともお姉さんのように強くなろうと決意して家を飛び出した? 動揺するのは当たり前。だけど今のわたしなら、逃げ出すことはよくないと分かっている。


 オグマが扉に手をかけ、わたしを見た。この人のこともよく分からないままだった。それが少しだけ惜しい。一昨日出会ってからずっとわたしを守ってくれる。赤の他人のはずなのに。お父さんの友人だったから? そのつながりはここまでお節介に働くものかしら。


 わたしは立ち上がった。扉を開いて、外に出て行った。


 ノールの庭に出た__と思っていたのに、さっきの、夢の世界みたいな壊れかけの家にいた。伯父さんやハリルが用意してくれたんだろうか。まあ随分と気が利くこと。さっきと違うのは、所々穴の空いた廊下の床板がどこまでも黒々と続いていること。

「ここにハリルたちがいるの?」

 オグマに尋ねた。だけど彼は驚愕の表情で絶句していた。

「どうしたの?」

「……何でもない」

 その時、天井に吊された明かりが点灯した。少し視界が良くなる。だけど、火は魔法のしるしだ。どんな恐ろしい幻を見せられるんだろうと戦々恐々。

 オグマは家の中を見回し、点々と輝くランプを指の先でつついてから、歩き出した。

「どこに……?」

「君がいたという部屋。あててみせようか」

 階段を一度登り、いくつも部屋がある中の一つの前でオグマは立ち止まる。

「ここだろう?」

 正解。「占い師になれるんじゃない?」

「まさか。知っているだけだ」

 何を、と聞く前にオグマは扉を開いていた。その時、オグマは部屋の中に気を取られていて、後ろにいるわたしを見ていなかった。



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