第1章 4
ところで、ここがどこなのかってことと、夢の中身は関係があるのかしら?
父さんと母さん以外の人の話もしていい?
まずは伯父さんのこと。一昨年には四十を通り越したのに若々しく男前な顔。父さんと同じ黒髪で、薄いあごひげを生やしている。着ているものはいつも(村の兄ちゃんたちに言わせれば)「キマって」いる。おしゃれでお金がかかった恰好ってことね。きっとお嫁になりたい女の人は沢山いるんだろうな。(でも未だに独身だ。恋人が昔いたらしいけど)わたしにとっても伯父さんにとってもお互いが唯一の親類なの。
伯父さんの生業についてはよく分かんない。お金に不自由してる様子はなく、毎月決まった日におこづかいをくれる。だけど畑でもものづくりでも、何かしらで働いているところは見たことがない。
村の奥さんたちが噂をしているのを聞いたことがある。あんまり良い話じゃなかった。ならず者と一緒に歩いているのを見たとか、魔法使いだ、とか。わたしは深く気にしないことにしてる。狼の尻尾を踏むようなことはしたくないもの。
あっ、魔法使いって知ってる? あまりわたしたちの暮らしに関わりのない不思議な人たちなのよ。ふらふらとあちこちを練り歩いてて、たまにオルバにもやってくるの。うっとりするような魔法、例えば楽器をかき鳴らしたり自在に動く絵を見せてくれる。わたしたち子どもにとっては憧れの的だけど、大人たちはたいがい馬鹿にしてる。まともな仕事につけない怠け者が落ちぶれた末にありつく職、だなんて。ひっどい言い草。でも毎日ちゃんと働いてたら、一理あるって思うこともあるわ。仕事は確かにきついけど、決まったお給料をもらえる。でも魔法使いがふらふらと芸を見せてもらえるお金は日によって違うし、その額だってたかが知れてるもの。この前やってきた若い男の魔法使いがやっと集めたおひねりの量を見た時、何だか可哀想になっちゃった。いくらすごい魔法を見せてもらったって、お金を出すとは限らないんだって分かっちゃった。
伯父さんが本当に魔法使いなら、今頃あちこち旅をしてなきゃいけないはず。でもずっと同じところに住んでる。だからあの噂はやっぱり嘘っぱちなんだと思う。それでいいんだ。たった一人の親戚に、遠くへなんて行ってほしくない。伯父さんは頭がいいし、街でなんか賢い仕事をしてるんだと思う。
伯父さんは、あまり多くを語らない。いつもわたしのおしゃべりを静かに聞いてくれる。けど、しばらく一緒に暮らしていたからかな、ちょっとした目の輝きや仕草で感じてることがよく分かるようになった。姪っ子の馬鹿馬鹿しいおしゃべりをそれなりに楽しんでくれていることも、心配している時はいつもより質問が多くなることも、疲れたら肘をテーブルについて軽く眠りに入ることも、腹を立てた時は口をきゅっと引き結ぶことも。