表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輝ける明けの明星  作者: 六福亭
22/66

第4章 5

 驚いて振り返ると、すぐ後ろに見慣れぬ少女__モリが立っていた。いつのまについてきていたんだろう。


 モリは見た目もとても可愛かった。アーモンド型の瞳を長い睫毛が縁取っている。背中まで長く伸ばした髪の毛は明るい茶色。赤い玉の耳飾りや少し派手なカチューシャもとてもよく似合っていた。


 大人びた笑みを浮かべ、モリは言った。

「あんた、リートでしょ。退屈だから付き合って」

 リートは瞬きする。

「いいけど……どうしてぼくの名前を知ってるの?」

 モリはくすりと笑う。

「うちの母親が話してた。魔術師オグマの秘蔵っ子だって」

 リートが赤くなった。「秘蔵っ子? ……そうかなあ」

「そうよ。可愛がられてるんでしょう」

 わたしはつい口を挟む。

「モリ……ちゃん? どうしてここに?」

 この華やかな少女に、無視されたらどうしようと思ってた。だけど心配は無用だった。

「話がつまんなかったから、抜けてきたの。あたしがいなくってもあの人たちは気にしないわ。__ねえ、宵空の話でしょ? あたしも混ぜて」

「まだ何も分かってないのよ」

「あたしなら結構知ってる。母親の話を盗み聞きしたから」

 それじゃあ、とモリを入れて三人で台所にこもった。

「あたしが聞いたのはこう。宵空は、何百年も前の人間が魔物から盗んだ物なの。赤からみどりへ色を変える、大きくてとても美しい宝石よ。真ん中に星みたいな光が灯ってるの。だけど、皆して奪い合ったものだから、手にした人は不幸になるとか、魔力があるとか噂になった。噂はどんどん広がって、欲しがる人もますます増えていった……」

 モリは、まるで見てきたかのように語る。何も知らないくせに。

「宵空を手に入れた商人が王様に暗殺されたり、その王様の宮殿に火をつけられて宵空が盗まれたり……争いは何世紀も続いたの。だけど、アマンドラのある魔術師がついに終止符を打った。それが二百年前のこと。その魔術師はね、聖火を守る神官の一人だったんだって。他の人よりも強い魔法で、宵空に群がる賊を一気に蹴散らした。そして、神殿を離れて宝石を家族と大事に守ったの。彼の名前はね、シャード・ベガ。この家の先祖よ」

「宵空がこの家に……」

「うん、そう、でも話はまだこれからよ」

 モリは戸棚から取り出したくりん草酒を飲み、また話し出した。

「シャード・ベガが宵空を守り始めてから何十年も経って、妙な噂が流れたの。彼はすごい年寄りだったのに、ずっと長生きしてる。それどころか、前より若返ったみたいだ。それに、彼の亡くなった妻や父母に会った人がいるって。シャードは何も話さなかったけど周りが騒ぎ立てたから、魔術師連盟の知るところとなった。連盟は占い機関に調査を頼んだ」

「え、どうして?」

「占い機関にはね、実力のある占い師が沢山いる。そして占い師は探し物や真実を突き止める職人。ちょっと彼らが本気になったら分からないことは何一つない。あたしが今朝何を食べたかも、あんたたちが何者なのかも」

 すごいような、恐ろしいような。

「占い師たちは、ベガ家を徹底的に調べ上げた。何人も間諜を放って何日も見張りを続けた。そして、ついに突き止めたの。死んだ人間が生き返っていること、反対にベガ家の娘たちが忽然と姿を消していること」

 その後唐突に落ちた沈黙が怖かった。

 わたしは今の話を飲み込もうとして、とっさにやめた。よく考えちゃ駄目な気がした。

 それなのに、リート君ったら。

「分かった! 娘が死んだ人の変装をしてたんだ」

 モリが溜息をついた。わたしも同情する。

「リート君……違うと思うわ」

「じゃあどういうことですか?」

「教えてあげる。占い師たちはこう考えたの。『娘の命と引き替えに死者を蘇らせたんじゃないか』って。その報告を受けた連盟は街の役人にベガを捕まえさせた。そしてついに彼は白状したの。……宵空の魔法とは、死者を生き返らせること。ただし引き替えに娘の命を差し出さなきゃならなかったんだって」


 ……嫌な話だ。何がひどいって、娘をそのために死なせたことが。わたしには理解できない。娘だって、死にたくなかったにきまってる。


 もしわたしだったら、どうだろう? 父さんを生き返らせるために死んでくれと伯父さんに言われたら? あるいは、その逆だったら? 絶対に嫌だ。犠牲になるのも、犠牲にするのも。


 リートはべそをかきかけていた。モリだって顔を歪めている。親や師匠のことを思い浮かべたんだろう。

 モリが続きを語った。

「連盟の奴らは、取り上げた宵空で試したんだって。その……言っていることが本当かどうか」

「誰かを殺したの?」

「女の罪人を使ったんだって。シャードがやった通りに、女の胸を突き刺した。だけど上手くいかなかった」

 死人は蘇らなかったのか。

「ベガ家の人間は大金を払って罪を免れた。だけど、別の魔術師が、宵空を盗んで逃げた。それっきり、行方が分からなくなっていたの」

「この家の人たちは……?」

「きっとその子孫よ」

 長い長い話を終えたモリは瓶の中身を一気にあけた。

「怖いでしょう。夜眠れなくなる?」

 確かに怖い。リートは膝を抱えて震えている。モリがちょっかいをだした。

「どうする、あんたの師匠がここの娘を生贄にしようとしていたら?」

「そんなことあるもんか」

 リートは言い返す。散々文句を言っていても、オグマにすっかり信頼を寄せているんだ。

 わたしは、あることに気がついた。

「ねえ、今の話が本当なら……レイラとロザが危ないんじゃないの?」

「ベガ家の娘たちね。皆が狙ってるでしょうね」

「その子たち、今は行方知れずなの」

 モリは形の良い眉をひそめた。

「宵空も、娘たちも? まずいかも」

「でしょう! 早いとこ助け出さないと。生贄にされちゃうかもしれない」

 もう手遅れだとは思いたくなかった。

「ぼくたちで助けられるかな?」

 モリはうなずいた。

「できるわよ、あたしたちも魔法が使えるんだもの。さっきの地図を見せてちょうだい。何かある気がするの」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ