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輝ける明けの明星  作者: 六福亭
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第6章 6

 あどけない顔立ちの女の子。まだ七、八歳だろうか。黒目がちな瞳でわたしをじっと見つめている。手足は細く、土で汚れていた。だけど一番目をひくのは、首筋やふくらはぎや手の甲から噴き出す金色の剛毛だった。まるで犬か猫の毛のような。


 彼女は首を傾げて言葉を発した。顔に似合わない低い声だった。

「あなたは誰で、そこで何をしているの?」

 どうしよう、正直に答えていいんだろうか。この子はきっと人間じゃない。怒っているのかもしれないし、わたしを食べようと思っているのかもしれない。

「あの……ええと、」

 女の子は不意に後ろを向いた。軽い足音がして、同じような背丈の子どもたちがわらわらとやってきたんだ。なんだなんだとわたしをじろじろ見ながらささやき交わす。

「人間だ!」

「人間だね」

「石をとりに来たのかな」

「馬鹿だな、この子はまだ子どもだぜ」

「お黙り!」

 最初の女の子がぴしゃりと封じる。

「あたしはこの子としゃべりたいんだ」

 静かになった。女の子にじろりと睨めつけられ、わたしは思わず両手を組んで居ずまいを正した。

「わたし……わたしは、ノール。父さんの姓はドマエ。オルバ村に住んでるわ」

「ふうん?」

 女の子は厳しい表情を崩さない。「……名乗ってもらったのだから、こちらも返さないとね。あたしは大地の子スニ。トレアの娘だ」

 大地の子? その呼称は知っている。伯父さんが話してくれたんだ。地下に住んでいる魔物のことだ。


 肌が粟立った。

「じゃあ……あなたたちは……魔物?」

 いけない。スニが眉をひそめた。何がいけなかったんだろう。

「その呼び方は嫌いだ」

「ごめんなさい!」

 スニは肩をすくめる。「別に。嫌いだけど慣れている。あんたぐらいの子どもは礼儀も知らないからよくそう呼ぶんだ。石取りのおっさんたちなら許さないけど」

 ひゃあ、ぎりぎりで許してもらってるんだ。

「わたしを食べたりしない?」

「食べてほしいの?」

 滅相もございません。

「無駄口はよして質問に答えるんだ。ここに何をしにきた?」

 スニの手には金槌があった。

「ごめんなさい、来るつもりはなかったの。ある人に突き落とされて……」

 スニはへえっという顔をした。

「突き落とされた? どうして。何か悪さでもしたのかい?」

「何も! わたしはただ宵空を作る所を見ていただけ……」

 子どもたちがざわめいた。

「宝石を作るだって? 一体誰が」

「オグマさんって人。魔術師で……わたしの恩人なの」

「待って」

 スニがひどく顔をしかめる。

「人間が宝石を作り出すなんてありえないけど……それはともかく、上は墓場だろ。どこのどいつが夜の墓で繊細な作業をしようと思うんだい?」

「や……これには深い事情があって……」

「スニ!」

 子どもたちの群れの中から、一人の男の子が進み出た。

「僕はそいつのことを知ってる。古い友人だ」

「オグマって奴?」

「そう」

 言うなり少年はパチンと指を鳴らした。すると、長い悲鳴と共に誰かが上から転がり落ちてきた。子どもたちが一斉に距離をとる。けれど、わたしには、すぐその正体がわかった。

「オグマさん!」

 かがみこむと、血の臭いがした。

「大丈夫?」

 返事はない。けれどオグマは首を動かしてわたしを見た。血で髪がはりつき、固くこわばっていたその顔が少し和らいだ。

 男の子が近づいてくる。

「久しぶりだね」

「ハルア……」

 わたしはオグマの上体を起こす。ハルアと呼ばれた少年がにっこり笑った。

「十年かそこらしかたっていないのに、人間はすぐに年を取るな」

「こんな暮らしをしていりゃあな……痛たた」

 オグマは肩を押さえてうめいた。「予告もなしに落とすのはやめてくれ」

「オグマさん。わたしの目を見て同じこと言える?」

「悪かった。とにかくあいつらから君を遠ざけたかったんだよ」

「怪我してるの?」

「ああ……」

 ハルアが小瓶を渡してきた。「これでも塗っとくといい。ところで上の墓場で何をしていたのかな?」

「そう、あたしもそれが聞きたいね」

 スニがぴしゃりと言った。「ハルアの旧友だか何だか知らないが、訳の分からない連中を受け入れることはできないよ」

 ハルアが小声でわたしに言った。

「スニは杓子定規でね……」

「あんたもまっすぐにしてやろうか?」

「いえ結構です」

 つい笑ってしまった。ハルアは物腰が柔らかく、ひょうきんだ。わたしたちのとがっていた神経を緩めるように振る舞ってくれているみたい。

 だけど、モリだって最初は仲間のふりをして近づいてきて、あっという間にリートをさらっていってしまった。この人たちだって、宵空のことを話した時、異様な食いつきをみせた。やたら愛想の良い人間は信用しない方がいい。それぐらいわたしにだって分かるようになった。


その時、オグマがわたしの肩に手をのせた。顔を見ると、すりむき傷を残したまま微笑んでいた。



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