第6章 7
「大丈夫。彼らは敵ではない」
「そいつはどうだろうね?」
スニの混ぜっ返しを流し、オグマは口を開いた。
「ならず者どもに宵空と命を狙われている。どうか助けてほしい」
ハルアとスニがふつりと押し黙る。
「奴らは、この辺の魔術師崩れどもを取り仕切って悪事を働く組織「鳥の王国」だ。カテドラルで俺たちを捕らえ、宵空やラバンの娘レイラを出せと脅した。だから、地下への入り口がある墓場まで誘導し……宝石を渡すと同時にこの子を地下へ送り込んだ」
投げ込んだ、の間違いじゃない?
「だが連中はまだレイラを探している。見つけ出すためには間違いなく俺たちを追うだろう。もうおいそれとアマンドラには戻れない」
いつの間にかわたしたちの周りには沢山の人が集まっていた。魔物たちだ。よく見ると目がぼんやりと光を放っている。それで暗闇の中でも見えるのかしら。
ふとリートを思い出した。あの子も、夜の闇の中ですいすい歩いていた__。
ハルアがゆっくりとオグマに尋ねる。
「どうして僕らの助けが要る?」
「ラバンの上の娘をとられた。一刻も早く救い出したいが、アマンドラ・ルートは使えない」
「なんで」
「奴らはカテドラルにある駅から出てきた。恐らくアマンドラ周辺の道は全て見張られている」
「見てきてやろうか」
スニが制止した。
「ばか、まだ手伝うと決めてもいないのに」
「ああ、そうだったね……」
わたしは途方に暮れてオグマを見上げた。
「一体どういうこと?」
「魔物に手を貸してもらうにはな、見返りがいるんだよ」
「そうだよ。協力してやったら何をくれる? 僕らだって忙しいんだ」
わたしはつい呟いた。「今はそうでもなさそうだけど」
「こら、失礼なことを言うんじゃない」
ハルアはもう笑っていなかった。
「オグマ……君はもう既に僕らの手を借りているんだ。だってそうだろう? 地下にこの娘を落としたのはわざとじゃないとは言わせないぞ」
僕たちが守ってくれると期待していたんだろう? ハルアは淡々と詰めた。
「この上さらに手伝わせようっていうのなら、何か大地の子に利するものを用意してくれなきゃ」
「分かっている」
大丈夫なのかしら。
「オグマさん、お金なんてあるの?」
「僕らがほしいのは金じゃない」
「じゃ、じゃあ、まさか魂とか?」
「他に何もないのならね」
「オグマさん! どうするの……?」
「落ち着け。ちゃんと考えているから」
オグマははっきりとこう言った。
「宵空という宝石を貴方たちの元へ返す。これでどうだろう?」
わたしは驚いたけど、口をつぐんだままハルアの様子をうかがった。ハルアはスニとほんの一瞬目を交わし、それからうなずいた。
「それでいいよ」
思わず口を挟む。
「待って宝石はあいつらが……」
オグマがうっすらと笑った。「あれは偽物だ。ついさっきあそこで作り出した」
偽物だったの!
「だからあんなにあっさりとあげたのね」
「そう。真相に気づくのはいつになるだろうな」
「魔法で作ったものならいずれは消えてしまうだろ。その前に全て片付けてしまわなきゃね。よし、ついておいで」
ハルアが手招きする。スニを見ると、にこりともせずに軽くうなずいた。
「わたしたち、どこに連れていかれるの?」
「大地の子の仕事場さ」
わたしはオグマに耳打ちした。「何かされたりしない?」
「何かとは?」
「その……食べられたりとか……」
ハルアがくるりとこっちを向いた。
「大地の子は人間など食べない。そもそも僕たちが毎日せっせと働いているのは人間に宝石や魔法を与えるためだ。好きな食い物はじゃがいもともぐら。それなのに何も知らない君たちは僕たちに勝手な噂をくっつけて悪し様に言う。すごく迷惑してるんだけど」
「ごめんなさい……」
魔物はじっとわたしを見て、それから言った。
「今回だけは許してあげよう」
ハルアが手を叩くと、集まっていた魔物たちは皆散っていった。ハルアとスニだけが残る。
「あの穴が危険だね」
スニが頭上を指して言う。
「今頃あいつらはあんたたちを探している。消えたからくりにもそのうち気がつくだろうよ」
「塞いでしまえたらいいのだが……」
遙か高みの出口を見上げる。どう頑張ってもあそこまで登れそうにない。ハルアが首を振った。
「あの出口がないと僕らも困る。幼子の肝試しにも使うんでね」
「だったらこうしようじゃない」
スニが松明を地面に近づけた。土壁の根元に真四角の穴がある。魔物がまた指を鳴らすと、穴は生き物のようにひょこひょことわたしたちの足下まで移動した。
「わっ」
「離れた方がいいよ。落ちたらもう戻ってこれないから」
そう言われるとのぞきたくなる。かがみかけたわたしの首根っこをオグマが乱暴につかんで後ろに引っ張った。
「こ、これは何の穴?」
「怪物の国へ通じている。ここよりもさらに地下深くにある、光の一切届かない地帯だ。怪物たちはいつも腹を空かせて獲物が落ちてくるのを待っているよ」
その時、怪物の穴の中から聞いたこともないような唸り声が聞こえてきた。鳥肌がたつほど低く、温かみのない音だった。
怪物の穴の真上に、地上への出口がある。……もし、誰かが落ちてきたら。
わたしの感じた恐怖をよそに、ハルアたちは話を続けている。




