第9章 3
宵空という宝石と私たちにまつわる真実を聞かされたのは、私が十三になった夜のことだ。もう十分、分別と覚悟の出来る年齢だと判断されたのか。しかし私は激しく動揺した。人道に外れたことをしたご先祖や自分勝手な魔術師どもが許せなかった。父にも随分あたった。何日も自室に閉じこもり、食事もほとんどとらずに一人で考えにふけった。
その時、ある一つの確信が生まれた。私は、いつか必ず宵空の生贄として殺されるのだろう。父がどんなに私たちを守っても、父の友人の魔術師が魔法をかけてくれても、いつかそれを出し抜いて私を殺しにくる者は現れる。早いか遅いか、問題はそれだけだ。父だっていつまでも壮健でいられる訳ではないだろう。
生贄になるのは勿論嫌だ。だが、今までのように怯え神経をすり減らしながら生きるのと、ひと思いに人生を終わらせられるのと__一体どちらが酷いだろう?
そして私は悩み抜いた末に結論を出した。というより、身の振り方を自分で決めた。恐ろしい運命には、可能な限り抗う。そのためには、自らが強くなるしかない。武装するのだ。戦う準備だ。
こうして、貴女が何も知らず家の中で退屈を持て余している間、私は護身術の鍛錬に励むようになった。父もこの決意に賛成し、評判の良い教師を雇ってくれた。私とそう年齢は変わらないが魔術の心得もある男性だ。
今更取り繕う必要もない。貴女もよく知っているハリルだ。控えめだけど確かな実力があり、過度な美辞麗句を並び立てはしないが思いやりに満ちている。……あっという間に私は彼に夢中になった。毎日が楽しくてたまらなかった。自分の運命にむしろ感謝するようにもなった。世界は十分私に向かって開放されているように思えた。
貴女もハリルに懐いていたね。私たちが休憩している所に押しかけては、遊んでとせがんでいた。ハリルもまた、嫌な顔一つせず相手をしてくれた。本当の妹のように。
私はどうだったのだろう? 彼に妹扱いはして欲しくなかった。初めから一人の男性として、彼を意識していたと思う。ハリルに外の話をせがむ反面、女の話が出てくると不機嫌になった。当時はまだ十四の小娘だったけれど、いつかは。毎晩、閉ざされた家の外で輝いているはずの星に祈った。
その願いは聞き届けられたらしい。私が十九になった頃、ハリルから告白を受けた。君を愛することを許してほしいと。……許さないはずがない。私にも許してくださいとゆめみ心地で返事した。
けれどその頃、父が何故かハリルを嫌うようになっていた。別の教師と交代させようと言うから私は怒って説得した。その後父は必ずレッスンの場に同席した。ハリルの一挙手一投足を監視しているようで不愉快だったから、このことでは父と何度も喧嘩した。一方貴女は相変わらずハリルのことを気に入っていた。十二を越してもまだハリルと魔法ごっこをしていたでしょう。はしゃぎすぎてその後ぐっすり眠ってしまう程に。
あの事件がなければ、私はハリルと駆け落ちするつもりだった。何カ月も悩み抜いた末に宵空との因縁を打ち明けると、ハリルは私を守り抜くと言ってくれた。私もその言葉を信じていた。勿論父は許さないと分かっていたから、駆け落ちという手段をとるしかない。お小遣いを貰っていなかった(外に行かないので必要がなかったのだ)ため、私の財産はわずかしかない。ハリルから貰った耳飾りと愛用の短剣、それに高級な衣服と普段使いの衣服。準備といえば、今まで担当したこともない家事を練習するくらい。私は料理が全く出来なかったけれど、特訓のおかげで物を焼くのは一通り出来るようになった。
ところが、貴女が十三になった日の夜、全てが変わってしまった。




