第3章 2
選択肢は数え切れない。ホットケーキ、新鮮な果物、それとも大小さまざまなチーズ?
「焼き鳥、お魚、スープ……」
リート君も楽しそうだ。
「甘いのとしょっぱいの、どっちがいいでしょう?」
「どっちもいいよね、両方食べたい」
二人で迷った末、グリーンという名前の果物の盛り合わせと炙った鳥を買った。道端に座ってリートが半分分けてくれた。
「おいしいね」
グリーンは小粒だけど、果肉が引き締まっていて味もさっぱりしてる。
「あちちっ」
リートは鳥肉を食べるのに苦戦してる。皮を噛みちぎると、ふんだんにかかった胡椒がばらばらとこぼれ落ちた。指を舐めると、舌がひりひりする。
何か食べる、ただそれだけで元気がわいてくる。夢の中以外で物を食べるのは久しぶりな気がした。
「ノール姉さん」
鳥肉をやっと飲み込んだリートが問いかけた。
「この街にお友達はいますか?」
「友達というか……伯父さんがいるはず。でも、どこにいるのか分からないの」
「じゃあ、ぼくが探してあげましょうか?」
「嬉しいけど……リート君の家族は? どこにいるの?」
すると、リートは口を尖らせた。
「知りませんっ」
「今頃心配してない?」
「してると思います」
「じゃあ……」
「だから嫌なんです。過保護だから」
頑なに首を振るリート。わざとらしくわたしの顔を見上げ、
「ね、もうあっちに行きましょ」
「でも……」
「さっきの奴がいます。ほら、あのパン屋さんのとこに」
ほんとだ。あの重苦しい格好は見間違えようがない。パン屋で何かしゃべってるみたいだ。わたしたちはじりじりと距離をとる。
「パンを買ってるみたいですね」
リートが呟いた。だが男は、店主が指さすのに合わせてこっちを見た!
「ちがう! わたしたちを探してるのよ!」
わたしたちは走りだす。何度も人とぶつかり、その度に怒声を浴びた。
「待て!」
やっぱりあの男が追いかけてくる。しかも一人じゃない。似たようなカッコの仲間も一緒になって迫ってくる。
「ノール姉さん! 先に行ってください」
「駄目よ! 逃げるなら一緒に」
リートはにっと笑い、立ち止まった。
「あいつらの邪魔ならお手の物ですよ」
リートはいつの間にか小型のランプを手に持っていた。ただし中で輝いているのは火というよりも星や、鏡に映し出された太陽の光をそのまま閉じ込めたような光だった。青い光がぶわっと広がると、男たちが一斉にすっころんだ。
「こ、これも魔法?」
「はいっ。まだありますよっ」
起き上がろうとしたその上に野良猫が沢山、奇声を上げて飛び乗った。
「ね、行きましょう」
「ええ!」
しばらくは追いかけてこられないだろう。狭い路地に飛び込み、とにかく走った。少しでも離れられるように。




