第1章 目覚め
ほのぼの異世界ファンタジーと思います。
主人公たちが生きているところでは、太陽は淡いみどり色をしています。また、日食や月食が頻繁に起こります。そうした時、人々は何日も暗闇の中で生活しなければなりません。
太陽の光がささないと、地下深くに潜んでいる怪物が、地上に出てきては人間や獣を食べようとします。彼らは光を嫌うため、夜や日食の時は、家に閉じこもり、火を灯し続ける必要があります。
この声は、本当にあなたに届いているのかしら? わたしには分からない。いつ、誰がここに来てくれるのか。そんな時は永遠に来ないのか。だけど、別にどうだっていい。
わたしはわたしのために、こうして時間も光もない部屋で、天井に向かって話し続けるから。
おはよう。わたし、ノールっていうの。え? ノールなんて子知らない? お前は何者だって? うん、混乱するのもわかる。
だって、わたし自身、今何が起きてるのか分からないんだもの。
ほんのちょっと前、わたしは劇的に目を覚ました。幸せに見ていた夢の中で突如、世界を揺るがす大声が響いた! 気がついた時にはわたし、毛布の上に直立してた。足下がふらついて、また柔らかい毛布に座り込む。どきどきする胸をなんとか落ち着かせ、深呼吸して_そしてようやく、自分がどんなところにいるのか気がついた。
初めて見る殺風景な部屋の中に、たった一人で寝ていたみたい。部屋の中にあるのは洒落た刺繍をあしらったふかふかの毛布と、背もたれのない椅子、椅子の上に置かれたランプぐらい。窓も、箪笥や行李も、鏡もない。
はて。わたしはここで何をしてるのだろう?
ここがどこかも分からない。自分で歩いてこんなところに来た覚えはない。ということは、寝ている間に誰かに運ばれたのかな。げげっ、いつの間にか自分の物でもない寝間着を着てるよ。着替えさせたのは男じゃなきゃいいんだけど。
頭を振ると、ずきずきと痛んだ。長く眠り過ぎたのかもしれない。自分が何者かはよく分かっているはずなのに、昨日何をしていたかが思い出せない。
やっぱり、なんだか嫌な予感がする。知らないうちにとんでもない悪事に巻き込まれてるんじゃないかって。この辺り……って、今どこにいるのか分からないけど、少なくともわたしの村の周りには、やくざな連中が徒党を組んで旅人に悪さをしてるって噂があるし。やだな、だんだん怖くなってきた。どうしよう、ならず者にとっ捕まってどこか遠くの国に売られるところだったら? 困ったな。わたし、外国語なんてしゃべれないよ。
……だけどそもそも、わたしなんかをさらって何の得があるのかしら。とりたてて可愛くもない。髪の毛はかなり長い金髪だけど、癖が強くて、見た目や触った感じはまるで柳の枝だ。魔法が使えるわけでも、何かものすごい特技(例えば、お手玉をしながら木の枝の上で踊りを踊れる、とかね)があるわけでもない。父さん母さんは病で死んで一人暮らしだから、お金だって勿論ない……自分で言ってて、何だか悲しくなってきたわ。
まあとにかく、そんなこんなでわたしは、訳の分からない場所で訳の分からないまま目を覚まして訳の分からない状況にあるの。よかったら、あなたも一緒に考えてほしい。これから何が起きるのか?
(「あなた」って。誰もいないのに。昔から、わたしはよく頭の中にいる誰かに話しかけてるの。返事はいつだってないけれど)
わたしに分かってること、それは「今まで」のこと。つまり、ノールという少女の物語。だけど、わたしだけが知っててもしょうがないから、これまでのことをできる限り話して(つまり、思い出して)みようと思うの。時間はたっぷりあるみたいだし。殺風景なこの部屋は、強いて言うなら牢獄みたい。もしかしたら本当にそうだったりして。知らないうちに悪いことしちゃって、寝ている間に捕縛されちゃった。とか。もしそうだったら、こんな呑気にしてる場合じゃないかもしれないわね。