第8章 3
待って。そんなはずない。わたしがレイラですって?
ありえない。
けれど、誰も否定してくれない。オグマでさえ、辛そうにうなだれるばかりだ。
しかも……何だって? わたしが、死んだ?
ロザはまだわたしを揺すぶっている。あやすように、恐る恐る。
「あなたは幽霊なの? それとも、本当は生きていたの?」
その問いに、わたしは答えることができない。
ただ黙っているだけのわたしに、ロザがとうとう爆発した。
「あなたのせいで、父さんも死んだ! あなたが殺したんだわ! 返して、父さんを返して!」
ロザが右手を振り上げた。だけどその手をオグマが止めた。ロザをわたしから引き離し、彼女の引き締まった腕を優しく捕まえながら語りかける。
「ロザ、落ち着きなさい。レイラは魔法をかけられたんだ」
ロザの叫びもオグマの声も、もう耳に入らなかった。
わたしがレイラ。わたしのせいで、父親が死んだんだ。
わたしは父親を殺した。
わたしがいた世界が、音をたてて崩れていく。わたしはなすすべもなくそれを見ているだけだ。
真っ先に聞きたい相手がいた。
「オグマさん、わたしはレイラなの?」
オグマは驚いてはいなかった。ただ、唇を噛み締め、憎々しげにこちらをにらみつけてた。
「そう……だ」
「じゃあ、父親を死なせたのも本当?」
嘘だと言ってほしかった。だけど、オグマは否定しなかった。
決して愉快じゃないのに、笑いがこみ上げてくる。
「わたしは人殺しだったのね」
けたけた笑いが止まらないわたしを見てオグマが引いている。
ほら、やっぱり! もう何もかも駄目なのね。オグマはもうわたしの味方じゃない!
「オグマさんも知ってたの? いつ?」
「それは……」
オグマが少しためらってから答える。
「ロザの手紙を読んだ時に」
「「大嫌いなレイラへ」の手紙ね?」
そうだ。わたしがレイラなら、ロザはお姉さんなんだ。彼女もわたしを憎んでいる。
視界の端に、ノールがいた。軽蔑しきった目でわたしを睨んでいる気がした。
もし何もかも夢や嘘じゃないのなら、わたしにできることは一つしかない。
「死んで償うしかないんだわ」
「待て、それは違う!」
わたしは、もう皆と一緒にいる資格なんてない。開いていた扉から外へ飛び出し、ひたすら逃げた。遠くへ、どこか遠くへ。大好きな人が誰もいないところへ。
だけど、どこへ?
わたしの味方は誰もいない、戻る家もない、あてにできる記憶すらない。あるのは家族を死なせたという事実だけ。また何もかも忘れて眠り込めたら、どんなにいいだろう? わたしはもう死んでいるのだろうか? それは、ある意味嬉しいことなのかもしれない。簡単に、何もかも終わりにできる。




