第5章 4
何も変わったことは起きなかった。だけど、ジャネスが舌打ちして枝を放り出した。黒く焦げ付いている。
魔法はどうなったんだろう?
モリが駆け寄り、リートの肩を揺すぶった。
「母さん、失敗したの?」
「まさか! そんなはずはないよ」
だけど彼女は明らかにうろたえている。
「前と様子が違うわ。妖精たちが戻ってくるなんて」
「せっかく巣を用意してやったのに」
何だか知らないけど、魔法は失敗したんだ。希望が膨らむ。わたしは、リートに呼びかけた。
「リート君! わたし、ノールよ! お願い起きて!」
モリたちがすごい形相で振り返る。だけど気にならない。リートが眉をしかめ、小さくうめいたからだ!
よかった。何でもない人間にはなってないみたい。
モリが慌ててリートの口をふさぐ。
「母さん」
「分かってる、続きは向こうで」
ジャネスはリートを抱きかかえ、わたしを見据えた。
「あんたも来るんだ」
「どこへ?」
「どこへだって? じきに分かるさ」
「嫌よ。土下座でもするなら考えてやってもいいけど」
ジャネスが舌打ち。
「調子に乗るんじゃないよ」
ただ乗ってる訳じゃない……わたしは考えていた。魔法なんて使えない。リートも今は無理。どうしたらいい? 助けて、オグマさん。昨日みたいに。
「ノール! さっさと来るんだ」
「姉さん、言うとおりにして」
モリの声に少し怯えが混じっている。だけどわたしはその場で目を閉じた。
「何してるんだい!」
とうとうジャネスは金切り声を上げた。もうすぐひどい目にあうかもしれない。リートのように記憶を抜かれちゃうかも。ノールでない、別の人間に。
その前にせめて__わたしには何が出来る?
オグマはどこにいるかも分からない。彼を呼べるのはリートだけ。それをわたしは見せてもらった。__そう、そのやり方を!
目の前がすっかり晴れた。考えるよりも先にリートに飛びついた。モリが怯む。だけどお目当ては大事に持ち歩いている巾着なのだ。チャンスは今しかない。
当てが外れたら破滅だ。わたしは巾着を中身ごと激しく振った。中の物がめちゃくちゃに揺れ動きぶつかる音の中に、小さな鈴の音が……聞こえた!
「ちょっと、何をやっているの?」モリが鋭く尋ねた。
「オグマさんを呼んだのよ!」
「馬鹿な! あんたは魔術師でもないくせに」
わたしは何度も繰り返し巾着を振りながら言い返す。
「魔術師じゃなくてもきっと気づいてくれるわ。わたしはそう信じてる!」
ほら、もう足音が聞こえてくるじゃない?
モリ母子が顔を歪めた。その顔だけで十分。振り返るまでもない。




