第5章 水に溶け入るように
「へえ、これがその地図なのね。変なの」
リートから受け取った紙片を縦にしたり横にしたりこねくり回しながらモリはうなる。
「本当は地図かどうかもわかんないのよ」
「ううん、これは地図だと思うわ。見て」
言うなりモリは懐から小ぶりな大きさの紙を取り出した。これこそアマンドラの地図だと一見するだけで分かる。何故なら街や通りの名が飾り文字で書かれているから。
モリが二枚の地図を重ねて持つと、四隅がぴったり合うことが知れた。ここで見つけた地図の方が少し透けてるおかげで、二つの図面が重なって見える。驚いたことに、野放図に見えた名もなき線はアマンドラの道路と一致しているらしいのである。
「ね、ぴったりでしょう」
「ほんとですね」
リートが感心する。
「この紫の丸は、このお家。緑の丸は、魔術師の溜まり場の宿屋。じゃあ、赤い丸印は……」
わたしたちは一瞬黙って地図を凝視した。それから声を揃えて、
「カテドラル!」
「宵空は真っ赤なアレキサンドライト、カテドラルの印は赤。どう? もしかしたらって思わない?」
「思う!」
リートが立ち上がった。「探しに行きましょう!」
「ええ。いいでしょ、ノール姉さん?」
わたしだってすごくわくわくしてる。だけど……
「教父様に怒られやしないかしら」
「平気よ。こっそり探せばいいもの。あたしは占いもできるのよ」
「そうだったね」
モリは囁いた。「いい、大人どもには内緒よ。せっかくあたしたちが発見したものも取り上げられちゃうに決まってる」
リートも心当たりがあるようだ。うなずいている。
「あたしたちだけで、宵空もベガ家も救い出すのよ」
団結の証に、三人で手を握り合った。
脱出は拍子抜けするほど簡単だった。台所には当然勝手口がある。リートは光の灯ったランプを床に置いた。こうすれば、わたしたちが台所にいるように思わせられるんだって。
外に出ると、ぼそぼそとしゃべり声が聞こえた。
「光が消えるまでは、あのまんまなんだ」
「いいなあ。あたしはそんな魔法を使ったことないの」
モリが羨ましがる。
「でも、占いができるんでしょう」
「占いと魔術は違うわ。占いは光の魔法じゃないの」
「光の魔法って?」
モリはわたしを見てにっこり笑った。
「あのね、リートは火を灯して魔法を使うでしょ。それは光そのものに不思議な力があるからなのよ。でも、あたしたちは精霊の力を借りてこの世の全てを知るの。妖精は、木とか地面とか水とか、人間が作り出していないもの全てに住んでいるから」
「精霊……」
「一度見たらきっとびっくりするわ。きれいで素敵な生き物よ」
精霊や占いについて語るモリは、年相応の子どもに見えた。ステップを踏むような軽やかな足取りでわたしたちを誘い出す。
アマンドラのカテドラルは、今まで見た建物の中で一番大きい。首が痛くなるほど高くそびえる尖塔には夜の闇に淡い光を投げかけていた。堅く分厚い壁は純白だ。とりわけ、色鮮やかに絵が描かれた窓ガラスが美しい。わたしは思わず頭を下げた。あの中に、きっと神様がいる。
「ここ、本当に入っていいの?」
「いいの」モリはわたしの手を引いた。
「ほら、行こうよ」
「罰が下らないかしら……」
「ぼくたち、人助けに行くんですよ。罰なんてあるわけないです」
そう言ってリートもわたしを引っ張った。




