第7章 2
普段鏡の中でしかお目にかかることのない彼女も、ぽかんとわたしを見ていた。ゆったりとした寝間着姿で、長い金髪はゆるくまとめている。日に焼けた肌にそばかすが浮いていた。
どっからどう見てもわたしだ。ノール・ドマエだ。
もう一人のわたしは、ぽつんと言った。
「あんた、誰なのさ」
そばかすだらけの丸い頬に困惑の色が浮かんでいる。わたしが絞り出した声は、耳慣れない響きをしていた。
「わたしは、ノールよ」
「あたしだってノール」
わたしたちの声が重なった。
「あんたもノール!?」
後ろからオグマに肩を叩かれる。わたしを下がらせ、家を覗き込む。
「こんばんは、ノール。こんな夜中にすまない。君の伯父さんに用があるんだが」
「伯父さんの知り合い? 今はいないよ」
もう一人のわたしは少しほっとした顔になる。
「そうか、これ、伯父さんの魔法なんだね」
違う。あなたを騙しているんじゃない。わたしはノール。あなたも、ノール。……まだ夢を見てるのかしら。
ところがオグマは首を横に振った。それから、もう一人に尋ねた。
「ノール、鏡を持っていないか?」
「うん、あるけど」
丸い手鏡を渡される。もう一人の手はかすかに震えていた。
そこに映っていたのは、ノールじゃなかった。首にかかるくらいの長さの黒髪、透き通らんばかりに緑白くやせて目ばっかり大きなきつい表情の女の子が、そこにいた。わたしが口を曲げると、その子も真似をした。鏡に向かって手を伸ばすと、彼女もおずおずと同じようにわたしに触れようとした。
違う。こんな子わたしじゃない。知らない誰かだ。絶対にわたし、ノール・ドマエじゃない。
だけど、鏡の中の少女はそこにいる。わたしが髪を触ると鏡の中でも同じことをする。猜疑心に満ちた目でわたしを睨んでいる。
そうだ__わたしは、実際にすくいあげた髪を横目で見た。その途端、膝から崩れ落ちそうなほど衝撃を受けた。ずっと自分は長い金髪だと思っていたのに。今ここにあるのは烏のように黒くて細い、短い髪の毛だ。
どうして気がつかなかったんだろう。鏡をのぞかなかったから? ううん、それでも自分を見る機会はあったはず。ちょっとしたことで違和感を覚えても、忘れるようにしていたからだ。だって、髪をとかしたあの時も、手鏡を見せられたあの時も、何だかやけに不愉快な気分になった。映し出された本当の顔から目を背けたんだ。よく見れば手の形だって背格好だって全然違う。もうごまかせない。わたしはノールじゃないんだわ。




