第4章 3
それからまもなくして、わたしたちは不機嫌なオグマの前に座らされていた。
「俺が寝ている間にどこかに行くなと、何度言ったら分かる? おまけに、勝手に人の家を荒らし回って!」
わたしは何も言われてないもんね。
「君も、恥ずかしくないのか?」
かちんときた。
「じゃあ、人の家に勝手に上がり込むのはどうなの?」
「なんだと?」
「偉そうにお説教たれてるけど、オグマさんだってわたしたちと同じよ!」
リートがぱっと顔を上げる。
「そうですよっ。師匠も一緒に探検すればいいんです」
「何を馬鹿なことを……」
「そうよ。寝坊してるからいけないのよ」
オグマはとうとう閉口した。それから、リートとわたしを見比べた。
「減らず口ばかりペラペラと……」
わたしは見逃さなかった。オグマの口元は険しく引きつっているが、その端っこがわずかに緩んだことを。いいぞ、早めに解放されるかもしれない。
「オグマさんは、レイラとロザを知ってる?」
「何故そんなことを聞く?」
「どこかに行ってしまったみたいなの」
わたしはつい、レイラやロザの部屋で見たことを話した。どんな物があったか。手紙のこと。
「そんな物まで漁ったのか!」
鋭い叱責が飛んだ。
「だって……置きっ放しにしてあったもの」
返ってきたのは冷たい目だった。「泥棒と同じだと分かっているか?」
「泥棒なんかじゃないわ!」
「したことは同じだ。……もう少し分別があると思っていたが」
急に恥ずかしくなった。失望された。こんなに悔しいなんて。
リートが頭を下げる。
「師匠、ごめんなさい」
「ごめんなさい……」
「もういい。下に降りるぞ」
「待って。一つ聞いてもいい?」
「良い度胸じゃないか。何だね?」
「この家の人たちは、皆どこに行ったの?」
オグマは静かにわたしを見つめた。
「……それを知ってどうするんだ」
「どうもできないけど、気になるの。皆死んじゃったんじゃないでしょう?」
期待を込めてオグマを見上げる。オグマはゆっくりと言い含めるように答えた。
「ちょうど一年前、ラバンさんは死んだ。娘たち……ロザとレイラはそれからまもなくして行方を絶った。そう聞いている」
「どうしてそんな目に遭うの?」
オグマは、低い声で呟いた。「__宵空だ」
「え?」
オグマは口を閉じたり開いたりを繰り返す。話すかどうか迷っているみたいだった。
「この家の人間のみならず、多くの人々を不幸にした宝石があってな」
リートが身を乗り出した。
「そうだなリート、お前にもいずれ話そうと思っていたんだが」
「わたしには?」
「知りたいか?」
「うん」
オグマはますます渋面を作り、腰を下ろした。お話が始まる。だがその時、階下からガランゴロンとやかましい音がした。
これ幸いとオグマは立ち上がった。
「お客様だ」
「出るんですか?」
「居留守を決め込む訳にもいくまい?」




