第4章 4
階段を下りたところでわたしとリートはクビを通告された。
「お前らは台所にいるんだ。客が帰るまで決して出てくるな」
「なんで?」
「朝飯を食べていないだろう」
お客さんと一緒に食べればいいじゃない。
「それに……ややこしいことになりそうだ」
「ぼくたち、大人しくできます」
「そういうことじゃないんだ」
押し問答の果てにわたしたちは台所に押し込まれる。これまた広い。だけど、そのまま待ってられるはずがない。台所をさっさと抜け出し、足音を殺して暗い廊下を歩く。扉を閉ざした客間から話し声が聞こえてくる。
オグマの言葉に応えるのはなんと女の人の声だ。少し低く甘い。わたしはリートと顔を見合わせる。何の用なんだろう? やっぱり魔術師なのかしら。
「ここであなたに会えるとは思いませんでしたわ」
女の人が言った。
「ほう。俺のことをご存じで?」
「当然です。あなたは我々の間で有名ですもの」
有名なんだ。隣でリートが嬉しそうにうなずいている。
「それは光栄ですが。あー……ジャネスさん? あなたは一体どこの魔術師ですか」
「生まれは雪国。あなたと同じですよ。私は「占い機関」で十年間学んだのです。その後この娘を授かり、アマンドラに流れ着きました」
もう一人お客がいるんだ。ジャネスって人の娘?
「モリ、挨拶しなさい」
それから、鈴を転がしたようなきれいな声がした。
「はじめまして。モリっていいます」
「なるほど、可愛らしい娘さんだ」
オグマが言うと何だかいやらしく聞こえる。わたしの偏見かしら。
「ところで、この家に来たご用件は?」
「宵空のことで伺いました」
! また出てきた。
「あなたは宝石を代々守ってきたこのベガ家のご友人でしょう。お願いしたいことがあるのです」
「聞くだけ聞こう」
「きっと断らないと思いますわ」
ジャネスが内容を話す前にオグマは不機嫌に言う。
「生憎、俺は忙しい。断るも受けるも好きにさせてもらう」
「でも、あなたにも関係のあることなのよ。アマンドラの長官が替わったことはご存じ?」
「いや」
「そう。新しい市長は都出身の若者だけど、さる盗賊団とつながりがあって__」
何だか退屈な話になってきた。リートも同じことを思ったようだ。
「ね、戻りませんか?」
「そうね」
そろそろと客間から離れる。きっと呼びつけられることもないだろう。依頼とやらを受けるのかどうかは関係ない。それよりも、
「もしかしたら、さっきの地図は宵空の在処なのかしら」
「そうかもしれません!」
リートは服の下から地図を取り出した。
「だけど、何書いてあるのかさっぱりですね」
「ねえ、それあたしにも見せてくれる?」
凜とした声が後ろから聞こえた。




